第66話 これからも

「それは……」


 カルシナは、挙動不審になり言葉を詰まらせていた。


「それだけじゃない。お前のところ、数か月おきに取引を行っているようだが、ここ数年は全部そういうことを行っているようだな。半月前は700着に対して300着。実際に作ったのは500着。その前なんかもっとひどい。400着に対して納入実績0。製造したのは100着だけ。どこへやったかもひどいが、相当懐に入れてるな。後で取り調べるから、覚悟しておけよ」


 そういうことだ、こいつは取引の中で私腹を肥やし、国の所有するはずの物に対して不審な物の動かし方をしている。

 まあ、それはこれからゆっくり調べるとして、まずはこいつに罪を認めさせることからだ。



 カルシナは、スッとぼけたような表情で、俺から目をそらして言葉を返す。


「それは、王国側が数を間違えたんじゃないのか?」


「それなら他の数を確認させてください。他の請け負った仕事の記録を、今から確認しに行きましょう」


「これから、商談の──」


「サルナさんに聞きました。今日はそんな話はないと。もしあったら、損害額は言い値で払います。さあ、いきましょう」


 カルシナはピクリと体を動かす。それから、視線が定まらなくなり、キョロキョロと目を泳がせた後、口をガクガクさせて話す。


「あっ、そうだった。事務員のサルナは、今日休み」


 見え透いた嘘を。もちろん、それくらいは想定済みだ。

 言い訳を、認めさせはしない。


「サルナさんは今日出勤しています。今朝確認しました。もしこれが嘘だったら生じた損害は全部俺が払います。だから、今から工場へ戻って確認しに行きましょう」


 間髪入れずに言葉を返していく。もう、逃げることしか考えていないというのがバレバレだ。

 カルシナは口をガクガクして、汗がダラダラと出ている。

 動揺しているのが一目でわかる。


 もう、ここを逃れる口実も言い逃れも出来ないのだろう。


「うわあああああああああああああああああああああ!」


 カルシナはとうとういきなり走って逃げだそうとした。

 そんなことしたって罪から逃げられるわけがない。その場しのぎの現実逃避。


 小悪党らしい行動だし、俺は十分予測できている。


 そしてカルシナが走り出した──物陰から誰かが飛び出してきた。


「よう、小悪党。国民の税金をすすって──当然罰は受けてもらう」


 その時その人物はカルシナの前にどんと飛び出す。カルシナはぶつかり、尻もちをついた。


「ソ、ソルトーン様。どうして──こんなところに??」


 そう、そこにいるのは国王のソルトーンだ。

 ソルトーンはカルシナの隣に移動すると、ニヤリと笑みを浮かべて、ガシッと肩を掴んだ。


「よう。みんながつらい思いをしているのに、自分達だけヒルのようにおいしい思いをしている気分はどうだ?」


 カルシナは、体をびくびくとさせたまましゃべらない。

 完全に思考が止まってしまっているのだろう。それでもソルトーンは言葉を進める。



「お前のような小悪党がこんなことをするには、内部に手引きする奴がいるはずだ。誰だそれは、言え」


 カルシナの歯がガタガタと震え、恐怖で顔が引きつっている。


「い、い、言えない……」


「言え。そんなごまかしができると思ってるのか」


「言えない。言えない。言えない」


 恐怖に染まった表情を見て、直感的に感じた。

 これ以上、責めたとことで効果は出ないだろう。恐らく、口止めされているのだろう。


 もし言ってしまったら、暗部のような組織が出てきて、存在自体を消されてしまうような。

 ソルトーンも、それを感じたのだろう。手をはなして、追及するのをやめた。


「まあ、これくらいにしておくか。国民も見ていることだしな」


「そうだな」


 いくら悪党とはいえ、国民たちの前だ。

 必要以上に痛めつければ、ソルトーンに対して強権的であったり、抑圧的だという印象を持たれかねない。


 国王というものは、国民からのイメージというのも大事だ。

 そうしないと、国民が王国に反抗的になりいうことを聞かなくなってしまう。


 まあ、彼についてはこれからゆっくり裁判で裁かれる。

 だから、今のところはこれで問題ない。


 何とか、事件は解決した。


「ありがとうございます、ソルトーン様。協力いただいて」


 俺は頭を下げた。しかしソルトーンは全く気にしていない。

 高らかに笑いを浮かべている。


「気にするな。この国が、こんな状態なんだ。俺だって何とかしたいと思っている」


「それは、そうですね」


「この一件は、広く公開させてもらう。この国が、今こんな状態なのだとみんなにアピールする絶好の機会だからな」


 その言葉に、ニナがぎょっとする。


「──流石国王様ですね。抜け目がないというか……」


「姉ちゃん。褒めてもなんも出ないぞ!」


 まあ、物事綺麗ごとばかりでは務まらない。

 周囲にアピールしたり、鼓舞させることも重要な仕事だ。


「まあ取りあえずここから先は俺達に任せてくれ。この一件、お前たちのおかげで解決できた。ありがとうな」


「いえいえ」


「この後だが、この件はこっちに任せてくれ」


「そのつもりです」



 調査や彼への処罰については、残念だが冒険者である俺達よりも、ソルトーン達がやった方がいい。というか管轄外だ。

 ここから先は、彼らに任せた方がいいだろう。


 そして、俺達はこの場を去って行った。


「とりあえず、ひと段落だね。本当にありがとう、ニナ。これからも、期待してるよ」


☆   ☆   ☆


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