第67話 ニナに、期待


「とりあえず、ひと段落だね。本当にありがとう、ニナ。これからも、期待してるよ」


「そ、そんな……お世辞なんていらないですよ~~」


 ニナが、顔を赤くして頬を抑えて言葉を返す。

 嬉しそうにニヤニヤしているのを、抑えようとしているのが俺からもわかる。


「本当に期待しているんだって。だから、国王様のところに合わせたんだよ」


 ニナが、驚いたのかあわあわとした態度になる。


「そ、そんな意味があったんですか?」


「そうだよ。こういった場所で顔を覚えておけば、まず印象に残る。それに次に重要な任務を冒険者に頼むって時にも話を持ち掛けられやすい。そして、何度も仕事をしていくうちに信頼を得られてどんどん王国に近い所で仕事ができるようになる。顔を覚えてもらうっていうのは、そういう意味があるんだ」



 そうだ。こうやって信頼を気付いていくから、何かあった時に国王様に信用してもらえるのだ。だから、日ごろから関係を作っていく必要がある。


 そして、そんなときに紹介する人は、正義感があり信頼出来る人がいい。それが、ニナだったということだ。

 ニナは、顔をほんのりと赤くして頭を下げた。


「先輩、ありがとうございます……そこまで考えていただいて」


「こっちこそ。それはニナが一生懸命今までやってきてくれたからだよ。これからも、よろしくね。ニナ」


「はい先輩! 期待にこたえられるように頑張ります!」


 ニナは強く拳を握って、自信満々な表情で答えた。

 正義感は強くて、向上心も高い。期待できる存在だ。これからも、どんどん成長していってほしいと思っている。


 応援してるよ、これからもニナが評価されるようにしっかりサポートするから、もっと頑張ってほしい。

 心の底から、そう思った。



 その後だが。カルシナは逮捕され、様々な場所で捜査が行われた。


 つながりだが、工場の書類からやはりパウルスとのつながりがあることがわかった。

 ソルトーンは、今後徹底追及すると豪語していた。


 さらに、横領であったり行方不明になった軍服の件で、取引停止になったのは言うまでもなく、逮捕された。

 裁判は、間もなく始まるようだ。


 さらに、行方不明になった軍服の件。行く先もわかった。複数の商人の元へ飛び立ったことがわかったのだが、そのどれもが魔王軍やそっちの方面取引をしているいわくつきの奴らだった。盗聴器も、そこで仕掛けられたのだろう。


 そのあたりは、冒険者の俺が大きくかかわることではなかったが、この国がいろいろと問題を抱えていることは理解できた。


 これから先、限りはあるかもしれないが出来るだけ力になるようになりたい。




 数日後。ウィン視点。


 仕事帰りの夜、完全に日が暮れた後。

 帰路である、人気がいない暗い夜道を早足で歩く。今日は、遅くなっちゃった。


 早く、ガルド様への元へ帰りたい。また、ガルド様のぬくもりを感じていたい。そんな思考が自然と頭をよぎり、早足になる。



 今日の献立はどうしようかな。ガルド様も今日は遅いかもって言ってたし、疲れが取れるようなメニューがいいかな?


 そんなことを考えながら、大きな広場を通り過ぎていったその時だった──。


「おうおう──かわいい女の子だねぇ~~。どこに行こうってのかい」


「よく見たらかわいいし、おっぱいも大きいじゃん。上玉上玉」


 男の人たちの声が広場からしてきた。振り向くと人相が悪そうな男の人が数人。

 公園の入り口にたむろしていて、私に近づいてくる。


 近づいてくると、スキンヘッドの男がニヤニヤと気味が悪い笑みを浮かべていて、私の身体を舐め回す様にじろじろと見ている。

 身の毛がよだつ気持ちになり、背中に怖気が走った。


 本能が逃げろと叫んで、考える間もなく足が勝手に動く。


 急いで踵を返してこの場から去ろうとした、その時だった。


 ガシッ!


 男の一人が私の腕をつかむ。

 思わず体が震えてしまった。


「どこに行こうってんだ、逃がすわけねぇだろ」


 恐怖で頭がいっぱいになる。


「俺達と楽しいことしようぜぇ」


 小汚くて、長身のいかにもゴロツキって感じの男が、私の胸をじっとガン見する。

 彼らが考えているであろうことを想像し、叫ぶ。


「やめて下さい。離してください!」


「離すわけないだろ!」


「そうだそうだ! いっぱい楽しいこと、しようぜぇぇ~~」


 周囲の人たちは男の人を怖がっていてただ怯えていた。


 怖い、怖い。

 誰か、助けて──。


 心の中で怯えている間にも、男たちは私を広場の、周りから見えない茂みの中へと引きずっていく。


 もし連れて行かれたら、私はどうなってしまうのか容易に想像はついた。


 誰も手を差し伸べない中、必死に助けを求めていた。





 ニナ視点。

 夜。


 今日もクエスト帰り。それもガルド様と一緒にクエストをした帰りだ。

 ガルド様は別の後輩と話をしていたから、後で帰るって言っていた。


 今回は、私が新人たちのピンチを防いだ。


 新人の子が罠にかかりそうだったのを、寸前で助けたのだ。


「すごいよ、ニナ。前より頼もしくなってるね


「あ、ありがとうございますぅ~~。えへへ」


 先輩に褒めてもらえたのを想像するだけで、思わず顔がにやけてしまう。

 先輩に喜んでもらえただけで、心がふわっとした気分になる。


 幸せを心から感じ、時折無意識にステップを踏んでしまうくらいだ。


 今日は、帰ったらお酒──飲もう。お祝いお祝い!

 そんな、どこか浮ついた気分で夜の街を歩いていると──。



 ざわざわとした声が聞こえる。男の人二人が、すれ違いに話していた。


「可哀そうだな、あの女の子。あんな凶暴そうなやつらに」


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