第73話 2人きりで、旅へ

 数日後。


「じゃあ行くよ、ウィン」


「わかりました」


 荷物の準備は完了。家のドアを開けて外へ。

 一週間後。俺達は家を出てタツワナ王国へと歩き始めた。荷物を持ち、歩きながらウィンが話しかけてきた。


「ガルド様──。ギルドの方は、大丈夫ですか?」


「うん。ちゃんと言っておいたよ」


 ギルドには、しばらく旅に出ると報告。一応、行く場所も話しておいた。

 もし何かあった時、手掛かりにはなると思うから。


「そうですか。気を付けて、言ってきてくださいね」


 フィアネさんはさみしそうに言葉を返した。

 ニナも、顔を膨らませていてどこか不満そうな表情をしていた。


「もう、早く帰ってきてくださいね」


「わかったよ。戻ったら、また会おう」


 でも、最近ニナはやたらと俺と一緒にいたがっていた。ちょっとでも俺が離れようとすると嫌がったり、逆に俺の胸に飛び込んで来たり──。


 俺を信頼してくれるってのはいいことなんだけれど、ちょっと困ってしまう。

 ニナなら俺がいなくたって大丈夫な実力はあるはずなんだけどな……。




 俺達は街から街道を歩いていく。


 見渡す限りの、地平線まで草原が広がる通り。

 そこから大きな川に急峻な山脈を数日かけて登ったり。




 そして、俺達はタツワナ王国へと入った。


 タツワナ王国最初の街、エルビス。時刻はすでに夕方。日がすっかり傾いていて、空はオレンジ色に染まっている。


 手をつないでいるウィンに視線を移して、話毛けた。


「疲れっちゃったから、今日はホテルに泊まろう?」


「そうですね。長旅でしたし……」


 ウインが大きく息を吐いて言葉を返す。

 確かに、疲れが見えているのがわかる。


 今まで、何日も荷物を持って歩いて来た。

 特に山道は急な坂が多かったし、その間の睡眠は冒険者や旅人が自由に出入りできる木造の小屋「ブンブン」が主な場所だった。


 ──無料で雨風をしのげるのはありがたいが、あまり人の手で整備されていなく寝室には木の板のベッドがあるだけ。


 一晩ならまだしも、連泊となるとやはり疲れがたまってしまう。

 ちなみに、平地の場合は簡易的なテントを張って過ごしていた。


 その場合も、動物を警戒しなければならず安眠とはいいがたい。


 これ以上疲労をためこむと、俺ならいいがウィンはまずい。

 風邪でもひかれたら大変だ。


 ということでホテル探しだ。街を歩き、時には街の人に聞いて泊まれるところが無いか聞いたのだ。


 そして、ホテルを当たって泊まれるか尋ねたのだが、問題が起きた。


「すいません、満杯なんです……」


「ごめんねぇ、今休業中でねぇ」


 数件ほど当たったのだが、ホテルがどこも満杯なのだ。

 困ったな……ついてない。


 それでも、諦めずに聞いてみる。


「すいません。開いているホテルはありませんか?」


 聞いてみたのはすれ違った毛耳をしたおじさん。

 おじさんは俺とウィンをじっと見た後、何かを理解したかのように手をポンとつく。


「ああ、そういうことかい……。それなら。この道を行って、3つ目の通りを左に歩くと、3階建てのピンク色の建物がある。そこに行くといい」


「あ、ありがとうございました」


 ピンク色の建物。個性的なのが気になったが背に腹は代えられない。ウィンだって疲れている。

 多少の妥協は必要だろう。


「ありがとうございました」


 そして俺達はおじさんの言う通りに道を歩き、3つ目の通りを左へ。


 古びた家屋、全体的にすたれたような雰囲気が漂っている。


 なんというか、アングラな雰囲気が漂ってきた。

 ウィンは、不安になって来たのか俺の服のすそをぎゅっとつかんでくる。


 俺は、ウィンの頭をそっとなでて言う。


「大丈夫だよ。今は変な気配はないから」



 そうだ、夕日の中、人気も少ないし──人の格好もどこかみずほらしい。

 ちょっと、危ない雰囲気だというのがわかる。


 そして、しばらく夜道を歩くとあった。ピンク色の建物。


「ここみたいだ。行こう」


「はい」


 ピンク色の、3階建ての建物。年月が経っているせいか、壁のところどころにひびが入っていた。

 通りの雰囲気も相まって、なんだか怪しい雰囲気を醸し出している。

 けど、行かないわけにはいかない。野宿よりは、ずっとましだ。


 ノックをしてドアを開け、中に入る。

 淡いランプ数本に照らされた、狭くて暗い通路。

 ウィンと肩が触れ合う。


 自然と、ウィンとの距離が縮まってしまう。


 足元を注意して歩いていると、そこには広い空間が広がっていた。


「いらっしゃい……」


 ロビーのカウンターに、白い髪の老婆が手招きをして座っていた。


 俺は周囲に目を配りながらカウンターまで歩く。


 ランプの光はどれも淡い色をしていて、柔らかくこの部屋を照らしている。

 淡い青色のフローリングが敷かれたエントランスには、二人掛けのクッションやソファーが置かれていた。

 それだけでなく、カラフルな花が植えられていた鉢植えに、肩くらいの高さがあるが置かれていて、普通のホテルよりしゃれている雰囲気となっていた。



 そして、カウンターにつくとおばあさんに話しかける。


「その……2人なんですが、空いてる部屋はありませんか?」


「ほう、ずいぶん幼い子を連れているんだねぇ。まあ、いいってことよ」


 どういうことだ? 世間話だと思った俺は、何とか取り繕って言葉を返す。変な噂を立てられると困るから。


「大丈夫です。顔つきが幼く見えるだけですから……」


 ☆   ☆   ☆


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