第46話 何とか、間に合った



 ガルド視点。


 今日は、ギルドで軽い事務作業。

 書類整理などをしながら、時折後輩や友人のビッツなどと話をしていた。


 クエストでのアドバイスや、身の回りの話題など。

 やはり、生活に困っている人が多い印象だ。


「じゃ、仕事も片付いたし、上がらせてもらうよ。お疲れ様」


 そう言って整理した書類をフィアネさんに渡し、外へ出た時──。


「ガルド!!」


 入口から俺を呼ぶ声、慌ててその方向に視線を向けると。


「レーノさん?」


 そこにいたのは、ウィンの職場の先輩、レーノだった。


「急いでこっち来て」


 その言葉と、真剣な表情に早足で入口の方へと移動する。


「どうした、レーノさん」


 ここまで走ってきたのだろうか、大きく息を荒げている。何か、大変な事でもあったのだろうか。


「ガルド──ウィンが、大変なの」


 そしてレーノさんは踵を返して俺達の家へと早足で歩き始めた。

 歩きながらレーノさんから話を聞く。


「ウィンに、気安く話しかけるやつがいた。杖も持ってて、明らかに冒険者っぽい奴が──」


「それで?」


「ウィンは、怯えていて慌てて私が対応を変わった。それで、ウィンが上がった時、出口で背筋を凍らせているのを見かけたわ」


 嫌な予感しかしない。ともかく、ウィンに何かあったというのは理解できる。


「何かと思って出口に行ったら、ウィンが気安く話しかけられた奴と一緒に帰っていったの。何かあったって、すぐに気づいたわ」


「どういうやつだった?」


「槍持ってた。多分、冒険者ね、魔法が使えない私じゃ返り討ちだって感じた。だからあなたを呼んだのよ。ウィンが、あなたは冒険者だって言ってたから」


「ありがとう」


 ウィンに何があったかは正確には分からない。けれど、ただならぬ事態になっているということだけは分かる。

 とにかく、早くウィンのところへ行こう。


「じゃあ、今からウィンのところに行ってくる」


「私も行くわ」




 そして家に着いたら、こんな状況になっていたわけだ。


 壁際で、恐怖に震えているウィン。そして、ウィンの胸に手を出そうとしている金髪のチャラそうな男。

 ウィンがどんな目に合おうとしているのか、一瞬で理解できた。


 金髪のチャラ男は振り向いて俺に視線を向けると、ニタニタと笑みを浮かべて話し始める。


「何だよ、ヒーロー気取りかよ」


「何とでも言え、ウィンに手出しはさせない」


「ウィンとは、どんな関係だ」


「元仲間で、一緒に住んでた。気持ちかったよ~~、ウィンちゃんのおっぱいとくちびるは──」


 この野郎……。


 こいつがウィンを、どのように考えているか理解した。

 そして、こいつが今までウィンにどういったことをしたのかも──。

 怒りの感情を抑え、拳を強く握って言葉を返す。


「本番まで、強要したのか?」


「当然じゃん。一緒に男女で住んでて、何も起こらないわけないじゃん!」


 その言葉に理性が吹っ飛びそうになる。

 チャラ男はそれを察したのか手を振って言葉を返し始めた。


「冗談冗談。やってはいないって。でも、おっぱいやキスは本当だよ。もう最高だったの一言──。それに、お前だってしたんだろ。わかってるよ、こんなかわいい子を、家に連れ込んでやることなんて決まってるじゃん」


「してない。そんなことは──」


 当然だ、ウィンは俺の欲望を満たすための道具じゃない。

 一人の意思を持った人間だ。


 ウィンの同意もなしにそんなことはしない。


 ──俺はそう心に決めている。しかし、目の前にいる男はどうやら違うようだ。


「冗談だろ? 締まりはどう。揉み心地は、最高だったでしょ? かっこつけたって、どうせお前はこいつを性欲目的で買ってるんだろ? じゃあ俺と同じじゃん」


「そんなことは、していない」


 ニタニタ笑いながら言葉を返してくる。こいつへの怒り以外、全く感情がわいてこなくなる。

 ヤコダはその言葉をまるで信じていないようで、肘で俺の腕を突っついてさらに話しかけてきた。



「またまた~~。こんなかわいい女の子を連れてるんだよ──。事が起きないわけがないじゃん」


「どこまでやったの? まあキス位は当然として、おっぱい。どうだった?」


「ことを起こしたこと前提で話を進めるな」


「おっぱいの揉み心地、最高。柔らかくて弾力がすごくって、それはもう天国にいるみたい……」


「わかった。もういい」


 俺はただ、そう言った。もう、何を言っても無駄だろうからだ。

 胸ぐらをつかんだ後、思いっきり、その顔をぶん殴った。


「ふざけるな。お前、ウィンをなんだと思ってるんだ」


 俺の拳はヤコダの鼻に思いっきりヒットし、体が後ろにある壁にたたきつけられる。


 鼻からは鼻血が出ていて、ヤコダは鼻を抑えながら俺をにらみつけていた。そして、はっとした表情になり、俺を指さす。


「俺はヤコダ。誰だお前」


「俺はガルドだ」

「ガルドだと? 元Aランク国家魔術師のか?」


「そうだ、何か文句あるか?」


 毅然と言葉を返す。俺のこと知っているのか……。俺は──思い出した。

 Cランクくらいの強さで、やたら態度が悪い奴に、そんな名前がいた。


 金髪で、髪が長い男。確実にこいつだ。

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