第93話 尊重


「先輩──他人のことを思いやっているつもりで、結局自分の考えを押し付けているだけじゃないですか!」


「え──」


 真剣な表情で、ニナが見つめている。突然の事態に、言葉を失ってしまう。まさか、ニナからこんなことを言われるなんて、思ってもみなかった。


「いつもあれはダメ、これはダメって──。私だって一人の人間です。先輩の人形ではありません。意志を持った人間なんです」


「私も思った。ガルド、あんたが私たちやウィンちゃんをよく思っているのはわかってる。けど、私たちだって同じくらい周囲のために役に立ちたいって思ってる。ガルドの優しさってのは、時にそれを殺しちまっていることになってるんだよ」


 ぐうの音も出ない。何も言い返せずこの場が沈黙に染まった。

 エリアの言うとおりだ……確かに、そうかもしれない。ウィンのことを想っているつもりで、実は自分の正しいと思っていることを押し付けているだけになっているかもしれない。


 ウィンだけじゃない、ニナもそうだ。ニナも、大事な後輩として大切に扱ってきた。けれど、それはニナにとって窮屈になってしまっていたかもしれない。


 大きく息を吐いて、後悔する。もうちょっと、ウィンの感情を尊重してあげた方がいいな。

 ニナも──。ただ守ってあげるだけが大切にするってことじゃない。相手の意思を時には無茶だと思ってもしっかりと尊重することだって大切にするってことなんだ。


 一人の対等な人間として、接する必要がある。二人の言葉が、とても参考になった。


「ありがとう、ニナ。エリア」


「は、はい──」


 ニナの顔が真っ赤になる。よほどうれしかったんだろうな。

 ニナのおかげで、決心ができた。ウィンだって、一人の冒険者だ。そのウィンが、自分の意思で戦うことを決めている。

 それなら、ウィンの意思を尊重してあげよう。



「ニナのおかげで、決断できたよ。ウィン──信じてるよ、お願いね」


「──わかりました。成功するように、頑張ります」


 コクリと頷くウィンの表情が、どこか自信に満ちていた。



「じゃあ、グラーキを倒せる見込みもできたみたいだし──シャフィーの奴のところに行こうか」


「そうだな」


 グラーキへの勝ち筋が見えてきて、この場の雰囲気がどこか明るくなる。

 それから、俺たちはシャフィーの元へ。


 ウィンの力と、それを利用する作戦を立案。最初こそ疑心暗鬼だったが、ウィンの強い瞳でやり遂げるという意思を伝えると、シャフィーは信じてくれた。


「まあ、他にめぼしい策がないのも事実だ。それで行こう」


「ありがとう。全力で、努力するよ──」


 大丈夫。何時もウィンといる俺だからわかる。ウィンなら絶対にやり遂げられる。

 信じよう──。



 そして、正式にグラーキと再戦することが決定。

 ギルドの中が、その話題で持ちきりとなる。


「やっぱ、戦うんだな。武者震いがしてきたぜ」


「勝てるといいな……」


 再び戦うことへの喜び半分、恐怖半分といった感じだ。声の中には、あんな強い化け物と戦ったことがないという声も聞こえた。


 恐らく、彼らに勝つという、強い敵に力を合わせて勝つという自信がないのだろう。

 グラーキに勝って、彼らに「自分たちだってやれるんだぞ」という自信をつけさせてあげたい。






 翌朝。再びグラーキがいる場所へ。

 俺やウィン、ニナたち。それにシャフィーに、たくさんの街の冒険者たちが荒野を歩く。


 正直、どれくらいの冒険者が一緒に戦ってくれるか不安だった。強い敵である以上戦いを拒否する人がいてもおかしくはない。


 しかし、ふたを開けてみればほとんどの冒険者が賛同してくれた。シャフィーの強い呼びかけもあったとはいえ、これはうれしい誤算だ。


 少し手前で、先導をしていたシャフィーが後ろを振り向く。


「取りあえず、お前たちはここまでだ。お疲れ様」


 どこか顔を膨れさせていたり、不満そうな様子なのがわかる。彼らは力にはなってもらうが、直接戦いには参加しない。

 グラーキほどの敵ではただバラバラに立ち向かったところで、集団で戦う効果はほとんどないといっていい。

 連携というのは、どうしたって時間がかかる。即席でやったところで、すぐに瓦解してしまう。闇雲に被害を増やす結果になるだけだ。

 それなら、彼らは力の供給を行ってもらい、戦いは俺たち──そしてウィンに託した方がいい。

 説明したときは、一緒に戦えないことに残念そうにしていた。



「まあ、力になれるのは、ありがたいですけど、やっぱりみんなが戦うってのに俺たちは後ろにいるってのは、いい気分ではないっすね」


 今も、冒険者の一人がそんなことをつぶやいていた。

 しかし、それに関してはこっちも譲るわけにはいかない。


「ただ、戦術というものがある。別に何もしないと言わけじゃない。ただ──いつもと同じようにただ戦っても勝ち目は薄い。それは、わかるだろ?」


「まあ、今までにないくらい強いってのは、わかります」


「だから、ただ戦うだけじゃダメなんだ。みんなの力を、合わせる必要がある」


それなら、こっちには参加させない方がいい。別な方法で、力になってもらう。

別に、何もさせないというわけではない。いつもとは、方法が違うというだけだ。


「大丈夫。みんなの思いは、絶対に無駄にしない。信じてくれ」





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