第63話 調査開始


 翌日、俺は動き出した。先日の町工場の件から数日が立った日。下準備を終えて。


 今日は、途中まではウィンと一緒に行動。

 宮殿に向かう。


「久しぶりだね。元仲間と逢うのは」


「はい。ドキドキします」


 理由は簡単。今日会いに行くのは、ウィンの元仲間だからだ。

 今日は、先日訪れたカルシナの町工場のその後について。

 町工場と、王国の中で資金を介した取引について調べたくて、王国の会計責任者に話があった。


 その人物が、ウィンと以前パーティーを組んでいた人物ということだ。名前はアルト。

 ウィンが一緒にいた方が、話は通りやすいと感じた。


 やはり、かつて一緒に戦った人だと話しが通りやすいからだ。


 目的の部屋の前。コンコンとノックをしてからドアを開けると、そこにはひげを蓄えた中年くらいの人がいた。


 そう、彼がアルトだ。


「話は聞いていたよ。ようこそウィン。それに君は──ガルドだったな。手短に聞こう。何の用だ?」


「見せてもらいたいものがあるんだ」


「……言ってみろ」


 俺は持っていたカバンから一枚の紙を取り出す。


「カルシナってやつのいた町工場との金の流れについて知りたい。これが、許可証として機能するはずだ」


 そう、カルシナを追い詰めるものに必要なのは会計だ。金の流れを見れば、何かわかると感じた。

 町工場の方は、ニナ達が向かっている。そっちはニナとビッツに任せて、俺達は、王国の方を調べることとなった。


 もちろん、俺一人で行ってもどうすることができない。ソルトーンのサイン入りの調査状を突き付けて、ようやく首を縦に振ってくれると踏んだ。


 ソルトーンは俺が調査をしたいと頼んだら喜んで許可証をくれた。


「おお、流石お前だ。もう糸口を見つけたのか」


「まだ、合ってるかわかりませんけどね」


「期待しているぞ」


 そして、ソルトーン様が俺の肩をバンバンと叩いた。何とか、期待には鍛えたい。

 アルトは、その紙を見て手を顎に当てしばし考えこむ。

 元々、国の資金の流れというのは国家機密にあたる。


 それを、承認を得ているとはいえ俺達に見せていいのか、迷っているのだろう。


 そして、少し時間が経つとアルトさんは背を向いて口を開く。

「待ってろ、今探す。名前、なんだっけ」


「えーと。カルシナ工場だ」


「わかった」


 その言葉に、気持ちが前を向く。どうやら、大丈夫なようだ。


 アルトさんはそれ以外何も言わずに本棚からファイルをあさり始めた。

 色々机を開け、本棚を開け目的の物を探す。


 5分くらいだろうか。いろいろファイルを開け、本棚のおくのほうにある本を慎重にあさっていた時のこと。


 アルトさんの身体がピクリと反応する。


「あった。これだな。これだろ」


 アルトさんが本を開いてその場所を俺たちに見せてくる。

 その言葉に、俺とウィンは体を乗り出しその場所を見つめる。


 大きなファイルの中には、先日行った町工場の仕入れの帳簿。

「奥に入ってるってことはそこまで重要視してないってことだ。それか担当者が雑でそこまで管理がされてないとか──。一日二日くらいなら大丈夫だ。持って行ってもいいよ」


「そうですか。ではお言葉に甘えて──」


 そして俺達はそのファイルから、帳簿と領収証を取り出し、カバンの中に入れた。


 これで、物はそろった。後は、ニナ達次第。それから、証拠を集めるために照らし合わせるだけだ。



 一応帳簿と、取引に使った領収証を比べる。



 比べて……良く分かった。やはりおかしい。


「あの、ガルド様──これで、何がわかるのでしょうか」


 ウィンが首をかしげて聞いてくる。まあ、普通はそう反応するだろう。

 今後のためにも、軽く教えておくか──。


 俺は受領書を1枚手に取り、金額の部分を指さした。


「ああ、例えば──このカルシナ工場から買い付けた300着の軍服。あるじゃん」


「はい──」


「本当は300着注文のはずなのに、400着製造してその分の100着を闇ルート流していたりとか。逆に製造実績100着なのにこっちでは300着造ってもらったことにして差額をカルシナの懐に入れさせるとかあるんだよ。だから、ニナ達を使って町工場側の帳簿を調べさせているんだ」


「そ、そうなんですか……」


 ウィンは、難しそうに首をかしげている。


 まあ、こんなところでするのもなんだ。検証は、ニナ達と合流してからにしよう。

 ウィンももうすぐバイトに入らなきゃいけないし。


 まずは、アルトさんにお礼。


「捜査への協力、ありがとうございました」


 ぺこりと頭を下げる。


 取りあえず、分かったこともあった。けれど、まだ足りない。

 後、足りないものは──。


 そんなことを考えこんで、階段を下った時だった。


「おいおい、さっきから何やってんだよお前」


 右から声がしてきたので、俺はそっちを向く。

「ああ、これはパウルス様。どういったご用件ですか?」


 嫌味な笑みを浮かべている男。以前、クエストでは素晴らしい無能ぶりを見せてくれた男だ。

 地位の高い父親のせいで、無駄に高い地位に居座っているのだが──。


 そしてニヤニヤとした表情を浮かべながら、こっちにやって来る。


「なんか俺の周りを嗅ぎまわってるらしいな……無駄な努力ご苦労様」


 腰を曲げてニタニタと笑いながら、俺をにらみつけてきた。

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