第25話 不安


 それから、夜になる。明日はダンジョンに侵入するともあって入口の前でテントを張って泊まることとなった。



 キャンプをしながら、後輩たちと話をした。


 干し肉と固いパンと口にして、川でとってきた水を口にして、もう寝ようかという所。

 焚き木を消したエリアが気さくに話しかけてくる。


「ガルド、ちょっといい?」


「何?」


 そしてエリアが俺の耳に口をつけると、ボソッとした声で話してくる。


「彼女との進行具合はどう?」


 予想もしなかった言葉に俺は言葉を詰まらせてしまう。

 そして、エリアが肘を腕に当て、うりうりとからかってきた。


「彼女なんていねーよ。変な冗談はやめてくれ」


 オホンと咳をして冷静に突っ込む。しかし、エリアはにやけ顔を止めない。



 けれど、本当のことを言ったらドン引きされてしまうということだけは理解できる。


 一度オホンとせきをして、冷静な口調で言葉を返す。


「気のせいだ。俺に、交際相手はいない」


「またまた~~ウィンちゃんとはどこまで言ったの? もうキス位はした?」


「あんな子供相手にそんなことするかよ。捕まるぞ」


 俺は冷静に言葉を返す。当然だ。そういう一線は、絶対に越えないと決めているんだ。


 エリアは、俺をニヤリと笑みを浮かべ、見ている。今の言葉を、信じ切っていないというのが良く分かる。


「とりあえず、俺とウィンにやましいことなんてない。無駄な詮索するな」


「はいはい」


 エリアは、それ以上何も言わなかった。

 そして、俺は眠りにつく。


 目をつぶりながら、ウィンとの関係について考えた。

 考えたらウィンと同じ部屋で暮らして、料理まで作ってもらっている。


 服を整えてもらい、家事までやってくれた。


 赤の他人から見たら、夫婦だといっても過言ではない。

 おまけに、ウィンはとても俺にとてもなついている。


 この仕事が終わったら、一緒にデートとかしよう。









 翌日。朝食をとった後、俺達はすぐに準備をして行動。


 作戦としては、小高い山の森の先にダンジョンがあるので、陣形を組んで森に入って行く作戦だ。

 その通り草が生い茂る獣道から森の中に侵入を試みようとしたとき。

 周囲の陣形を確認して、感じた。

 ──これはまずいぞ。


 欠陥に近い冒険者の配置。俺は手を上げる。


「この作戦には、問題があります」


 その言葉に、パウルスが機嫌の悪そうな表情になる。明らかに、琴線に触れたかのような──。

「俺様に口答えするな」とでも言わんがかりの態度で言葉を返して来る。


 それでも、俺は言う。そうしなければ、他の仲間達に危害が加わるからだ。


「後ろから奇襲があるかもしれません。誰か、後ろに警戒する役を置いた方がいいと思うのですが……」


 するとパウルスはチッと舌打ちをして、けげんな表情になった。

 そして、俺の方を指さす。


「めんどくっせぇな~~。じゃあお前がやれよ」


「……わかったよ」


 エリアの言う通りだ。欠陥を指摘しても知らん顔。そして指摘した人に責任を押し付けられる。


 エリアが苦笑いをして話しかけてきた。


「だ~~からこうなるって言ったじゃん」


「仕方ないだろ。誰かが言わなきゃいけないんだから」


 その言葉にエリアがニヤリと笑みを浮かべた。


「そういう所が、ガルドのいいとこなんだよね~~。ね、ニナ」


 視線を向けられたニナの顔が真っ赤になる。


「な、何で私に振るんですか? まあ、私も──そう思いますけど……」


「からかってのかよ」


「もう。そんなんだから彼女が出来ないのよ」


「はいはい……」


 エリアのからかうような言葉をあしらって、俺は黙って後ろへと移動。


 それから、ダンジョンへと移動を開始。

 時折森から動物が襲って来るが、難なく退治。


 しばらく日当たりの悪い山道を進んでいくと、ダンジョンにたどり着く。


「よし、なんとか辿り着いたぞ」


 一呼吸してから、俺たちはダンジョンの中へと進んでいく。


 もちろん俺やエリア、ニナは列の一番後ろ。


 一番後ろというのは、そんなポジションではある。特に、ダンジョンの場合宝や貴重品を発見した場合、手に入れにくい。気付いてその場所に行く頃には、先に見つけた人に占領されがちだからだ。


 けれど、誰かがやらなければならないということに変わりはない。

 本当はそういう人には埋め合わせとして特別手当が出ているはずだったのだが、このクエストにそんなものはない。


 そんな中で、暗くて見通しが悪い道を行く。

 隊列も乱れきっていて、無駄話をしている人もいる。当然、それを指摘する人なんていない。


「しかし、真っ暗だなこれ」


「誰か、明かりを照らせる奴はいないのかよ」


 愚痴り始める冒険者達に、手を上げたのはニナだった。


「はいは~い。私が照らしまーす」


 真っ暗で何も見えない道。ニナが魔法で明かりを灯す。


「私に、任せてください」


 エッヘンと言わんばかりのどや顔をすると、洞窟の中が昼間のように明るくなった。


「大丈夫ですか? 皆さん」


「おおっ。明るくなったぜ」


「すげえな姉ちゃん。ってかかわいいな。俺と付き合ってくれよ」


「こんなところでナンパなんかするんじゃねぇよ!」


 その言葉にどっと笑い声があふれる。いつ敵が来るかわからないってのに、まるでピクニック気分だ。

 ニナはほんのりと顔を赤くして、首を横に振る。


「ダメです。私には心に決めた人がいるんです」

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