第24話 新たなクエスト。しかし──



「よーし皆行くぞ」


 リーダーの言葉に、みんなが足を進める。

 街の門をくぐった草原の道。俺達冒険者の集団がゆっくりと歩を進めていく。


 歩いていると、うりうりといわんばかりにエリアが肘を当てながら話かけてきた。


「久しぶりの遠征。大丈夫なんかい?」


「大丈夫だ。変なミスなんてしない。安心しろ」


 そう、今日はかなり久しぶりの遠征だ。数日間、家には帰れない。

 隣国との街道沿いに、新しいダンジョンが発見されたらしい。そしてダンジョンから出た魔物が街道沿いに現れ、物資の輸送馬車に被害が出ているだとか。



 本当はウィンがいる手前、参加したくはなかったが、この街道の安全が確保できなければ王都への輸送網は途絶え、物資の貧窮が深刻になってしまうだろう。


 やむを得ず、参加することとなった。


 事情をすると、ウィンはコクリと首を縦に振ってくれた。


「しょうがないですよ。私、待ってますから……」


「ありがとう、ウィン。仕事の方、うまくいくといいね……」


 絶対に、ウィンに何かしてあげよう。

 ちなみに今回、輸送網に被害が出ているだけあってかなり大規模な遠征だ。


 政府が「あの無駄飯ぐらいが役に立つチャンスだ。一刻でも早くあの邪魔者を始末して来い!」と激怒し俺達を派遣させただとか。


 その数、百人ほど。それくらい、政府にとっても重要な大事らしい。



 王都を出て丸二日。事前に与えられた地図によると、そろそろ目的地にたどり着くころ。

 左手側の沼沢地が少しずつ浅くなっていて、途切れた。


 雑木林が広がっている小高い山。

 だだっ広い草原、ところどころ起伏があって、小波のようにうねって見える。


 所々に転がっている大きな石。

 藪に覆われた廃屋。以前は人が住んでいたのだろうか……。


 うっそうとした雑木林の向こうには、低い山並みが連なっている。

 そして、その雑木林の先の山にダンジョンはある。


「とりあえず、目的地にはついた。いったん休憩を取ろう」


 案内役の人が周囲にそう伝えると、みんなこの場所に座り込んで休みだした。

 気の抜けたような雰囲気がこの場に広がる。


 だるそうに座り込んだり、プライベートなことを話したりしている。


 だらけ切った様子を見ていると、耳元でささやいて来た奴が一人。


「これ、大丈夫かね~~」


「警戒した方がいいな、エリア。統率が、全く取れていない」


 エリアだ。彼女もこのクエストに参加していた。


 そしてエリアも、全く同じ懸念を示していた。確かに長旅で疲れていたのは分かる。

 けれど、ダンジョンが近くて敵が襲ってくる可能性があるのに、見張りも立てずに全員気を抜くっていうのは今まででもなかった。


 ちょっと、心配になってしまう。

 そんなときに、1人の人物が手を上げてこっちに来た。


「ガルド先輩。また一緒でしたね」


 ニナだ。明るい表情で、ニッコリと話しかけてくる。


「そうだね」


 ニナは俺の気まずそうな表情に気付いたようで、不思議そうな顔で言葉を返す。


「何で、気まずそうな顔してるんですか?」


 その言葉に俺はさっきまで悩んでいたことをすべて話した。

 ニナは、人差し指を口元に当てて考え込み、言葉を返す。


「ん~~。でも大丈夫じゃないですか? だって、こんなに大人数なんですよ」


「いや。クエストにしては、人が多すぎる。逆に、まとめきれるのか不安だ」


 その言葉に、ニナの表情がキョトンとなる。


「人が多い方がいいんじゃないんですか? それだけ戦力が充実してるってことでしょう?」


 ニナの言葉に、特に違和感は感じない。戦場というものをよく知らない人はそう考えてしまいがちだから──。とにかく人を集めればいいと──。


「人数が多いというのは、いいことばかりではないんだ」


「どういう、ことですか?」


 キョトンとした表情のニナに、俺が答える。


「人数が増えれば、確かに戦力は上がるが──同時に統率がとりにくくなる。バラバラで身勝手な行動が増え、敵に気付かれやすくなったり、場合によっては人質に利用されてしまったりすることもあるからだ」


「そ、そうなんですか……」


 あわわと両手で口を覆うニナ。するとエリアがさらに話す。


「それだけじゃないわ。あの指揮官、問題だらけなのよ……」


 エリアは前方に視線を向ける。俺とニナも同じ方向を見ると、この作戦の指揮官パウルスの姿があった。茶色っぽい軍服を着た、サングラスをかけている中年くらいの男の人。


 部下や冒険者達を気遣ったり、周囲の情報を聞いたりする動きなどなく、葉巻を吸いながら石の上にふんぞり返って座っていた。


「確か、パウルス──だっけ」


「そうよ」


 あくびをして、退屈そうに空を見ている。

 周囲に気を配ったり、話しかけたりするそぶりはない。


 大丈夫なのかと心配していると、エリアが話しかけてきた。


「あいつの評判、聞いた事ある?」


「ない。名前くらいしか、聞いた事がないな」


 確か、国家魔術師の一人だった。恐らく、大事だったので国から魔術師を派遣して彼に指揮権を渡したのだろう。


「最悪よ。お父さんが兵士団でもそれなりに身分があったから、そのコネで地位を手に入れた。賄賂や不正取引の噂は絶えないし、周囲への人望もない。権力をかさに女や酒に浸ってばかりの存在よ」


「うぅ……なんだか不安になってきました」


 ニナの言う通りだ。人数が増えれば増えるほど、統率が取れなくなったりまとめきれなくなったりする場面が増えてくる。だからこそ優秀な指揮官が必要なのだが。


 よりによってこんな親の七光りしか取り柄がないやつだとは……。

 ──どうにもならないことを嘆いても仕方がない。指揮官が無能だということを頭に入れておいて行動をとろう。


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