第21話 ニナの機嫌。そしてウィンの決断

「別に、なんとなく。イラっとしただけです」


 そう言ってニナはプイっとそっぽを向いてしまった。

 俺にはよくわからないけれど、きっとニナが言われて嫌なことを言ってしまったのだろうか。


 女性経験に乏しい俺には、理由がわからない。

 こんな調子で、ニナとも、ウィンともうまくやっていけるのだろうか……。

 それからも、色々なことを話す。普段の生活は大丈夫か──とか、他の仲間や友達とはうまく行ってるのか、とか──。


「大丈夫ですよ。それなりに関係は築いてます」


「それはよかった」


 話が弾む──がいつまでもこんな事ばかりしているわけにもいかない。 

 ウィンが待っている。帰らないと──。

 そして食事を終え、少し話を聞いて、店を出た。


 店の外。仕事帰りにみんなではしゃいでいる人たちや、酔っぱらっていて千鳥足で歩いている人を横目に、帰路につく。


「今日はありがとうございました、ガルドさん」


「それはどうも。ちょっとは、気持ち……晴れた?」


 分かれ道になり、二手に分かれようとするところで、ニナの顔がぷくっと膨らむ。


「ちょっとどころじゃないです。とっても、元気が出ました」


「それは良かった。これからも、期待しているよ。よろしくね」


「はい。これからも一生懸命頑張りますので、よろしくお願いします」


 満面の笑みを浮かべて頭を下げる。顔が、ほんのりと赤い。照れているのかな?


 そして、ニナは笑顔を浮かべたままこの場を去って行った。よほどうれしそうだったのか所々ステップを踏んでいる。うまく話せたかどうか俺から見たら不安だったけど、大丈夫だったみたいだ。ニナが嬉しそうで、とてもよかった。



 そして、俺も自宅へと帰っていく。ウインには、悪いことしちゃったな……。

 帰ったらちゃんと謝って、埋め合わせをしないと。







 そして朝食、昨日食べるはずだったシチューをいただく。

 しかし、やっぱりウィンは、さみしかったんだな。




 夜寝るとき、いつも抱き合って寝ているのだがクエストのあった日はいつも抱きしめてくる手が強い。

 おまけに身体を強く押し付けてくる。もちろん、その豊満な胸も。(おかげでその日はなかなか寝付けない。クエストで疲れているというのに、つらい)


 本当に何とか、埋め合わせしなきゃ。


「おいしいよ。ウィン」


「は、はい……」


「コクがあって、いっぱい具があって、美味しいし──体にもよさそう。ウィンの気持ちが、良く伝わっているのがわかるよ」

「……ありがとうございます」


 お礼を言ったウィンの態度が、どこかそわそわしている。何かあったのかな……。

 そう考えていると、もじもじしながら話しかけてきた。


「す、すいません……」


「何?」


 ウィンは言いずらそうに、周囲にきょろきょろと視線を向け、話す。


「私、働くことにしたんです。大丈夫、ですかね?」


 その言葉に、思わずパンを食べている手を止める。


「やっぱり、家にいるだけじゃ……。その──退屈で」


「それは、構わないと思う」


 あっけらかんと言葉を返す俺に、ウィンはキョトンとする。

 別に、働くこと自体は悪いことじゃない。ウィンだっていつかは自立しなければいけない。

 当然、普通に働くことだってあり得る。


 今なら、ウィンに何かがあっても俺が対応できる。

 長い目で見れば、働かせた方がウィンのためだ。それに、ウィンからそういう言葉が出て来たことが、とても嬉しい。やっぱり、将来のことも考えているんだ。とてもえらい。



 それにウィンだって、ずっと家にいるばかりじゃ息が詰まるだろうし。

 ただ……気になることがある。


「どこで、働くんだ?」


 気になる。力仕事なんてとてもできそうにない。魔法はまだ使いたくないだろうし……。

 まさか……いかがわしい仕事──ではないと思うが。


 ウィンは俺から目をそらし、言いずらそうに答える。


「近くにある、喫茶店です。張り紙を見て応募したら、即採用されました」


「名前は?」


「ドリーム☆カフェという名前のカフェです。最近、オープンした店でして──」


 聞いた事がない。今度、行ってみようか。どんな店なのか、ちゃんと働けそうか気になる。

 おまけに、もしかしたらいかがわしい店で変なことを要求されてしまう可能性だってある。高いお金を受け取る代わりに、エッチな要求をされたり──。


 警戒はした方がいいな。心配であるということに変わりはない。

 

「ウィン──」


「はい……」


「仕事、頑張って。応援してるから」


 今は、それしかかける言葉がなかった。大丈夫。ウィンにもう、嫌な想いはさせたりしないから。


「──ありがとうございます」


 そう返したウィンの目は、とても真剣なものだった。

 けど、心配だからちゃんと見守ったり、話は聞いてあげよう。



 その後、外からウィンが働こうとしているカフェを下見してみた。

 ちょっと値段が高いけれど、普通に女の子たちが接客をしている普通のカフェ。

 これならウィンでもしっかり働くことができそうだ。


 心の中でささやく。「頑張れ、ウィン」

 後、ウィンのために俺も何かしてあげないと。

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