第32話 新国王
現国王、ソルトーン視点、
俺は現国王、ソルトーン。
俺の政務室で、黒い革の椅子に指を組んで座っている。真剣な目つきで、目の前にいる相手をにらみつけていた。
「お前……。いい加減増長しすぎだ。この国は、お前の所有物ではない」
その人物の名は、レーム。王国の中で、最も大きな勢力を持っている貴族の長。
円形ハゲ、でっぷりと腹が出た小太りの中年男。ニヤリと陰険そうな笑みを浮かべ、俺に話しかける。
「何でしょうか、国王様。わざわざ執務室まで呼び出して。私、多忙な身でして早く政務に復帰したいのですが……」
「すぐ終わる」
ぼそりと、重い口調でつぶやく。
こいつは父の時代に父と蜜月な関係を築いて、高い地位にいた。ナンバー2だったといってもいい。
しかし父が国王を引退してから、素行がひどくなった。俺は、真剣な目つきでレームに彼が行っていた悪行を突き付ける。
財務に関する官僚と深い癒着関係にあり、自分や手下たちに通じる街道の整備を優先的に造らせたりした。
政府の中の備品や食品などのやり取りを自分の息のかかった商会に独占させ、見返りとしてその商会からわいろを受け取っていたこと。
そして、そう言った金の取引を行い、王宮内で巨大な派閥を形成していたことなどだ。
俺よりも、地位が上だと言わんばかりに……。
汚い金のやり取りをして自分の味方を増やし、そのでっぷりとした腹のように肥え太っている実情に大きく声を上げたのだ。
レームは、鼻をほじりながら余裕ぶって答える。俺の怒りなど、理解していないみたように。
「全く。祖父や先代の国王が偉大だからって偉っそうに──」
はぐらかすような物言いに思わず頭に血が上る。
「ふざけるな! 今の国王はこの俺だ。父親じゃなくて俺を見ろ!」
俺は頭にきて思わず机をドンと叩く。
レームはニヤリと笑みを浮かべ、言葉を返した。
「誰のおかげで国が回ってると思ってるんだよ。まあ、お前みたいにただ家系が良くて、それだけで国王になったやつにはわからないけどな」
こいつの傲慢ともいえる物言いに大きくため息をつく。
といっても、国王になったときから父上時代からの人達と対立してしまうことは予想出来ていた。
どこの世界でも大変だと聞く。力があった国王の跡継ぎは──。
引き継いでも貴族たちは俺のことを軽く見ている。
依然として先代になびいてしまったり、その人物自体が大きな派閥となって大きな影響力になってしまったりする。
そして勝手なことをしたり、好き勝手にふるまってしまうものもいる。
こいつは、明らかにそのタイプ。
決して口だけでなく、今まで結果を出してしまい、賛同者が多いから余計に厄介だ。
「全く、俺様のおかげであんた達王族は全盛期を築いたんだぜ。いわば俺は功労者だ。だからいい思いをするのは当たり前だろう。なのになんで俺にこんな仕打ちをするんだ」
「違う。時代が良かったからだ。対魔王軍の前線基地だから国は潤ってて活気づいてたんだ」
どや顔で言い張るレームに冷静に突っ込む。
お前の時代は、ボーナスステージのようなものだ。魔王軍との戦いを背負わされる以外、誰がやったって王国は上手くいく。
世界中からの、支援があったからだ。その金があったからこそ、こいつは自分達の領地に利益を供給し、金の力で大きな派閥を形成することができた。
しかし、今は違う。
今までのように、世界中から支援をもらえて、黙っていれば国が潤うような状況ではない。
考え方を、変えなければならない。
しかし、人間というものは成功したやり方に固執してしまうもの。
彼がそう。いつまでもあの時の考え方のように権益も、利権も、みたいなことをさせるとあっという間に国の財政は破綻する。
しかしこいつは時代やタイミングが良かったから成功したのを自分の実力だと勘違いしてしまっている。
俺もなんとかしようとしているのだが、こいつを何とかしなければ穴の開いたバケツに一生懸命水を入れているのと一緒だ。
「とにかく、あなたのやり方は横暴すぎます。私は先代からあなた達キャンベル家に仕えてきたのです。もう少し私達に任せて──」
「できない。お前を野放しにしていたら、国は絶対に傾く」
「勝手に言ってなさい。あなたにその力があるのならね──。では」
「待て──」
俺の言葉も聞かずに、レームはこの場を去って行ってしまった。
俺は、イラついて思わず机をドンと叩く。
悔しいが、奴の言う通りだ。
新参者である俺には、周囲を引き付ける力が不足している。
どれだけ正論を叫ぼうと、配下達は悪であろうと力がある人物の方へ行ってしまう傾向がある。
そして理論詰めをしたところで、「お前に何ができる」と突っ返される。
理論詰めをしたところで、やりすぎれば余計にヘイトを買ってしまう始末。歳出カットだって限界があり、今でさえやりすぎて冒険者が不足気味になってしまっている始末。
これ以上は無理だろう。
幸い俺には演説の才能があるようで、国民に対して訴えかければみんなが話を聞いてくれるし、支持者も一定数いる。
しかし、それだけではだめだ。どうやら俺は周囲への面倒見や協調性に難があるようだ。
おかげで周囲からたびたび反発を食らってしまう始末。
自分の力の無さに、思わずため息を吐く。額を頭で抑え、考え込んだ。
もっと、俺にないものを持った人物。
周囲への配慮うまく、人々をまとめることができる人物。
そんな人物と組めば、少しは変わるのだろうか……。
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