第65話 尋問、開始


「となると、残りの400着は──どうなったんですかね」


「そういうことだ。差額を懐に入れたんだろう」


「だろうな。でも、作ったのは300着らしいぞ。製造の人が、そんなことを言っていた」


「じゃあ、100着分の代金をせしめて、他はどこかに横流ししたのだろう。あるいは……」


 ちらりとビッツに視線を向ける。


「どこかに渡して変な細工を施したりね──」


「そ、そうなんですか……」



 ニナが、真剣な表情をする。もちろん、まだ仮定の話。調査をするのは、これからだ。

 けれど、衣服に盗聴の器具がついていた話とリンクする可能性は、十分にある。


「そ、そんなやり方があったんですか……」


 ニナは、呆然としている。まあ、ずっと冒険者としてそう言った細かい数字や不正をする方法などは分からないのだろう。


 わかりにくいからこそ、そう言った所に不正があったりするのだが──。


 これで、証拠はそろった。後は、カルシナを追い詰めるだけだ。

 それをするには、一人では心もとない。

 協力者が必要だ。



「2人とも、本当にありがとう」


「こっちこそ。これから、どうするつもりだ」


「これからは、俺1人では無理だ。協力者と一緒にカルシナを追い詰める」


「頑張ってください、応援してますから!」


 ニナが、強い口調で声を返して来る。でも──。


「ありがとう。でも、次は──ニナにも協力してもらうから」


「えええっ? 私にですか──」


 驚くニナ。大丈夫、ニナならできるから。


「うん。ぜひとも、会わせたい人だっているから、ぜひ一緒に行動してほしい。ちゃんとサポートもするから」


 そんなお願いにニナは、少しだけ戸惑う表情を見せたものの──。


「わ、わかりました。ぜひ、頑張らせて下さい!」


 首を縦に振ってくれた。流石はニナだ。正義感があり、こういったことから決して逃げたりしない。だから、信頼できるしこういった重要な任務にも参加させられる。

 そんなにニナを、これからも応援していきたい。




 数日後。


 今日まで、周囲に策を張って準備完了。

 カルシナを追い詰める日がやって来たのだ。


「ニナ、この時間にここで、大丈夫?」


「確か、昼前。合ってます」


 ニナの調べで、カルシナは昼前にこの、王宮へと続く道を歩いていくことがわかった。

 工場で事務をしているサルナさんという人物と接触し、予定を確認。

 工場から、宮殿へ行くにはこの道が最短のため、ここで待ち伏せすることにしたのだ。



 そして、見つからないように物陰に隠れながら、カルシナが来るのを待つ。

 待ち伏せする事30分ほど。本当に来るのか心配し始め、下を向いて大きくため息をついたその時──。


「先輩、カルシナです。いました」


 ニナが俺の肩を軽くゆする。

 慌てて物陰から覗くと、視線の先にその姿があった。


 間違いなくカルシナだ。

 ふんふんといった感じで余裕そうに歩いている。

 おいしい話でもあったのだろうか。腰に手を当て、ご機嫌そうだ。


 待ってろ。お前のその鼻を、しっかりとへし折ってやる。

 カルシナが何も知らずにこっちに歩いてきて、俺達が隠れている物陰を通り過ぎようとしたとき、俺達はカルシナの目の前にスッと現れる。


「すいません。こんなところで偶然ですね、カルシナさん」


「ガルドに──なんだその小娘は。何の用だよ」


 カルシナは警戒したような目つきで俺たちをじっと見つめると、思わずピクリと体を反応させ、一歩後退した。


 まだ、逃げられないように作り笑顔を浮かべながら、カルシナの隣に移動。逃がさないように、反対側にニナが移動し、二人でカルシナを挟むような配置になる。


「ちょっとね、聞きたいことがあるんですよ」


「まて、俺は忙しいんだ」


 逃げ出そうとするカルシナの腕を、ガシッと掴む。ニナと一緒のタイミングで──。

 逃がしはしない。


「大丈夫です。時間はとらせませんから」


「はい、すぐに終わります」


 ニナがそう言うと、俺は持っていた帳簿を取り出しカルシナに見せる。


「この、軍服の製造の帳簿のことで──聞きたいんですけどね」


 カルシナの表情が一瞬だけ歪んだのを、俺は見逃がさなかった。

 やはり、何かあるな。


「まず聞きたいのは、この、2か月前に取引した物なんですけど──」


 そう言うと、カバンから王国側の帳簿と領収証。ぺらぺらとめくって、目的の取引をした帳簿と領収証をカルシナに見せる。


「明らかに同じ取引なのに、数が違いますよね」


「何で、こんな事してるんだ?」


 体を震わせ動揺しているカルシナに、冷静に問い詰める。


「ニナにも協力してもらって、お前たちの帳簿を、全部確認した」


「えっ?」


「もともと管理なんてずさんだったから誰も気づかなかったが、同じ取引の工場と王国側の取引を確認して、ようやく理解した。随分違う。というか全くあっていない。

 例えば半年前に発注したこの300着の服。実は100着しか製造されず、残り200着はどうなったかわかっていない。そして、原料の購入を見ると200着分購入したことになっている。そして、300着分の代金を受け取った」


 言葉を失っているカルシナに、さらに話を進める。


「帳簿を見るとそうだ。まず、100着しか作っていないのに300着分懐に入れた。

 まずこれは、立派な横領にあたる。犯罪だ。

 おまけに、100着分がどこかに消えている。作ったにも関わらず王国に納入もしていない。

 どこか、言えないような場所に渡しているのだろう。表立って言えないような、いかがわしい組織へ──。違うか?」


「それは……」


 カルシナは、挙動不審になり言葉を詰まらせていた。


☆   ☆   ☆


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