第95話 グラーキとの、激闘


「さあ、行くぞ!」


「先輩。援護します」


 後方からニナがそう叫ぶと、ニナは竜巻に向かって弓矢を放つ。



 ただの弓矢ではない。魔力を伴った物をめがけて、追跡する機能を搭載していくタイプの特殊な弓矢。


 ニナが出せる矢の一つで、かなり特殊なタイプだ。

 矢は一本一本ずつ障害物をとらえていき、破壊していく。

 そのおかげで襲い掛かってくる障害物の数が半分くらいまで減った。

 これなら、よけながらでもグラーキに向かっていける。


 乱気流のような竜巻の中、吹き荒れる障害物を時には踏み台にして、時には飛び越え切り刻んで、両足に魔力を込めて飛び上がっていった。あっという間にグラーキの正面へとたどり着く。


 一度グラーキと見合うと、グラーキは俺をじっと睨みつけてくる。


 分厚い魔力の膜。

 俺にそれが敗れるのか不安になる。後ろにいるビッツも同じだろう。でも、やるしかない。


 勇気を出してグラーキと刃を交えていく。


 力と力のぶつかり合い。


 剣に魔力を込めて、何度も魔力の衣を切り刻んでいく。グラーキは俺たちの攻撃にあらがうかのように衣をさらに出現させ、防御をかさねていく。


 それだけではない、時折口から光線を吐いてきて、反撃に出てくる。

 それをかわしながら、少しずつグラーキの衣を徐々に削っていく。

 確かに俺だけでは力不足かもしれない。それでも、あきらめるわけにはいかない。今はおとなしいが、いつこいつが街を責めるかわからない。そしたら、被害を受けたり犠牲になるのは街の人達だ。


 そんなことは絶対に避けなければならない。俺もビッツも全力の力で必死にグラーキに攻撃を仕掛けていく。


 そして、俺とビッツが同時に攻撃を仕掛けたその時。


「何──?」


「しまった!」


 グラーキが突然体勢を変え、右手で俺の身体。左手でビッツの身体をつかんでくる。


 突然の事態に対応できず鷲掴みにされてしまう。そして、なんと背中からもう2本の腕が生えてきたのだ。


 何とか振りほどこうと体をもがくものの、圧倒的な力の差にどうすることもできない。

 グラーキは勝利を確信したのか、にやりと気色の悪い笑みを浮かべた後、生えてきた腕を振り上げた。


 俺のこの攻撃を防ぐすべはない。肉体を木っ端みじんに吹き飛ばされて終わりだ。

 もし俺が、一人で戦っていたならば──。


 グラーキが勝利を確信し、殴りかかろうとしたその時──。


 グサッ──。


 何かがぶっ刺すような物音とともに、グラーキが何かに気が付いて自分の身体を見た。


「私のこと、忘れていましたね?」


 ニナが、クラーキの心臓を後ろから突き刺したのだ。

 もともとニナは、接近戦には向かない。まず弓は接近戦向けの武器ではないし、ニナ自身も肉弾戦は得意としていない。だからグラーキとの戦いでもサポートに回らせていた。


 しかし、ニナは俺たちに負けないくらいの大きな魔力を持っている。そして、それを生かして強い火力で敵たちに大打撃を与えられる。

 だから、俺たちがうまく隙を作ればニナでも至近距離からの攻撃ができる。

 俺たちがある程度グラーキにダメージを与えれば、ニナの魔力ならグラーキの身体を貫ける。


 グラーキは、そのまま力なく地面に落下し、倒れこんだまま動かない。

 俺たちも地面に着地。ニナにハイタッチをする。


「ありがとう、ニナ」



「えへへ~~ありがとうございますぅ」


 ニナは、顔を赤くして頬を抑えてれている。ニナが嬉しんでくれて何よりだ。でも──」


「カップルさん、喜ぶにはまだ早いぜ」


「わかってるよビッツ」


 そういって再びグラーキの方を向いた。ビッツの言葉通り、まだ戦いは終わってない。

 グラーキの身体から感じるオーラが、まだ消えていない──いや、さっきよりも強くなっているのがわかる。


「本番なんだろ、これからが」


「そう、なんですか……」


 言葉を返すニナの口調に、恐怖の感情があるのがわかる。

 俺たちは、一斉にグラーキを見つめる。グラーキから発せられる魔力は次第に強くなっていき──。


 グォォォォォォォォォォォッッッッッ──!!  ヴァァァァァァァァッ!!


 大きな叫び声をあげて、立ち上がってきた。そして、一直線にこっちへと向かって来る。

 そのスピードが、さっきより明らかに早い。


「とりあえず応戦だ!」


 俺とビッツが前に出て反撃に出る。

 さっきまでの要領で対応していくが──。


「やっぱり強いな、ガルド」


「ああ」


 俺もビッツもちグラーキのパワーに押され気味になる。

 さっきまでとはけた違いのパワー。全く対応できない。致命傷は免れたものの、力負けして大きく吹き飛ばされてしまう。

 しかし、あきらめるわけにもいかない。すぐに立ち上がって体勢を立て直す。

 それからごくりと息を飲んで、再び立ち向かっていった。


 しかし、ただ立ち向かってもグラーキの障壁や反撃を潜り抜けることができない。

 そう、ただ立ち向かっただけでは──。

 一度ビッツとアイコンタクトをとる。ビッツがコクリと頷くと、俺は右から、ビッツは左から攻め入る。これならどっちかが攻撃されてもどっちかは


 両腕が塞がった形となる。実行のチャンスだ。


「ニナ!」

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