第35話 ウィンの働き先へ
今日は、仕事はない。開いている片手で家事を終え、昼食の時間。
「確か、この店だよね」
あれから数日後、俺はメモを片手に街を歩いていた。
「ドリーム☆カフェ。ここであってるな」
街の中にある一軒の店。ここでウィンが働いている。
今日、俺はこの店に入る。
理由は簡単。
ウィンが働いている場所を、俺は見たことがない。
話を聞いた限りでは接客や料理をしていてうまくやっているらしいが、店のことを話しているウィンの様子がどこかよそよそしかったからだ。
まるで、何かを隠しているような。
だから、ウィンに今朝確認を取ったうえで、直接店に客としていくことになった。
ドリーム☆カフェ。外見は先日も見たが、特におかしい所はない。
昼食時だけあって、それなりに人がいる。
ドアを開けると、チリンチリンと鈴の音が鳴る。
「いらっしゃいませ~~、おひとり様ですか?」
「はい」
出て来たのはストレートで赤髪の女の子。笑顔がよく似合う、明るい子という印象だ。
「ご指名は、どういたしましょうか?」
「ご指名??」
何のことがわからず戸惑っていると、黒髪の女の子がこの店のシステムについて教えてくれた。
この店は、ウェイターの女の子を指名するシステムがあるのだ。
通常の場合だとフリーとなり、普通のカフェのようにランダムで女の子が注文に来たり食事を出したりするのだが、お金を払って女の子を指名するとその女の子が注文に来たり、食事を運んでくる。それだけでなくいろいろなおもてなしをしてくれるということらしい。
大丈夫なのだろうか……。ちょっと心配になってきた。
取りあえず、ウィンがどうなっているか見てみよう。
黒髪の子が女の子の紹介の紙を渡してくれた。ウィンは──いた。
「幼い顔つきで、抜群のスタイル。人気沸騰中の女の子」という紹介と共に。
「ウィンという女の子でお願いします」
「ウィンちゃんですね、わかりました──」
赤髪の子に誘導され、窓側の席へ。店の中は、清潔感があっておしゃれなカフェという印象だ。
そして、やって来た。
「ガルド様。いらっしゃいませ」
「調子はどう。ウィンってその服……」
ウィンは恥ずかしそうな表情でコトッとお冷を机に置く。俺は、ただ驚くばかりだ。
服装に──。
服装はゴズロリメイドの服なのだが、問題はその服。
まず胸元や谷間が露出している。ウィンの大きくて豊満な胸がかなり強調されてしまっている格好だ。
腕も全部出ていて、スカートも太ももがかなり露出していてすごいエッチな服装。男からすれば、たまらない服装だろう。
確かに人気は出そうだが、ウィンは大丈夫なのだろうか。
嫌じゃないのだろうか、心配になってしまう。
「は、恥ずかしくない……?」
ウィンはお盆を胸のあたりでぎゅっとつかみながら、言いずらそうに答える。
「少し、恥ずかしいです……」
「だよね」
「でも、みんなが喜んでくれているんで、問題はないです」
そう言っているウィンの表情が、どこか自信に満ち溢れているように見える。
「辛かったらいつでもやめていいよ。仕事なんて、また探せばいいんだから」
「大丈夫です。最初はちょっと驚いたけれど、私を求めている人がいるって思うと、すごい頑張れます」
誇らしげに言い切ったウィン。どうやら、大丈夫そうだ。
「頑張って、ウィン。応援してるから」
あまり、気の利いた言葉は言えないけど、精一杯応援する。
すると、ウィンははっとした表情になった。
どこか、嬉しさを含んでいるというのが理解できる。
「あ、ありがとうございます」
そして俺は注文をする。
ハンバーガーとポテト、オレンジジュースでいいかな?
「わかりました」
そして、ウィンは頭を下げ、すたすたと厨房へと戻っていく。白い背中も、ちょっと見えていてセクシーに感じた。
それから、一口水を口に入れて落ち着いてから店の様子を確認。
向かい側で接客している女の人の様子に、思わずぎょっとする。
「お兄ちゃ~~ん。ご飯できまちたよ──」
「レーノちゃん。今日も天使だね。かわいいね──」
小柄で、黒髪の女の子。
ウィンと同じくらいの女の子が、猫なで声で接客をしている。明らかに演技をしている。
「お兄ちゃ~~ん。口に入れるからあ~~んちて」
「レーノちゃん、あーん」
男の人はニタニタと口をポカンと開けた。レーノとかいう人がシチューを皿ですくい、それを男の人の口の中へ入れていく。
「お兄ちゃん、おいちい?」
「うん、おいちいよ。レーノちゃん」
にへらと笑う男の人を見て、複雑な気分になる。
確かに、人間というのはきれいな所だけじゃない。中には人には言えないようなところだってある。
けどさ……。人前でさらさなくたって。
予想もしなかった光景に、言葉を失う。
ウィンも、恥ずかしそうながら他のお客さんに時折食事を出している。
「ご主人様、食事ができました」
「ウ、ウィンちゃん。ありがとう、今日もかわいいね」
お客さん。とても喜んでいる。変わったシチュエーションと、しみじみ感じる。
なるほど。ここはただの喫茶店じゃない。こうして付加価値を付けて高く売っているということか。
商売としては、別に悪くはない。他の店と同じことをやっても、埋もれがちになってしまう。
それなら、こうしてここだけしかない持ち味、個性を出していくのも戦略としてはありだ。
人によっては、いかがわしいという印象を持たれてしまうが──。
それからほどなくして食事が出て来る。もちろん運んできたのはウィン。
「ガルド様。お待たせしました」
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