第68話 頼れる、お姉さん

 ざわざわとした声が聞こえる。男の人二人が、すれ違いに話していた。


「可哀そうだな、あの女の子。あんな凶暴そうなやつらに」


「ああ、でも俺達じゃ返り討ちだしな……」


 周囲に人の会話から、ただならぬ事態になっていると感じ、早足で男の人が来た道を進んでいく。

 そして、街の広場にたどり着いて、視線を向けた。


 小さい女の子が、絡まれている。明らかに嫌がっているが、男の人達との力の差は歴然。

 無理やり、茂みに連れ去られてしまっている。

 引っ張っているのは、目つきが悪く粗暴そうな男の人。思わず一歩引いてしまう。


 引いたところで、勇気をもって一歩進む。


 そうだ、先輩なら──。助けていただろう。

 たとえ相手が強いとわかっていても、立ち向かっていただろう。


 自分の身が、傷つこうとも──。


 行かなきゃ──。


 どんな相手でも。

 大丈夫。ダンジョンでは、あんな見掛け倒しよりももっと強い奴らと、戦ってきたんだから。


 小走りで茂みの方へと走っていく。

 がさがさと落ち葉を踏む音がこの場を包み、それに気が付いたのか男二人がこっちを向いた。


 アフロっぽい髪をした男が、話しかけてきた。


「なんだババァ」


 プチッ──。


 額がぴくぴくと動き、殺気がわいてくる。

 私、22なのに──。



「結構おっぱい大きいねぇ。俺達にメロメロになって一発やりたくなったのか?」


 スキンヘッドの男がにやつきながら迫ってきた。

 あまりの気持ち悪さに背筋が凍り付いたが、勇気を出して言葉を返す。


「その子、嫌がってるじゃないですか。やめて下さい」


「あん? 若い女に嫉妬してんのかよ」


 このアフロ──どれだけロリコンなのよ。


「違います。こんな幼い子を、無理やり──犯罪ですよ」


「ぐへへ、だから何だよ。お前に、何ができるってんだ」


 開き直る男の人。多分、何を言っても無駄だと思う。


「許しません」


「うるせぇ! お前も、ボコボコにしておいしくいただいてやるよ!」


 男2人はいっせいに殴り掛かってきた。

 確かにはたから見れば、私は襲われる女の子。とても危険なシーンだ。

 しかし魔法が使えるわけでもない人間に、負ける私ではない。



 襲って来る男の攻撃をかわして、殴り返す。


「結構強いじゃねぇか! このおばさん」


 こいつ──。


 怒りが頂点に達し、体に魔力を充填。男の胸ぐらをつかんで、そのまま投げ飛ばした。

 今の言葉、本当に傷ついた。絶対に許さない。


 まあ、魔法が使えない人間なんて相手にもならないんだけど……。

 魔法で男たちを圧倒。数秒で、勝負はついた。



 吹き飛ばされ、地面に倒れこむ男たち。。

 魔法が付いた弓矢を、男たちに突き付ける。


 小さい女の子は、私のことを何も言わずにじっと見ていた。


「おぼえてやがれー、このクソ女!」


 男たちは尻尾を巻いて逃げていった。

 目つきが悪いし、ちょっと怖かったけど、何とか助けられたよかった。


 そうだ、小さい子。


「君、大丈夫?」


 女の子はちょっとびくびくしながら私をじっと見ている。

 私は、女の子と一緒にベンチに座った。


 ちょこんと座っている女の子に視線を合わせて、話しかける。


「名前は?」


「ウィンです」


「ウィンちゃんっていうんだー、私はニナ。よろしくね」


「よろしく、お願いします」







 ウィン視点。


 ふぅ──。公園のベンチで、ちょこんと座り込む。


 恐怖から解放されたことで、心から安堵。


 助かった。冒険者の人が偶然通りかかって、助けてくれたんだ。運が良くて、本当に良かった。

 心が、ほっとする。


 この人、名前はニナさんか。良い人そう。


 ぽわぽわした髪だけど、背が高くて、顔つきや表情が大人びていて、しっかりしたお姉さんという印象だ。




 かっこよくて、綺麗で強い存在。とても、憧れる。それでいて、ぽわわんとしたかわいらしさを持った印象。

 隣にいて安心感を感じさせる存在だ。。


 ニナさんが、私の手を握って話しかけてくる。


「ウィンちゃん……だよね。大丈夫? 落ち着いた?」


「まあ、何とか」


 大きく息を吐いて、落ち着いて言葉を返す。

 実際は、まだ動揺が収まらない。当然だ。

 本当に身の危険を感じていたのだから。


「こんな夜まで、働いてたの?」


「はい。仕事の都合で、遅くなってしまいまして……」


「一人で、暮らしているの?」


「いいえ。お、お兄さんと暮らしています」


 落ち着いた様子で、私に質問してくる。

 どこか、落ち着いた気分になれる。



 こんな体験、ガルド様と一緒にいるとき以来かな。

 心から信頼できる存在。でも、ガルド様とは少し違う。


 同性ということもあり、優しくて頼れるお姉さんという感覚だ。



 それからも、ニナさんといろいろなことを話す。


「料理とかは、ウィンちゃんが作ってるの?」


 ニナさんは、笑顔で私のことに親身になって話してくれている。


「はい」


「働きながら毎日料理。大変じゃない?」


「一応、毎日夜まで働いているわけではありません。いつもはもっと早く帰っています」


「それでも、家事とか大丈夫なの?」


「お兄さまが手伝ってくれていてそこまで手間ではありません。確かに、献立どうしようとか、困ったりしたことはありますけど」


 ニナさんは、恨めしそうにため息をついた。


「いいお兄さんだなあ……。私の家族も見習ってほしいなあ」


 それから、私に笑みを浮かべてさらに話してくる


「例えばスープとかなら2.3日同じものを使っても特に問題はないわ。服だって、体を動かしてなくて涼しい日なら毎日洗う必要ないし──。そういう所で、うまく楽をしないと疲れちゃうでしょ? 優しいお兄さんなら、それくらい許してくれるはずよ」


「それも、そうかもしれないですね……」


 私のことを考えて、いろいろアドバイスしてくれる。

 頼れる人だ。これからも、関係を持っていたい。

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