第140話 闇の力との戦い

「簡単に言うと、代償があるんだ。だから、止めなきゃ」



「え──」


 俺の言葉に、戸惑っているウィンを横目に、俺は2人に向かって叫んだ。


「お前ら、そんなこと言ってる場合じゃない。いいからその力を捨てろ!」


 必死に叫ぶものの、2人は全く話を聞かない。

「ああん?? どんな冗談だよ。やっとお前たちを始末できる力に会えたんだ、そんなことするわけねぇじゃねえか、この馬鹿どもが!」


「そうだそうだ、このヒュドラ様の力に怖気図いたなら、正直にそう言えばいいんだよ、このくそ雑魚!」


 2人は俺の忠告に、聞く耳を全く持たない。全く相手にしない。予想はしてたが、ここまで無視されるとは。



「ガルド様、説得なんて無理です」



「気持ちはわかるけど、さすがに無茶よ! 」 


 ウィンと、後方にいるエリアが叫ぶ。確かに、そうかもしれない。でも、無茶でも、やらないわけにはいかない。


 明確な、理由があるからだ。

 それは、2人の表情からも一目瞭然だった。


 2人の肉体から発せられる魔力が強くなるのと比例して、2人の表情が無表情になっていく。

 まるで、表情そのものが消えていくかのようだ。


 そして、口をぶるぶると震わせた後、ガタガタと音をあげて意味不明な言葉を発し始めた。


「うばばばばばばばばばばば」


「あびびびびびびびびびびびびびb」



 目の焦点は、全くあってない。何があったのか、わからない。

 少し考えて、理解した。闇の力特有の、代償のようなものだと。


「な、何でしょうか……」


 怯えるウィンに、冷静に答えた。怖がりながらも、キョトンとしているのがわかる。


「あまりに強すぎる力に、意識が飲み込まれてしまっているんだ」


「え──」


「心が弱かったり、欲望にまみれたやつが安易に闇の力に手を出すとこういうことが起こる」


 確か、以前の戦いでも同じようなこと起こった。

 強い力にあこがれて裏切ったEランクの冒険者。


 他の幹部の誘惑にあらがえず闇の力を手に入れ、俺たちに立ち向かってきた。

 そして、何とか苦戦をしながらもそいつをあと一歩まで追い詰めた時、同じようなことが起きた。


 視線がうつろになり、奇声を発した後──彼の意識が全くなくなった。


 恐らく、今回も同じようなことになっている。


 もはや、あの二人の意識はないといってもいい。

 事実、2人の目から光が消えていて、意志を全く感じない。

 焦点も明らかに合っていない。


 もう、あの力を俺たちにぶつけるだけの、魔力の供給先としての価値しかない。これが、闇の力に魂を売った代償の1つだ。魔力の強さに、体全体が負けてしまい、同化してしまうのだ。


「ウィン、来るぞ!」


「はい!」


 そしてこいつらは、魔力の意思通り目の前の生き物を破壊する機械でしかなくなってしまう。

 うつろな目つきで、一気に突っかかってきた。


 ウィンが攻撃を放つが、こいつらが剣をふるうとウィンの放った攻撃を一瞬で打ち消した。


 再び力任せに剣を振りかざしてくる。



 まずい──。こいつらは、相当パワーアップしている。ウィンのもとに向かわせるわけにはいかない。


 すぐに、2人の前に立ちはだかった。


 2人の攻撃を、一気に受ける。


「くらぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


「しねぇェェェ!」



「ぐはっ!」


 何だこれは──。攻撃を受けた瞬間、思わず声を吐いた。


 威力が、異次元に違う。


 特に奇襲をしたりするわけでもない、真正面からの何のひねりもない力任せの攻撃。

 本来、受けるだけなら造作もない──のだが。


「なんだ、そんなへっぴり腰じゃあ、俺たちに傷一つ与えられないぜぇぇ!」


 その威力が、今までにないくらい圧倒的に強い。全く受けきれない。


 それでも、2人の攻撃に必死に食らいついていく。相手がいくら強くても、あきらめるわけにはいかない。


 俺が突破されれば、攻撃を受けるのはウィンだ。接近戦が出来ないウィンでは、一瞬で勝負がついてしまうだろう。


 だから、苦しくても逃げるわけにはいかない。懸命に攻撃に耐えていく。


 しかし──。

 あと1歩速さが足りない、あともう少し力が足りない。


 攻撃を少しずつ受け続け、消耗していく。


 俺の力だけでは、2人に勝てないのか──。

 そんな思いを胸に、何とか2人の攻撃を耐えながら、何とか反撃のチャンスをうかがおうと攻撃を耐えていく。


「オラオラオラァァァァァァァァァァッッッ──!!」


「そんなへっぴり腰じゃあ、かすり傷一つつけられないぜぇぇぇ」


 攻撃を受けづつけるのも、限界が来てしまった。

 また、競り負けて身体を吹き飛ばされてしまう。


「センパイ!」


 ニナの大声が、この場にこだまする。こんなところで、負けるわけにはいかない。


 それでも、2人に向かって立ち向かう。


 しかし──。


 スッ──。


 カルシナが俺の頭上を飛び越え、一気に後方へ。その先にいるのは。


「まずは、あのチビ女からだぁぁぁ」


 ウィンだ。ウィンが接近戦が弱いのを理解して、先に始末しようとしたのだろう。

 慌ててウィンの前に立つ。


「ガルド様!」


 直撃──と思われた瞬間、俺とウィンの目の前に大きな盾が現れた。


「センパイ!」


 直後、後方からニナの叫び声が聞こえた。一瞬だけ振り向いたが、ニナの弓矢が今までにないくらい強く光っている。


 ニナが、力を振り絞って俺たちを守ろうとしてくれたのだろう。

 ニナが作り出した障壁とカルシナの攻撃が衝突。


「そんなおもちゃ、俺がぶっ壊してやるよ!」

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