第83話 背中を見せる


「おい、シャフィー」


 声をかけると、シャフィーはこっちを向いて驚いた表情をする。


「ガルド。なんでここに?」


「ちょっと、この子のことで用があってね」


「ああ、これか」


 そう言ってシャフィーは小指を立てて俺にみせてくる。茶化すような言葉に、冷静に返した。


「──そんなんじゃないから。で、お前は何でここにいるんだ?」


「お前と似たようなものだよ。俺みたいな名が知れたやつは、王族が権威を持つのに邪魔だから追放になったんだ。冒険者が全体に強くないタツワナ王国へ指導のために出向という形でな」


 思い出した。シャフィーは俺と同じパーティーで元国家魔術師。しかし、俺と違い半ば強制的に国外への出向を命じられたのだ。

 拒否しようものなら家族が危険にあうと脅され仕方なく首を縦に振るしかなかったんだっけ。


「そうか──」


「んで、タツワナは冒険者達が全体的に未熟。S,Aランクの奴はいなくてBランク相当が数人いる程度。戦いに経験のあるやつが不足状態。で、経験のある俺が隊長に抜擢されたということだ」


 なるほど。シャフィーはAランク相当の力があり、周囲へ配慮も出来る。指揮官役としてはぴったりの配役だ。


「まあ、お前が戦ってくれるなら大助かりだ。頼むぜ。この国の奴らだけじゃ、頼りないと感じていたところだ」


「わかった」


 思わぬ旧友との再会。シャフィーの存在に希望の光が見えて来た。

 まあ、この国の状態がどうであれ全力を出さなきゃいけないことに変わりはない。


 久しぶりの旧友との再会に感傷に浸っていたが、いつまでもそんな気分でいるわけにはいかない。そろそろ戦場に行こう。

 俺はウィンの肩を優しく持つ。


「じゃあ、行ってくるよ」


「はい──ご武運を」


 そして、ウィンから手を放して戦場へ──。


 ウィンのためにも、絶対に勝ってくる。

 草原を歩いていると、目的の敵は現れた。


「あれが魔物だ」


 槍を持った冒険者が前方に視線を向けた。俺もそっちに視線を向ける。


 ボロボロで朽ち果てた甲冑を着た姿の騎士。それがおよそ100人ほどだろうか。

 いや、確実に人間ではない。なぜなら、首から上が無いからだ。


 見たことがある。魔王軍の兵士『デュラハン』だ。魔物らしく、灰色っぽい魔力をその肉体に宿している。


 そして、目がついていないはずなのに体が俺たちの方を向いた瞬間──。


「こっちに向かってきたぞ」


 隣にいたシャフィーが周囲に叫ぶ。

 デュラハン達がこっちに向かってきているのだ。とうとう戦いが始まりそうだ。


「なんだよあの数、見たことねぇぞ」


「勝てんのかよ」


 予想以上の数に、冒険者達に動揺が広がる。

「おい、戦うぞ。何怯えてるんだ」


 シャフィーが叫ぶものの、冒険者達は周囲に様子を見るばかりで誰も向かってこない。その間にもデュラハン達はこっちに向かってくる。


「そうだ怯むな。こいつらはそこまで強くない、みんなで立ち向かえば、必ず勝てる」


 慌てて冒険者達に向かって叫ぶ。

 こいつらは集団で向かって来るものの、強さ自体はそれほどでもない。油断せず戦えば、負けることはない。

 みんなで逃げずに戦えば、必ず勝てる。


「俺が先頭に立つ。みんな、後からついてきてくれ」



 それが、俺にできる最高の言葉かけだった。全体の指揮を取ったことが無い俺が考え出した言葉。それがこれ。一緒になって戦おうと、先陣を切って突っ込んでいくこと。


 背中を見せる──みたいな感じだ。

 そして、デュラハン達との交戦が始まる。


 先陣を切って、剣をふるっていく。シャフィーも参戦。

 俺もシャフィーも、次々とデュラハン達を切り裂いていく。


 そこまで強くない。並程度といった感じだ。


 そして、俺が有利に戦っているのを見て、他の冒険者達も次々と戦い始める。


 皆、戦いの経験が浅いのだろう、拙かったり苦戦をしている姿が目立つ。

 とはいえ、デュラハン達は雑兵といった感じでそこまで強いわけではない。


 この程度の数なら、街の冒険者達でも十分に対応できる。

 冒険者達は少しずつ、デュラハン達を撃破していく。


 みんな、逃げずに戦ってくれている。最初は不安だったけれど、自分たちの街のためならしっかりと戦えるんだ。


 俺も、油断せず一体一体デュラハン達を討ち取っていく。


 向ってきたデュラハン達を薙ぎ払い──真っ二つに切り裂いていく。


 気が付けば残りは半分ほど。こっちはそこまで消耗していないからこのままいけば敵たちを倒しきれる。

 希望が見えかけたその時。



 シュゥゥゥゥゥゥゥゥ──。


 俺達が戦っている荒野の少し先あたりから、大きな音が聞こえ始める。

 それから、紺色の光の柱が現れた。


 天に届きそうなくらい高く、幅は十数メートルもあるかというくらい広い。


 戦っている冒険者達もそれに気が付いて、視線が行く。


 紺色の光が弱まると、その中に大きな物体があった。

 いや、物体ではない。動いている、生きている。


 にらみつけるような視線で、こっちを見てくる。

 感じる威圧感、他の冒険者たちに動揺が広がる。


「な、何だよあれ……聞いてないぞ」


「でかすぎだろ。見たことない…」


 禍々しい外見。大きな翼。


 何十メートルという巨体。筋肉質で、禍々しいフォルム。

 全身をオーラのように包んでいる灰色の光からは、今まで出会ってきた魔物の中でも一、二を争う強い闇の力を感じた。


「な、何だよあれ」



 ☆   ☆   ☆


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