第94話 激戦の始まり


「大丈夫。みんなの思いは、絶対に無駄にしない。信じてくれ」


 強く言葉をかけると、しぶしぶといった感じで納得してくれた。


「──わかったよ。信じてるからな」


「ありがとう」


 何とか、この場は収まる。そして大きく手を振って彼らと別れた。

 彼らだって、本当はもっと役に立ちたいはず。それを我慢して、ここにいてくれるというのだ。


 彼らのためにも、絶対にグラーキを倒そう。

 拳を強く握って、強く決意。





 それから、しばらくあるいて再びグラーキの元へ。

 グラーキは逃げてなどいない。俺たちが戦った場所に、まるで力をためているかのように荒野に居座っていた。


「行こう──」


「はい」


 コクリと頷いたニナの表情が、いつもより険しい。

 やはり、気配から強さを理解しているのだろう。ニナだけじゃない。エリアとビッツ、そしてウィンもだ。


 今までにないくらいの強敵。気を引き締めてさらに歩く。


 俺たちがグラーキの方へ接近していく。グラーキが目を開けて俺たちを視界に入れた。グラーキの方も、俺たちの気配を理解していたようだ。


 そして、ゆっくりと立ち上がる。


 こっちをにらみつけてきて、敵意を向けているのがはっきりとわかる。


「見たことない迫力です」


「怖くなった? ニナ」


 杖を持っていた手が震えていたので試しに聞いてみると、ニナは杖を強く握り直して答えた。


「大丈夫です。心配しないでください」


「わかった」


 まあ、ニナだって今まで強い相手と戦っていた経験がある。信じよう。



 あと一歩でもグラーキに近づけば、グラーキは戦う意思があるとみなして襲って来るだろう。


「お前ら、準備はいいか?」


 ビッツの声掛けに、全員が反応する。


「任せて!」


「エリア案の言うとおり、大丈夫です。やります」


「じゃあ、行くぞ!」


 そして俺たちが武器を手に取り、戦いを始めようとしたその時──。


「何か来たぞ!」


 ビッツの言葉通り、このあたり一帯の地面が紫色に光り始めたのだ。

 何かが起きると直感的に感じた俺たちはすぐに臨戦態勢に入った。そして──。


「なんでデュラハンがいるんですか?」


 ニナが驚いて、周囲を見回る。その言葉通り、いきなりデュラハン達が出現してきたのだ。


「あわてるな。グラーキの手下だ。この前戦った時もいた。大した強さじゃない、油断せずに戦えば負けることはない」


「けど、グラーキだって強いんですよね? こいつらの相手をしながらというのはさすがに──」


「ニナ、おそらくそれが目的だ。ただの脳筋というわけでは、ないようだな」


 ただでさえ強敵であるというのに、大量のデュラハン。デュラハンを出現させたのは、俺たちをグラーキとの戦いに専念させないための作戦だろう。


 しかし、それも想定している。彼女の出番だ。

 エリアが一歩前に出た。


「雑魚の相手は、私が引き受ける」


 エリアが、そう言ってデュラハンたちを相手取り始めた。


 確かに、エリアは全体攻撃が得意な一方、攻撃は火力不足だったりしてグラーキとの相手は厳しいものがある。


 それならば、俺たちが戦いに集中できるように周囲に敵たちの一層に当たった方がいい。チームの最適解を考えれば、正解ともいえる。


「じゃあ、行ってくるわ!」


 そういってエリアがデュラハンの群れに向かって突っ込んでいった。

 エリアの実力なら、デュラハン相手にやられることもない。一体ずつデュラハンたちをなぎ倒していく。


「おい、俺たちも行くぞ!」


「ああ、そうだったな」


 エリアの活躍を、無駄にするわけにはいかない。ニナ、ビッツとともにグラーキの元へ。


 足元まで近づいていくと、威圧感がすごい。ニナの表情が険しくなって、軽く足が震えているがわかる。


「大丈夫? じゃあ、打ち合わせ通りにいくよ」


「大丈夫です。私は──」


 ニナが、コクリと頷いた。どうやって戦うか、すでに計画を立ててある。細かいところはその場で対応するものの、大体は考えている。


「じゃあ、行くぞ!」


「おう!」


 そして、俺たちの戦いが始まった。まず突っ込んでいったのは俺とビッツ。


 グォォォォォォォォォォォォォォォォォォ──。


 突っ込んで言った瞬間、グラーキは俺たちを敵と認識。けたたましい叫び声をあげて襲ってきた。


「かわすぞ!」


「ああ」


 殴りかかってきた攻撃を俺は右、ビッツは左方向に一気に交わしていく。前回のように、俺一人で戦っているわけではない。

 的を絞り切れず、攻撃が分散している。これなら、俺でも十分に戦える。


 ビッツの力があってこそだ。グラーキは、ただ殴るだけでは俺たちを倒すことができないと判断したのだろう。


 拳を足元に地面に突き刺した。


 豪快な音を上げ地面をえぐられたと思うと、グラーキの身体の周囲が灰色に光り始める。

 光り始めた灰色は、グラーキの身体を中心に回転し始めやがてそれに合わせるように風が吹き始めた。


「竜巻が来るぞ。気をつけろ!」


「わかったよ」



 昨日ビッツに説明したとおりの強力な竜巻。

 再びクラーキの周りに大きな風がうずき始めた。それは、竜巻となり俺たちに立ちはだかってくる。

 大きな竜巻。自分一人ならば、絶対に乗り越えられないであろう


 しかし、今回は違う。しっかりとした策がある。


「さあ、行くぞ!」

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