第26話 ニナ、大ピンチ
ニナはほんのりと顔を赤くして、首を横に振る。
「ダメです。私には心に決めた人がいるんです」
「そんなこと言わないで。今度デートだk──」
「ハイハイ。セクハラ質問はやめて、先へ進む進む!」
「ちぇっ──」
エリアがセク質冒険者の背中を押して、俺達は再度道を進み始めた。全く、ダンジョンの中でこれだ。大丈夫なのだろうか。
そんな新人たちへの不安はあるけれど、エリアだっている。
誰だって新人だったころはあるんだし、指摘するところは指摘して、しっかりと見守った方がいいだろう。
それに、ニナには心に決めた人がいたんだ。初めて知った。
良く分からないけれど、かっこよくて、しっかりした人なのだろう。どんなタイプの人が好みなのかな……。
気になる。
それからも、しばらく道を進んでいく。
時々コウモリがバサバサと出て来る。
「うおおおっ!」
「なにこれ、怖っ!」
新人達はかなりビビってる様子。それだけではない、他の冒険者。特に経験が少なそうな奴は周囲をキョロキョロしたり、戸惑った表情をしていた。
本来であれば、こういう時にリーダー格の人が言葉をかけたり、気を使ったりして場を落ち着かせなければいけないのだが、今回はそのリーダーが全く使えない。
何とか、自分たちで対応していくしかない。
その後も、暗闇から時折、コボルトやゴブリンが奇襲を仕掛けてきた。
指揮官は何も指示を出さない。「早くしろ無能」とか「こんなザコ早く片付けろ」だの何もしないくせに罵声を浴びせ続けていた。
そして、そんな戦いをしながら真っ暗な道を抜けていくと──。
「あれ、何かあるんじゃね?」
1人の冒険者が道の奥を指さす。
道の先に、光があった。
「そうね。行ってみましょ」
明るい場所が見つかったせいか、周囲が気が抜けたような雰囲気になる。
まるでゴールが目の前にあるような感覚だ。
「待て、油断するな。こういう時こそ何かある」
「わかりましたわかりました」
俺が忠告しても、冒険者達はへらへら笑って言葉を返す。
本当は指揮官が、こういう時に規律を守らせなきゃいけないんだけど、指揮官は何もしない。
「なんだよ、簡単な仕事じゃねえか」
すっかり油断しきっている。
俺だけでも警戒は怠らないようにと警戒を持ちながら、俺達は光の射す場所へ。
大きな広間。
誰もいないはずなのに、ランプがついていて、明るくて広い。
見たこともない古代文字が描かれている壁。
そして、白い服を着た女の人、その他にもいろいろな動物が描かれた壁画。
女神──なのだろうか。
そして──。
「おおっ。すっげぇ! お宝じゃん」
部屋の奥に、金や銀で出来た宝の数々。新人たちはそこにあった宝を見るなり、一目散に走っていく。
「待て、これは罠だ」
俺は彼らに向かって慌てて叫んだ。気配を感じるからだ。何か、強い力の──。
ニナも、それを伝えようとしたのか駆け足で彼らの方へと向かっていく。
そして、その気配が一気に大きくなり──。
ドォォォォォォォォォォォォォォォン!
大きな爆発音が聞こえたと同時に、この場所の壁の部分がまるでガラスだったかのように崩壊。
壁から何か大きなものが出て来た。
「な、なんだあれ」
「ドラゴンだ。以前遠征で見たことがある」
冒険者達が叫ぶ。確かにそれは間違いではない。しかし、あれはただのドラゴンではない。
深緑色と灰色を基調とした細長い体。手足はひょろりと細長いが、手足から出るかぎ爪はとても鋭くできていて、先端からは人間ではありえないくらいの魔力があるのがわかる。
つり目でこっちをにらみつけている。
禍々しさを前面に出したような外見。
確か、ストームドラゴンっていうんだっけ。
ドラゴンの中でもパワーがあるタイプ。
油断していると、かなりの傷を負う。
そして、まずかったのは奇襲の仕方だ。部屋の中腹から入ってきたので、俺達と宝に目がくらんだ冒険者達が分断されてしまった。
「みんな、戦う準備だ」
他の冒険者達が、慌てて戦う準備をしだす。
しかし、突然の戦いだったおかげで、陣形も連携もバラバラ。
そんな状態で、ストームドラゴンとまともにやりあえるわけもない。
「何だこいつ。強いえぇじゃん!」
次々に返り討ちにあっていく。
吹っ飛ばされる奴も出て来た。
そして──。
グォォォッ──、グォォォォォォォォォッ──!!
「こ、こっちに来た」
「助けてくれ──」
分断されたいた冒険者達に襲い掛かり始める。
俺も他の冒険者達もなんとか彼らを救おうとするが、距離が遠すぎて間に合いそうもない。
その時、唯一間に合いそうだったのが──。
「私が助けます!」
ニナだった。比較的近い場所にいたニナは自分の危険も顧みずに敵たちに向かって突っ込んでいく。
当然攻撃を受け、壁際に吹き飛ばされてしまった。
ドラゴンはニナをにらみつけた。接近戦を戦えないニナでは勝ち目がない
怯えるニナに──ドラゴンは雄叫びをあげながら突っ込んできた。
仕方がない──。
ストームドラゴンが殴り掛かってくる中、俺はすぐにニナの元に飛び出していった。
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