第141話 2人で、力を合わせて

 ニナが作り出した障壁とカルシナの攻撃が衝突。


「そんなおもちゃ、俺がぶっ壊してやるよ!」


 すると、後方にいたアッカルドが、誰もいない場所で剣を力任せに思いっきり振りかざす。

 闇の力をまとっている剣から、光線のような攻撃が俺たちに向かって行く。


 アッカルドの攻撃とニナの障壁が衝突。


 ミシミシ……と音を立てながら攻撃を防ぐ。


 そして、攻撃に徐々に押され始め障壁に少しずつひびが入っていく。

 やはり、攻撃は完全には防ぎきれなかった。


「ああ……」


 ニナの声が聞こえる。まずい、攻撃を回避しなきゃ──。

 俺は、障壁が破壊される前にウィンを抱きかかえてこの場を離れる。


 最初に飛び跳ねた瞬間──。


 ドォォォォォォォォォォォォォォォン


 ニナの障壁は攻撃に耐えきれずに破壊。俺達が元いた場所を中心に大爆発。

 大きな爆発音とともに、俺たちの肉体が大きく宙を舞う。


 攻撃こそ防げなかったものの、ニナの障壁は俺達が逃げる時間を作ってくれた。


 ニナの障壁がなかったら、俺たちの命はなかっただろう。


 しかし、それでも大ダメージを受けたことに変わりはない。

 大きく体を吹き飛ぶ肉体。


 その後、地面に落下。ニナのおかげで、時間が作れてうまく着地することが出来た。その分、衝撃が和らぐ。

 ウィンを抱きかかえながら地面に転がった。まずい、一か所にいるとそこを狙われる。


 ゴロゴロと転がりながら、数メートル先の地面に倒れ込んだ。着地した後には、別の攻撃が直撃。

 そのままあの場所にいたら、跡形もなく肉体がなくなっていただろう。


 それでも、相当魔力も体力もしょうもいしたことに変わりはない。もう一回同じ攻撃を食らったら、勝負はついているのが直感でわかる。


 向かい側に、ボロボロになっているウィンの姿。

 相当ダメージを追っているの。ウィンも、もう持たないくらい消耗している。


「はっはっは! ざまあみろガルド!」


「これから、じっくりといたぶってやるからヨォ。覚悟しろよな!」


 2人は、まるで勝ちを確信したかのようにニヤついた笑みを浮かべながらじっくりと、歩いてこっちへ近づいてきた。


 全く警戒した様子はない。こっちがボロボロなのを理解しているのだろう。


 まずい、こっちに来るまでに何とかしなきゃ。


 もっとも、このままではどうすることも出来ないわけだが──。


「ガルド様──」


「ウィン」


 ウィンが、倒れ込んだままこっちに視線を向けて手を差し伸べてきた。

 そっと、俺もウィンも手を合わせる。


 不思議と、負ける予感はしなかった。ウィンとなら、たとえどんな壁があっても乗り越えられるような気がした。


 どうしてかは、よくわからない。ウィンが、俺の心を落ち着けてくれているからなのだろうか──。


「ウィン──」


「ガルド……様」


 ウィンの指。ボロボロで傷だらけ……。

 柔らかくて、繊細で細くて冷たい。とってもウィンらしい手。


 でも、不思議と心が落ち着く。ウィンが一緒にいるってだけで、不安な感情は自然となくなっていった。そんな感情に浸っていると、ウィンは話しかけてきた。


「私が、力になります」


「何?」


「私が、ガルド様に力を与えます。それで、戦ってください」


「できるの?」


 確かに、ウィンなら自分の魔力を俺に供給することはできる。しかし、今のウィンにそれができるのか。


 もうボロボロで、限界に近い。それでも、ウィンは強いまなざしで俺を見つめてくる。強い想いがあるのがわかる。


「やります。私──絶対力になります」


 そう言って、コクリと頷いてくる。

 俺に、直接力を供給するといって来るのだ。


 考えてみれば、さっき戦った時。力も早さもあと1歩という所だった。もう少し力があれば──という感じだった。それなら、ウィンの力があれば互角に戦えるかもしれない。


「ウィン、出来る?」


 険しい表情で、問う。

 とはいえ、ウィンも相当消耗している。俺のために──という思いで必死になっているのがわかる。


 あまり時間はかけられない──。なにより、ウィンが必死になっているというのに、俺が手をこまねいているわけにはいかない。


 苦しいのは確かだけど、ウィンの方がもっと苦しい思いをしている。


 行かなきゃ──。


 うつろで、ふらつきながらこっちに向かって来る。

 ウィンとアイコンタクトを取った後、俺は剣を向けた。


「マジかよ、まだ戦う気かよ」


「どうせ勝てないんだから、あきらめろよ」


 2人は、勝ちを確信しているのだろう。余裕たっぷりの態度をとっている。

 そして、舌をなめずりして1歩1歩こっちに近づいてくる。


 俺は、膝を立ててゆっくりと立ち上がる。


「そんなわけにはいかない。こっちには、戦わなきゃいけない理由がある」


「後ろのチビ女のことか?」


「それもある。けど、それだけじゃない」


「ヒーロー気取りが」

 2人の言葉に、毅然と言い返した。


「俺とウィンならお前たちを超えられるということだ」


 俺の身体が、温かい。ウィンが、力をくれているというのがわかる。

 今までにないくらい、体に魔力のオーラがたまっているのがわかる。


 これなら、行けそうだ。

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