第2話 姫、ご命令を!

『ごめんなさい! 魂がロボットに定着してしまったのです! 我は、その定着するにふさわしいコアとなるパイロットを探していまして、あなたにたどり着きまして! まさか、亡くなるだとは思いませんで』


 ひたすらペコペコと、ハンドレオンは頭を下げていた。


 本来なら、コクピットを新たに作って、俺に乗り込んでもらうプランもあった。

 なるほどね。『転移』パターンで探していたのか。

 だが、俺が死んでしまったので、プラン変更と。

 ロボットそのものに転生する形になってしまったわけだな。


『どうなさいます、ヒナトさま? ダメージを負いたくないなら、このままただの鉄の塊として一勝を終えるという手も』

「さ、さ……」


 俺は、ワナワナとノドを震わせる。


『……さ?』


 ハンドレオンが、怯えだす。


「最、高じゃねえか!」

『にゃあああ!』


 俺が叫ぶと、ハンドレオンが驚いて飛び上がった。

 やっぱりネコだよなぁ。


「素敵すぎるアイデアだぜ、ネコちゃん! やるやる! やってやんよ!」


 本当は俺、ロボそのものに憧れていたのだ。


 自分が合体し、変形し、武器換装し、敵の野望を打ち砕く。


 過去の作品にもあったな。

 日本のマシンに宇宙人の魂が入り込んで、ロボに変形するタイプのアニメが。

 あの感じを連想すればいいだろう。

 ロボの魂か。すばらしいな。やってやろうじゃん。


『ヒナトさま。あなたのようなケースは、初めてみました。姫に呼びかけてください!』

「俺が? あんたじゃダメなのか?」

『我の声は、姫には届かないのです! それに、姫の命令がなければ、ヒナトさまは動けない! 姫が命を失ったら、終わりなのです!』


 それなら、わかった。


「ぬう、それより姫は!?」


 リオノーラ姫は、サイクロプスの殺人的な攻撃をかわし続けていた。

 握りつぶされそうになったら、指を蹴って回避する。

 踏み潰されそうになったら、足の付根を蹴飛ばして相手のバランスを崩す。


 それらの行動を、お姫さまはヒールを履いたままで行っていた。


「待って。姫、強いじゃん! 俺は必要か?」


 まあ、一人で戦ってきたっぽいしなぁ。強いのは確かかも。


『リオノーラ様は特務機関:DDD《トリプルディー》の准責任者ですから』

「特務機関?」

『ああいった【機動獣】なるモンスターを、どうにか相手にしてきた機関です』


 普通のファンタジー世界における、『冒険者ギルド』的な存在らしい。


『しかし、ほとんどの者は【ブラック・モンストレム】が最近開発した【機動獣】に倒され、今やまともに活動しているのは姫様のみでして』


 姫が動けるのも、サイクロプスの動きが単に鈍重で単純なだけだ。

 ピンチなのには、変わりない。攻め手にも欠ける。

 やられるのは、時間の問題だ。


「姫、ご命令を!」


 試しに俺は、姫に呼びかけてみる。おお、声が機械っぽい!


 俺の声が聞こえたのか、姫が振り返る。


 よく見ると、姫の手首にはブレスレットが。

 おお、いかにもメカメカしいデザインじゃねえか。

「ロボットとコンタクトを取る用」って感じで、カッコいいぞ。

 児童向けのおもちゃ、っぽいチープさもいい。

 これくらいシンプルな方が、普段使いとしても最高ではないか。


「あなたは、勇者さま?」

「そうなるのかな? 俺は機械闘士ヒナト。あんたの味方だ。しかし、ちょっと困っている。動けないんだ」

「動けない……わっ!」


 ブレスレットの宝石から光が伸びて、姫が驚く。


 ロボである俺の額に、ブレスからの光が当たった。

 文字が大量に送られてきている。

 ふむふむ、この世界の言語や、魔法文字みたいなのが、大量に情報として送られてきた。

 それも一瞬で。

 俺に、何かを教えようとしているのか? 

 わかった。これ『トリセツ』じゃん!

 そうか、これが注文した『サポートデバイス』なのね。

 なになに、うーんと。使える武器・装備と、特殊技能ね。


「リオノーラ姫よ、あんたは俺に命令ができる! 姫よ、ご命令を!」


 力の限り、俺は姫に呼びかけた。


『ムダだ、姫よ! あなたをなきものにすれば、この巨人は一生ただの硬い鉄の塊のままだ! オレサマも一目置かれるってもんよ!』


 サイクロプスよ。解説ありがとう。


 このトリセツによると、俺にはいわゆる『セーフティー』がかかっているんだと。

 リオノーラ姫のような「有資格者」にしか、俺を制御できない。

 一度目覚めさせてもらったら自由の身になる。

 しかし、初期設定で姫とコンタクトし、「姫の支配下になる」ことが条件だ。


 そりゃそうだろう。

 ヘタに暴れてみれば、姫の信用はガタ落ちだ。

 いくら怪物を倒すためといえど、街を壊せば姫が批難されるのだから。


「さあ、ご命令を! 手遅れになる前に!」


 はやくしてもらえませんかね、姫。


『イカン! リオノーラ姫よ、お覚悟を!』


 サイクロプスの目が光る。

 何か、光線が出るような熱が集まっていた。やべえ! 


 姫は大きく、息を吸い込んだ。


「勇者ヒナトよ、わたくしの国を、助けてください!」


 雄々しい姫の雄叫びが、俺を呼び覚ます!


「了解!」


 俺の身体に、力がみなぎってくる。

 動けるぞ。身体に力が入っている。

 これなら!


「とう!」


 スライディングで、姫の前に回り込んだ。


 やはり、サイクロプスは目から光のブレスを放つ。


「マジック・フィールド!」


 敵の光線に向けて、俺は手を広げて腕を伸ばす。


 黄色い魔法障壁が手の前に現れ、サイクロプスのブレスを弾く。


『ぬうおお、貴様、何者だ!?』

「ん、俺か? 俺はヒナト・イロリ……ん?」


 そのとき、俺の頭にロボットの名称が浮かぶ。


 なるほど、お前の名前はそうなんだな?


 これはロボットムーブでいうところの、見得を切る場面ですねぇ。



「教えてやろう! 俺の名は……『幻想機神 ダイデンドー』だっ!」



 さっき、ブレスレットから教わりました。

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