幻想機神 ダイデンドー ~ロボに転生した俺は、美少女の力を借りて強くなる。しかし、みんな俺の操作権を主張して仲良くしてくれない! 仕方ない。テーマソングでも考えるかな!(現実逃避)~

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

第一章 転生門を開ける度に、ドキドキする

第1話 あなたが、ロボになるのです

 俺は慎重にレバーを操作して、ガレキの下にいるネコに金属製のアームを伸ばす。


「よし、今助けてやるからな!」


 救助隊に所属する俺は、燃えた工場のガレキ処理をしていた。


 この工場内の薬品が爆発して、火災になってしまったとか。

 昼休み中の事故で犠牲者は出ていない。

 火も消し止められている。

 が、工場主のお嬢さんが飼っているネコが行方不明に。


 そのネコを、俺は救い出そうとしていた。ロボットに乗りながら。


 真っ昼間なのに、空がじっとりと薄暗くなってきた。

 雨粒が目に入る。やがて、肩まで濡らしてきた。


 急がないと、場所がぬかるむと作業もしずらくなる。


 ひとことでロボットと言っても、鉄パイプを組み立ててできたパワードスーツのようなものだ。

 それでも、生身の三〇倍は馬力がある。


 俺が作ったパワードスーツのおかげで、こんな大火災でも誰一人犠牲者を出さずに済んだ。


 でもいつかは、本物の合体巨大ロボに乗りたい。パワードスーツどころじゃない。

 合体して、変形して、悪いロボットと戦うロボを、いつか作る。

 カッコいいだけじゃない。できれば、人の役に立つロボットを。


 焼け跡に取り残されたのは、このネコで最後だ。

 ここの工場主のお嬢さんが飼っている、大切な家族らしい。

 火の手が回らないうちに、助け出さないと。


「ヒナト、気をつけろ! 建物が崩れそうだ!」

「待ってくれ。もう少しだから」


 怯えていたネコが、ようやくロボットの前足に飛びついた。


「やった! 投げ飛ばすから受け取っ――」


 外で待機している救助隊にネコを放り投げた瞬間、足場が崩れる。


 そこで、俺の意識は途絶えた。ただ、全身をガレキに押しつぶされたのはわかる。


 絶命したのに、不思議なくらい冷静だった。



 あー、死んでしまったか。

 身体に感覚がない。まあ当然なんだが。死ぬってこんな感じなんだな。


 これがネット小説だったら、「あなたを転生させます勇者よー」とか呼ばれるんだろうけど。


 できればロボのパイロットとして目覚めさせてください。

 他は不遇キャラでもOKだ。俺自身にスキルとか必要ないんで。


「目覚めてください、勇者、いろり 穂斗ひなとよ。あなたを転生させます」


 ええええええ!? 来たぜ、俺の時代が来たぜ!


『どうも、さっきはありがとうございました。そのお礼に参った次第です』 


 ぽわわーっと光っている物体が、俺の眼前に。


「あんたは?」

『我は先程助けていただいたネコです』

「それは、どうも」


 って、驚くところだよな、ココは。


「ちょっと待て。じゃあ、お嬢さんが飼っていたネコは?」


 まさか、死んでしまったのでは? 助けられなかったなら、残念である。


『無事です。月極駐車場の外車の上で、日向ぼっこしていたそうですよ』


 なあんだ。助かったならいいか。


『よかったのですか? 犬死ですよ?』

「あんたを助けることはできた。ならいいじゃねえか」


 犠牲者が俺だけで済むなら、たいしたもんだ。


『我が国の神が、あなたをお選びになった理由が、ようやくわかりました』


 ネコが、かしこまる。


『我の名はハンドレオン。こう見えても、リオノーラ・デッカー姫より遣わされた使い魔です』


 こんな姿だが、元はライオンの化身だとか。


『本来なら、あなたを安全に向こうの世界へ転移させる予定だったのですが、地球という星は我が国の霊力が及ばず、我の力は失われてしまいまして』


 ハンドレオンと名乗った異世界のネコが、ひらすら俺に謝る。


「ネコが何の用だ?」

『助けてくださったお礼に、あなたの人生をやり直してもらおうかと思いまして』 


 ほほう。話を聞く限り、いわゆる転生ってやつをさせてもらえるらしいな。


「そうかぁ」

『お好きなスキルを差し上げますよ』


 いわゆる無双系ってやつか。いいねいいね。


「ロボに乗りたい。操縦技術を」

『はい。付属しました』

「あとは、そうだな。ロボに注文は出せるか?」

『もちろん……えっ? あなたご自身のスキルは、よろしいので?』

「ロボが強いほうがいいだろ?」


 リアルな感じのタイプも捨てがたいが、ファンタジー世界だろ?

 やはり勇者っぽい頑丈なやつがいい。


 俺は、別に強くなくていいかな。強いに越したことはないが、元のロボットが主役だ。


「俺が操縦するロボは、基本的に強いのがいい」

『乗り込んだロボが強くなるというユニークスキルですね。かしこまりました』

「サポートもほしいな。現地のトリセツみたいな。言葉とかわからんと困るし」

『はい。追加しておきました』 


 なんでも注文を聞いてくれるんだな。さすが神様って感じである。


「腕を飛ばしたい」

『承知しました。手配します』


 その他、胸から光線を出したい、鉄壁の防御力が欲しいなど、色々と注文を出す。


『とにかく、あなた自身よりも、あなたの乗ったロボに各種武装を追加しました。あなたが入り込んだロボは、すべてあなたの注文通りの力を得ます』

「やったぜ」

『ですが、本当によろしいのですか?』


 シリアスモードになって、ネコが問いかけてきた。


「なにがだ?」

『今、我々の世界【ブレイビア】は、悪しき機械生命体ロボットの軍団【ブラック・モンストレム】によって壊滅の危機に瀕しています。勇者を探しているときに、あのようなトラブルに出くわしまして』


 悪いロボット軍団だって!?


「わかった。そのロボ軍団をやっつけろっていうんだな?」

「はい。でも、図々しいお願いです。あなたは、また命を落とす危険も」

「いいんだ。ロボに乗れるんだろ?」

「ええ。まあ」


 やったぜ。ロボに乗れるなら、最高じゃないか。


「とはいえ、歯切れが悪かったな。なにかトラブルが?」

「……ロボットがお好きのあなただったら、きっと幻滅されるかも」


 なにが、問題だというのか。


「コクピットがないのです」


 というと? 外から遠隔操作するタイプか。どんとこいだ。ロボの顔の横から、指示を出してやるぜ。


「改めて、俺はいろり 穂斗ひなと。音読みすると『ろぼっと』になるぜ!」

「ありがとうございます、ヒナトさま。我が名はハンドレオン。我が主リオノーラ姫の使いです。ではあなたを、『ロボの魂』として異世界へ召喚しますが、よろしいですね!」

「おう。『パイロット』はロボの魂だよな! よろしくな!」

「重ね重ね、ありがとうございますヒナトさま。では、世界を救ってくださいませ。よろしく!」


 目覚めると、俺は身動きが取れない状態だった。


 ここはどこだ? なにかの高台のようだ。はるか先には、海が見える。


 よく見ると、祭壇っぽい? 祀られているのは、どうも俺が入り込んだロボらしい。


 それにしても、見るからに二足歩行型のロボットだ。

 もっと西洋甲冑然とした、クラシックなデザインかと思ったが。

 存在感はあるが、街の景色とのギャップで違和感バリバリだ。


「おお、目が光りました! やりましたよ【聖獣】ハンドレオン! 召喚は成功です!」


 金色の姫ロールヘアの少女が、俺の足元で祈りを捧げている。

 白いドレスが眩しい。

 彼女が、さっきハンドレオンが言っていたお姫さまか。

 リオノーラさまだっけ?


 横にいるのは、ロボットのオスライオンである。

 ひと目で、こいつがハンドレオンだとわかった。ずっと姫の側から離れないから。

 ライオンにしては大きい。五メートルはあるだろう。


 しかし、少しも安心はできなかった。謎の金属製の腕が、ここの祭壇をラリアットで壊したからだ。


 出現したのは、一つ目のバケモノである。


『こんなところにいたのか、我がブラックモンストレムに抵抗してもムダだ! 小国の姫よ! おとなしく、我が軍門にくだるのだ! そうすりゃ、痛い目に遭わなくて済むぜえ!』


 バケモノが、王女に手を伸ばす。


 お姫さまのピンチだ。さっそく機動を! 


……機動を。


 おっ、なんだ? マシンのトラブルか?


「くそ、動け!」


 動かない。

 わかるのは、鉄でできたヨロイの巨人ということだけ。

 しかし、像のようにまったく身動きが取れなかった。


 でも、造形はいいぞ。

 まごうことなきロボットだ。全長は、約二〇メートル前後くらいだな。

 動けない以外は、何もかも最高だな!


「どうなってるんだ? 動かないじゃないか」


 操縦桿はどこだ? スイッチは? 


 それに、やけに視界がひらけているな。


 これじゃあまるで、自分がロボになってしまったような……。


『そうです! 今のあなたは、機械闘士ヒナト!』


 ハンドレオンが、俺に向かって吠えた。


『あなたが、ロボそのものになったのです!』

「ほ、ほう……」

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