第33話 夜の会食
怪我を負ってから数日後。
街頭の光が街を照らす、夜の街。
人気が多いエリアの店で、俺とウィンは立ち止まる。
「ここみたいだね」
「……はい」
豪華そうな飾り物が庭に置かれている高級そうな雰囲気の店。普段行く一般人が行くような店とは違う、高級官僚や高い身分の貴族の人が行くような店だ。
俺は、以前重要な仕事の関係で行ったことがある。そしてその時に着たスーツ姿なのだが、ウィンにそのようなものは持ち合わせていない。
普段着で来させてしまった。まあ、別に服装に規定があるわけじゃ無いし、奇特な目で見られること以外問題じゃない。
服は、今度買ってあげよう。
そして、目の前の人物が話しかけてくる。
「ガルドさん、これは久しぶりですね」
「おう、そうだなエンヴェル。元気にしてるか?」
「こちらは、何とかやってますよ」
すらりと背が高く、丁寧にセットされた長い髪の男の人。
さわやかな笑顔が似合っているお兄さんだ。
「ウィン、紹介する。エンヴェルだ。俺が国家魔術師だったときからの友人。今日は、彼と話をするためにここに来た」
「よろしく、お願いします。ウィンと言います」
ウィンに向かって紹介をする。
俺が国家魔術師だったころからの知り合い。有能なのもそうだが、決して不正に手を染めたりしない正義感も持ち合わせている。
あまりの政府のダメっぷりに、今の状況を忠告しようとして、彼を呼んだのだ。
「ってこれはこれはかわいい彼女だ」
「違う。訳あっていっしょに住んでるだけだ」
「ありがとうございます」
そう言うとウィンはぺこりと頭を下げる。違うからな。
そして俺達は店の中に入る。高級そうなスーツを着たウェイターに誘導され、4人掛けの席へ。
すぐに、ディナーを人数分注文。
ウェイターの人がこの場を去った直後、早く話の本題に入りたいという想いでオホンと咳をして、エンヴェルに問い詰める。
「なあ教えてくれよ。今政府で、どんなことが起こってるんだ?」
その質問にエンヴェルは沈黙。
しばしの時間が経ち、大きくため息をして俺達から目をそらして外の景色に視界を置く。
やはり、なんかあったのだろうというのがよくわかる。
「至る所で新国王側と、旧国王側で対立が起こっている。もちろん国民のことなど置き去りにしてだ」
さらにエンヴェルは深刻そうな表情になって話を進めていく。
「政策を進めようとしても、その仲間が違う派閥だ露骨に嫌がらせをしてきたり、足を引っ張たりしている。誰を責任者やトップにするかも、能力や実力よりもそう言った事情ばかり優先している状況になってしまっている」
それだけでなく、互いに足に引っ張り合いになってしまったり、
無能な奴がひとの上に立ってしまったり、かなりの弊害が出ているのだとか。
「やっぱり、お前達の方にも影響は受けてるのか?」
「当然だ。相当影響を受けてる」
「だからお前、腕を怪我したのか」
俺はこの前のクエストのことを話す。無能な指揮官、バラバラな冒険者達。
「指揮官がしっかりしないと、不測の事態に全く対応できないんだよな」
思わず愚痴を吐いてしまう。
一人一人が優秀であることと、チームとして優秀であることは全く違う。
いくら強いランクの冒険者をそろえたとしても、指揮官があれでは冒険者達の力は思うように発揮されない。
流れに乗っているときはいいが、罠にかかった時、うまくいかないとき──苦戦を強いられてしまう。
本来指揮官というのはそういう時に周囲の士気を与えたり、適切な策を練ったり鼓舞したりしなければいけない。
その人物の能力で、チーム全体の力が大きく決まってしまうのだ。
「とりあえず、この状況を何とかするために、協力してくれ」
俺だってこの状況を何とかしたいと思ってる。けれど、もう政府とかかわりのない俺一人が頑張たって、どうしても限界がある。
だから、協力者が欲しいのだ。この国を、変えていく協力者が──。
「俺も、もちろん協力する。だが、俺だって一人の役人。できることには限界がある」
「それは分かってる。何でも他人任せにはしない」
「ありがとう。一緒に、政府と戦おう」
取りあえず、政府の人に協力を取り付けることに成功。
定期的に秘密裏に会食を取ったりして情報交換をしたりすることとなった。
「ありがとな」
「気にするな。政府内のゴミ掃除を手伝ってくれるってんだ。協力は惜しまない」
そんなことを話していくうちに、セットの前菜が配られた。
ドレッシングがかかったサラダ。
こういった雰囲気の店だけあって、味はかなり良い。
片手で、時間をかけて食事をとっていく。
そして、メインディッシュのステーキが配られたころに、エンヴェルが話しかけてくる。
「それと、もう一つ聞いてみたいことがあるんだが──」
エンヴェルの視線がウィンの方に向かう。ごくりと息を呑んで、さらに踏み込んだ。
「ウィンの方なんだけれど……」
「ウィンのこと、知ってるのか?」
「ああ、元いたパーティーの人とは、付き合いがあってね。接近戦がダメという欠点を差しい引いても、かなりの力があると聞いている」
エンヴェルが何を言いたいのか、よく理解できた。
机に両手を置き、半ばウィンに向かって机を乗り出すような形で、言いだす。
「ウィン、もう1度戦ってほしい。ガルドとなら、いいコンビになるし大活躍できると思う。もう一度冒険者として、戦わないか?」
ウィンの目が、大きく開かれる。
じっと、エンヴェルの方を見ていた。
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