第64話 絶対に、追い詰める
「なんか俺の周りを嗅ぎまわってるらしいな……無駄な努力ご苦労様」
腰を曲げてニタニタと笑いながら、俺をにらみつけてきた。
「まあね。ちょっと怪しい帳簿を見つけてしまったからね」
「で、どうだったんだ?」
俺は感情を抑え、冷静に答える。
「まだ、何も掴んでないよ」
「しっかしいい加減にしろよな。俺の父さんのこと、お前くらいの奴が知らないわけがねぇよなァ! 逆らったらどうなるか、思い知らせてやろうか?」
「お前、いくつになったんだ? 父親の偉業を、まるで自分が成し遂げたかのように──恥ずかしくないのか?」
冷静にあおり返すと、パウルスはチッと舌打ちをして言葉を返す。
「ああん? ちょっとまぐれで成り上がったからって、調子こいてんじゃねぇぞぉ! 今すぐ適当な罪でっち上げて、流刑地送りにしてやろうか?」
そう言ってニヤリとした気色悪い笑みをこっちに近づけてくる。
こいつは、いつもこうだ。
いつも自分の権力や血筋を傘に、脅しをかけてくる。まるで、子供がお父さんのすごさを自慢しているかのように。
「まあ、いずれ分かるよ。正しいのはどっちか」
「そうだな。お前が地方に飛ばされるという形でな──」
自身たっぷりな口調で、言葉を返して来る。
恐らく、こいつに何を言っても無駄だ──。結果を出して、事実を突きつけることしか解決策はないだろう。
それまでは、淡々と接した方がいい。
挑発には、乗らない。
「そうですね。それでは、私──これから用事があるのでこれで」
冷静に言葉を返す。
「そうだな。俺様も一般人の貴様などに構っているほど暇人ではないからな。あばよ!」
そう言葉を吐いて、パウルスはこの場を去っていく。
背筋が曲がった、姿勢の悪い格好で離れていく姿を見ながらそっとつぶやいた。
「お前の薄汚いメッキを必ず引っぺがしてやる」
──と。
「じゃ、行こうか。ウィン」
「はい」
そして俺達は王宮を出て、市街地へ。
時間はお昼前。そろそろウィンはバイトに行かなければいけない。
名残惜しい気持ちはあるけど、ウィンにとってはそっちの方も大事なものだ。
後はウィンなしでも特に問題はない。ウィンには、そっちの方で頑張ってもらおう。
人ごみの多い広場で、ウィンに話しかける。
「じゃあ、ここでお別れだね」
「……わかりました」
シュンとしたような、ちょっと残念そうな表情。
また一緒にいる時間を作るから、許してくれ。
一旦、ウィンと別れて1人になる。
「ウィン、ありがとう。バイトの方も、頑張ってね」
「こちらこそ。ガルド様のお役に立てて何よりです」
そう言ってウィンはこの場所から去っていく。歩いていくときのウィンの背中を見て、いつもより自信を持っているように感じた。
それからしばらくすると、俺の名前を誰かが呼んでくる。
「せんぱ~~い。お待たせしました」
そう言いながら大きく手を振ってこっちに向かってきた。
ニナとビッツだ。ビッツが話しかけてくる。
「ガルド、そっちはどうだった?」
「成功だよ。ビッツの方はどうだ?」
すると、隣にいたニナが、自信たっぷりな表情で言葉を返して来る。
腰に手を当て、エッヘンとで言わんばかりの態度だ。
どんな結果が出たのか、すぐにわかる。
「成功でした。先輩!」
親指を立てて言葉を返すニナ。
「ありがとうニナ、すごいね」
「そう褒めてもらえると、とっても嬉しいですぅ」
デレデレと笑みを浮かべているニナ。確かに、今回はよくやったと思う。
「それでビッツ。目的の物は?」
「これだ」
先ほど会計の人から受け取った王国側の帳簿と、対になるものだ。
俺達がアルトを説得して帳簿を受け取ったように、ニナとビッツも事務員の人を説得し、帳簿を見せてもらったのだ。
取りあえず、パラパラとめくって様子を見てみる。
めくって、確信した。
「やっぱり、こいつら黒だ」
「そうなんですか? 私は、良く分からないですけど……」
ニナの頭に?マークが浮かんでいるのがわかる。後学のために、教えておいた方がいいかもしれない。
「知りたい?」
ニナは顔を膨れさせ、両手を握って言葉を返して来る。
「もちろん、知りたいです。大変だったんですからね! 事務員の中でカルシナの動きが怪しいと思う人を捜して、怪しまれずに人目につかない場所で説得。そしてカルシナがいない時間を教えてもらって帳簿を受け取って」
「俺も、教えた方がいいと思うぜ」
ビッツも同調する。確かに、今後のことを考えるとそっちのほうがいい。
「わかった、教えよう。まず、これをみてほしい」
そう言って最初に見せたのは、俺達が預かったカルシナの工場との取引が記録されている帳簿。
次に、隣り合わせになるようにカルシナ側の王国との取引が記録されている領収書だ。
「これを、比べてみよう。本来は同じ取引なのだから、同じ数と金額が取引されているはずなのだが──実際はどうだ?」
これは数週間ほど前の軍服の取引。日付からして、俺達が最初に訪れた時のことだ。
「あれ? こっちは500着仕入れているはずなのに、工場側では100着ほどしかない」
ニナが、はっと驚く。その言葉の通り、工場側と王国側で取引をした数値が異なっているのだ。
「となると、残りの400着は──どうなったんですかね」
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