第82話 旧友
周囲をキョロキョロと捜して、誰かいないか探す。
ちょっと後ろに、剣を持っていて、小ぎれいな印象の人がこっちに向かって歩いてきているのを確認。
恐らく冒険者だ。
ちょっと振り返って聞いてみる。
「すいません、場所ってわかりますか?」
「歩いて一時間ほどだってさ。俺も良く分からんけど」
男の人はそっけなく答える。言葉からして、彼もあまり情報を知らないようだ。
大丈夫なのか、心配になる。何というか、アバウトだな……。
「まあ、いっしょについて行けばわかるよ」
「ありがとうございます」
荒野を通り過ぎる。視線のかなたには高い山々、地面にはひざ下くらいまで生い茂っている。
そんな草原が広がる場所。視線を周囲に広げると、俺達と同じように戦場へ向かおうとする冒険者がちらほら。
剣や斧、弓矢を持っている人たち。全体的に、亜人の人が多い感覚だ。
皆、バラバラになっていたり楽しそうに会話をはさんだりしている。
歩きながら、ウィンが不安を漏らす。さっきよりも、背筋がちょこんとだけ丸まっている。
「私──戦えないのに、役に立つんでしょうか──」
ウィンは、杖に視線を向けながら話しかけてくる。
どこか、不安さ感じさせる表情。
取りあえず、ウィンに自信を付けさせないと。
敵の強さは分からないが、ウィンにとっては久しぶりの戦い。いきなり前線で戦わせるのはまずい。
まずは戦場の感覚を取り戻させるため、後方で俺を支援してもらおう。
ウィンにそのことを説明。
「今回は、リハビリも含めて後方での俺の支援。よろしくね」
「──わかりました」
ちょっと元気がない。少しでも気持ちを前へ動かそうと、声をかける。
「大丈夫だよ。ウィンなら、しっかり役に立てるって信じてるから」
作り笑顔で、自信を持って言葉を返す。
ウィンは、戸惑うような表情で言葉を返して来た。
「でも、ガルド様だけ前線に立って、私は後ろにいるというのは、考えてしまいます」
そう、今回のクエスト。後方ということは、ウィンは直接戦闘に加わらない。
安全な所から、ウィンの魔力を俺に供給してほしいと頼んだのだ。
ここに来る途中、ウィンがどんなことができるのかあらかじめ聞いていた。
その中で、ウィンが特定の相手に魔力の供給ができることを耳にした。
まだ未熟で、一人の相手であまり遠くだとできないということだが──。
ウィンは、どこかやりきれない表情をしている。理由はわかる。
俺達が前線で戦うというのに、自分は安全なところにいるというのが嫌なのだろう。
ニナと同じだ。ウィンも、そう言う感情があるのだろう。
優しく両肩に触れて、言葉を返す。
「今回、ウィンはクエストは久しぶりなんだし本格的に復帰するのはもう少し後にした方がいいと思って──」
そう、さっきも言ったがウィンはブランクがある。まずは戦場に慣れておくことが必要だ。
いきなり戦場に来させて戦わせるよりは、まずは補助的な事で後方につかせて感覚を取り戻させてから復帰をさせた方がいい。
準備運動のようなものだ。
「わかり……ました」
ウィンは、どこか腑に落ちないような表情でコクリと首を縦に振った。
「まあ、ウィンならすぐに実践に戻れるよ。今回は、サポートよろしくね」
「……わかりました」
そして俺達は改めて正面を向く。
「来ましたね……他の人達」
「そうだね」
俺達と同じように、魔物たちから街を守ろうと続々と冒険者達がこの場所に集まっていた。
ざっと、数十人。街の規模を考えれば、それなりの人数ではあるのだが──。
「大丈夫ですかね……」
ウィンも、俺と同じ感情を抱いたのだろう。心配そうな表情で、ボソッとつぶやく。
何というか──放牧的なのだ。
楽しそうにけらけらと笑っていたり──。悪ふざけをしていたり、まるでピクニックに出も来ているような感じだ。
持っている武器もそうだ。
例えば弓は金属の部分が錆びていたり、矢がちょっと曲がっていたりしている。
剣も、整備が行き届いていなくて刃こぼれしていたり、欠けていたり。
それなのに、その人たちに不安であったりそれを気にしているようなそぶりはない。
やはり、地方だけあって俺達がいた国ロディニアと比べると差があるように感じる。
本人たちは戦う意思があるようだから口には出さないが、やはり心配になってしまう。
とはいえ贅沢は言っていられない。いつも、自分たちに都合のいいように物事が回っているわけではない。
限られた条件の中でも、自分の力を精一杯出して最善の結果を出すことだって俺達の仕事だ。
そんなふうに考えていると──。
「あいつ、シャフィーだよな」
「誰ですか?」
予想もしなかった姿の人物に、思わずつぶやいた。
「俺が国家魔導師だったとき一緒に組んでたやつだ。危機察知能力、周囲への指導なんかは王国でも1.2を争っていたな。行ってみよう」
長身で筋肉質。顎に無精ひげを生やした男。自分の身長くらいの、長い槍を武器として持っている。俺達といた時よりも頬がやつれていて、どこかつかれているような印象。
俺より数年年上で、パーティーでも頼れる存在だった。
近付いて、話しかけた。
「おい、シャフィー」
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