第22話 初めての仕事は、いわくつきのカフェ


 ウィン視点。


 初めての仕事。働き場所は、ドリーム☆カフェ。

 名前はドリーム☆カフェかわいい雰囲気で、女の子たちがかわいいと評判のカフェだ。


 おまけに、他の店より給料が高い。ちょっと、演じなきゃいけないものがあるけれど……。


 かわいい飾りに作られた入口の前で、私はふんすと両手を強く握り、覚悟を決める。

 絶対、ガルド様の足を引っ張らないように、頑張ろう。


 それに、面接でも聞いたけど、接客業の上に、料理もマニュアルがありそこまで難しいわけではないと聞いていた。


 店主の人も「大丈夫だよ」と言ってくれた。


 開店前の時間帯。コンコンとノックをしてから「おはようございます」といって頭を下げる。

「おはようございます。今日から、一緒に頑張りましょう」


 店の人が私に気付いて頭を下げてくれた。

 1人は、面接でいた店長の人。背が高い、茶髪の人。


 もう一人は、メイド服を着た女の人。肩までかかった黒髪のストレート。冷めた様な表情をしている。背丈は私と同じくらいだけど、大人っぽい雰囲気で私よりも年上だというのがなんとなくわかる。


「──私が、指導します」


 そして制服を渡され、一緒に更衣室へ。


 ──恐らく、先輩だ。悪い印象を持たれないようにしよう。


「お、おはようございます」


 私はぺこりと頭を下げた。先輩の人は無表情のまま私にお辞儀をしてくる。


「私はレーノ、よろしく。あなたがウィンちゃんね」


「──はい」


「私がしっかり教育するから、よろしくね」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 そしてしゃべりながら着替えが終わり、その姿に──愕然とした。


 それは、一見すると白と黒、灰色のゴズロリメイド服。色調やデザイン自体はかわいらしくて、メイド服としては悪くないと思う。

 なのだが……。


「これ、恥ずかしいです」


 まず、スカートの丈が短い。太ももが半分くらい露出してしまっている。

 さらに、腕がノースリーブで全部出ているのもそうだが、何より恥ずかしいのは胸元。


「いいスタイルしてるじゃない。絶対売れっ子になるわ」


 3分の1ほどが露出してしまっている。すごいエッチな服装だ。

 よく見てみれば、レーノさんのメイド服も、ちょっとセクシー。


 肩のあたりが露出していて、スカートも短く太ももが3分の2くらい出ている。


「じゃあ、このカフェの概要、教えるわね」


「はい。普通のカフェとは……違うって聞きました」


 面接のとき店長から告げられたのを思い出す。ここは普通のカフェとは違う所がある。役を演じてほしい。ここはウェイターがキャラを演じるカフェだって。


「私は甘い妹役。あなたは……」


「おとなしくて、人見知りの女の子役……です」


 店長から、告げられたのだ。あなたにぴったりの役だと。


「ここ、ドリーム☆カフェはね、それぞれが個性のある女の子になり切ったウェイトレスになるの。大変だけど、その分ファンがつくから、高い料金で売れるし給料もいいわ」


「は、はい……」


「基本的な接客もそうだけど、かわいい演技も求められるから、それもじっくり学んでいきましょう」


「……分かりました。がんばります」


 すると開店時間になったのか、客室の方から、男の声が聞こえてきた。



「はぁ~~い、今行きま──ちゅ」


「えっ」


 その声色に私は思わず後ずさりする。別人かと思うくらいの猫なで声。

 それだけではない。さっきまでは無愛想で冷めたような表情をしていたのだが、その瞬間人格そのものが変わったかのようににっこりとした笑顔に変わったのだ。


「ちょっと来て。見せてげるから」


 私はエリアさんの後をついていった。


 レーノさんは女の子走りで入口の方へ向かうと、男の人を窓側の席へと誘導。

 そしてメニューを渡すと、深呼吸をしてさらに話しかける。


「はぁ~~い、お兄ちゃ~~ん。メニューはどうちまちゅかあ──」


「あっ、えーと」


 男の人二人は顔を赤くして、デレデレしながらメニューを頼んだ。

 そして私達は再び厨房へ。


「まあこんな感じ。各コンパニオ──じゃなかった。ウェイトレスがその役になり切ってお客様に接するの。ちなみに私は甘々な妹って役だから」


「は、はい……」


 あまりのキャラの変貌っぷりに、思わず言葉を失ってしまう。


「あ、あの……」


 私は指をもじもじして質問する。


「何?」


「私、出来ますでしょうか……」



 不安だ。私、人見知りでレーノさんみたいに明るい素振りなんてできないし、役を演じるなんてできない。


 するとレーノさんは手を横に振ってこたえる。


「大丈夫大丈夫。いきなり難しいことはさせないから」


 その言葉に、ほっと息をなでおろす。

 難しい役を演じないなら、私だってできる気がする。


「そのまま。人見知りで控えめな役をやってもらうわ」


「人見知りで、控えめ……? そのまま?」


 頭の中にはてなマークが浮かぶ。



 すると、カランカランと入口の鈴の音が鳴った。誰か入ってきたんだ。


「レーノ、お願い」


「わかりました──」


 入口には新たなお客さん。レーノさんが対応する。


「いらっしゃいませ。ご指名は?」



「この、ウィンって女の人がいいです」


「わかりました」


 私の名前を聞いた瞬間、思わず体が震えた。とうとう、来たんだ。


「ほら、あんたご指名よ、行ってきなさい」


「は、はい」


 そう言ってレーノさんがぽんと私の背中を押す。初めての仕事──、うまくいくといいな……。


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