第96話 ウィンの力
両腕が塞がった形となる。実行のチャンスだ。
「ニナ!」
思いっきり叫ぶと、ニナが突っ込んでくる。本来近距離戦闘には向いてないが、こうでもしなければ戦いにならない。
もちろん、何かあれば俺がニナの代わりに攻撃を受けるのだが──。
俺とビッツが、何とかグラーキの攻撃を受け、ニナがそのスキを縫って攻撃を放つ。
ニナは──全力で戦っているのがわかる。少しでも力になろうと。
しかいニナの放った攻撃は、グラーキが作った障壁に阻まれる。
「うそ──、全然通らない」
唖然とするニナ。今は、ニナの中でも全力に近い攻撃。
これでダメならニナでは突破は不可能ということだ。
さっきとは比べ物にならないほどの魔力。
確かに、俺たちでは勝てない。そう、俺とビッツ、ニナでは──。
予測はしていた。グラーキはもともと、二つの形態があった。最初の形態も十分強い。しかし、その状態のグラーキは仮の姿。相手が消耗した状態で真の状態となり、そのスキをついて相手を全滅させるのが得意戦術となっているのだ。
これが、本当のグラーキだ。最初の形態に苦戦しているようでは、今のグラーキに勝つことはできないだろう。
そう、今のままでは──。しかし、もう一人いる。俺たちと一緒に戦う、頼もしい仲間が──。
その仲間がいる後ろを振り向いて、大きく叫んだ。
「行くぞ、ウィン!」
「はい──」
ウィンが元気よく、言葉を返す。
作戦通り、ここでウィンの出番になる。
真っ暗な闇夜の中でウィンが、光って見える。
背後から、淡い光がどんどんウィンの方へと集まっていく。ウィンの、力。人々の魔力を一手に吸収する力が発動したのだろう。
様々な人々から集まる魔力によって、ウィンの身体は少しずつ光を強くしていく。
それだけじゃない、魔力が一つとなってどんどん強大なものになっていってるのがわかる。
深呼吸をしながら精神を落ち着けさせるウィン。動揺したり怯えている様子もなく、目をつぶってじっとしていた。
それを見て、感じた。
これがウィンの強さなのだと。これは、ウィンにしかできないことだ。
もし、俺やほかの冒険者がおんなじことをしていたら、身体が魔力に耐え切れず、吹き飛んでいただろう。当然だ、冒険者何百人という人たちの魔力を一身に集めているのだから──。
でもウィンは、そんな力を受け止めきっている。少し、額に汗を浮かべて息が上がっているが、ウィンならまだ耐えられる。
そんなウィンをずっと見てきて、感じることがある。ウィンには俺にはない素晴らしい長所がある。容量だ。
誰にでも優しく、思いやりがある。周囲を愛し、慈悲の心を持つそんなウィンだからこそ、この作戦ができるのだ。
今ウィンがみんなの想いを受け継ごうと、杖を宙に向かってあげる。
力がみなぎり、ウィンを包んでいた光が杖に集中し始める。
杖は今までにないくらい、人々の願いのこもった魔力を集め、強く光っていた。その光が、真っ赤に光る雷撃へと変化していく。ウィンの象徴である赤い稲妻。
ピリビリと、杖の周りを途方もない魔力から返還された稲妻が回っている。これだけの強力な力、多分ウィン以外では出せない。
そしてウィンが、深呼吸をした後杖を今までにないくらい強く振り下ろした。
「みんなか願っている、平和への強い思い──届け! 光の架け橋。シャイニング・ラポール」
ウィンが持っている杖から、ウィンの力である真っ赤な稲妻が発射された。
今まで、見たことが無いような巨大で壮大な魔力を感じる。
グラーキも、ウィンの力を感じたのかウィンが放った攻撃に対して剣を振り上げた。
剣から感じるのは、今までにないくらいの強大な魔力。
そして、剣を振りかざすとウィンが放った稲妻に向かって光線が飛び出してくる。
2人の放った攻撃が衝突する。まるで、どちらの想いが強いかを競うかのように。
ドォォォォォォォォォォォォォォォ──ン!!
結果は、一瞬だった。両者の全力の衝突には、一瞬の拮抗すら生まれなかった。
ウィンから解き放たれる大きな稲妻が、クラーキの放った攻撃を一瞬で消し飛ばす。
そして、一瞬でその力がクラーキの身体に直撃。今までにないくらいの、強大な爆発音を上げクラーキの肉体が爆発。
「グォォォォォォッッッッッ──グァァァァァァァァァァァァッッッッ!!!!」
もがき苦しみ、のたうち回るグラーキ。
「危ない。とりあえず下がろう」
「わかりました、先輩!」
ニナやビッツと一緒に、この場から退避。変に暴れているグラーキから攻撃をもらわないようにするためだ。
ニナと一緒に、グラーキの最後を見た。なぜかニナが手を握って体をくっつけてくる。
グラーキは大暴れし、悪あがきするようにのたうち回る。
しかし、次第にその動きは弱くなっていき──やがてこと切れたのかピクリとも動かなくなった。
強大な敵が消滅したことで、この場の雰囲気が変わる。後方から、冒険者たちの歓喜の声が聞こえる。
「やったぜ。俺達かったじゃん」
「俺達じゃねぇだろ。ウィンちゃんのおかげだろ」
「そうよ。後、前線で戦ってくれた人たち。私たちは、あくまでおまけよ」
後ろにいるタツワナの冒険者達が謙遜して喋っているが、そんなことはないと思う。
みんなが力を合わせてくれたからこそ、ウィンが力を発揮出来たのだ。
エリアが、戦いを終えたのか彼らの方に寄っていく。
「あんた達だって、頑張ればできるわ。自信を持ちなさい」
そう言って、笑顔を作った。
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