第84話 グラーキ

 禍々しい外見。大きな翼。


 何十メートルという巨体。筋肉質で、禍々しいフォルム。

 全身をオーラのように包んでいる灰色の光からは、今まで出会ってきた魔物の中でも1、2を争う強い闇の力を感じた。


「な、何だよあれ」


「強そう」


 怯えだす冒険者たち。

 さっきまでの勝利気分は消え去る。

 顔色は青ざめ、恐怖がこの場を支配し始めたのがわかった。


 俺も、見たことがある外見に強く剣を握りしめる。こいつとは以前、戦ったことがあるからだ。


「みんな、あれは『グラーキ』だ。今までの敵とは違う、本物の強敵だ。心してかかろう」


「グラーキって、魔王軍でもすげー強かったって有名な?」


「ああ」


 二刀流の冒険者が話しかけてきた。彼はおそらく、魔王軍と戦ったことがあるのだろう。


 俺も、その時に出会った。

 知性は動物並みだが、力は魔王軍でも1、2を争う力がある。それで、戦いのたびに周囲を破壊しつくし大暴れをしていた。


 何人もの冒険者がこいつの前で散っていったことか──。

 俺達が戦った時もランクの高い冒険者達を何十人も総動員して、ようやく倒したという代物。


 グラーキとの戦い。あの時はグラーキが致命傷を負い、どこかへ逃げ出したという形で終わった。

 グラーキのオーラから分かるが、あの時より明らかに弱体化している。


「ガルド。あいつ、俺達といた時より弱くなってるよな」


「魔力から察するに、半分程度だなシャフィー」


 それなら、今の状態でもなんとか戦いにはなりそうだ。

 とはいえ、それでも強敵であることに変わりはない。気を引き締めてかからないと、負ける。


「弱体化しているようだが、それでもタツワナの奴らには手が余る。厳しい戦いになるぜ」


「そうだなシャフィー。じゃあ、あきらめるのか?」


 俺の問いに、シャフィーが苦笑いをして答えた。


「冗談。やるに決まってんだろ。ここで逃げたら、被害を受けるのは街にいる一般人だ」


「ああ」


「突撃するぞ。全員、グラーキに突っ込め!」


 シャフィーが叫ぶと、冒険者達はオロオロと周囲に視線を向けた後、1人また1人と魔物へ向かって走っていく。


 一斉にではなく、周囲を気にしたりしながら。


 攻撃も、集団で攻めたりすることはない。バラバラで、それぞれが自分のやり方で攻撃を繰り返しているような形だ。


 明らかに、統率が取れていない。こういった強い集団での戦いを経験していないというのがわかる。指揮官だけでは、どうすることも出来ないのだろう。


 とはいえ、それでも街を守りたいというのに変わりはない。


 彼らから放たれた攻撃が、グラーキへと向かっていく。

 しかし、所詮はバラバラで個人ぎ任せの攻撃。グラーキが障壁を自分の身体の目の前に張る。


 攻撃は全てその障壁に防がれ、攻撃が通ることはない。

 この程度の攻撃では、グラーキの傷を負わせることすらできないのだ。


「なんだよあれ」


「やっぱりつぇぇじゃん」


「マジかよ。全然攻撃が通らねえ」


 冒険者達の中に動揺が広がる。シャフィーと俺はそれに構わず突っ込んでいく。


「ああ、こいつは強敵だ。心してかかれ!」


 シャフィーが見方を鼓舞するため声をかけていく。

 周囲への声掛けができるのも、隊長に選ばれた理由だろう。


 すると、グラーキがこっちに向かって大きく口を開ける。そして、開いた口の中から今まで見たことが無い強い魔力を感じ始めた。


 開いた口から出現したのは、紺色の光。

 すぐに感じた。


「おい、こっちに撃ってくるぞ。攻撃だ、迎え撃つ」


 その言葉に冒険者達。ある者は障壁を張り、またある者は攻撃の呪文を放とうとしている。

 恐らく、それで防ごうとしているのだろうが。


「それじゃあだめだ、逃げろ!」


 思わず冒険者達に叫ぶ。いくら弱体化したとはいえ、魔王軍でもかなり力があった存在。

 その程度で防げるはずがない。


 しかし、草原地帯で逃げ場などない。他に防ぐ手段などなく、口の紺色の光が強くなっていく。

 そしてその光が光線となってこっちへと向かっていく。


「仕方がない──」


 大きく剣を振りかぶって、剣に全力で魔力を注入する。


 ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!


 魔力の塊をグラーキが吐き出した光線に向かって飛ばした。

 かなり魔力を使ってしまったが、何とか相打ちになった。


 すぐに、轟音と衝撃波が一瞬にして始める。


 爆風で木々がなぎ倒され、激しく土煙が立ち込め、各所から冒険者達の悲鳴が沸き上がる。


「なんだこいつ──つえぇぇ」


「全然勝てそうにねえ」


 ボロボロになって、武器を捨てて逃げ惑う冒険者も出始めた。

 一人、また一人と──。

 あっという間に戦線が崩壊し始める。



 まずい──。

 最悪の事態だ。


 慌ててグラーキに向かっていく。


 正直、一人で相手にしていいレベルじゃない。けれど、ここで引き下がるわけにはいかない。

 ここで逃げたら、被害を受けるのは何の罪もない人たちだ。


 ウィンがいる後ろを振り向いて、叫ぶ。


「ウィン、力を貸してくれ」


「わかりました」


 本当ならウィンの復帰戦というには強すぎる敵だが仕方がない。


 シュゥゥゥゥゥゥゥゥ──。


 俺の身体が、薄く光り出す。

 それが魔力だということに、すぐに理解した。


 ウィンの力だ。ウィンが、俺に力をくれている。

 トラウマを持って、戦うことを恐れていたウィンがだ。


 期待に、応えなきゃ。


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