第20話 噂
「相手からの……視点?」
その言葉にニナの顔がぽかんとなる。
「ほら、ニナってさ……。物事を考えないでチャンスと感じたら突っ込んでいく傾向があるじゃん」
「そ、そうですね……」
「でもそれは相手だって同じなんだ。俺達を出し抜こうと、罠を張り、策を仕掛ける」
「確かに、生き残りがかかっていますもんね」
「でもニナはそういうことを全く考えない。行けると思ったら何も考えず突っ込んでいく──」
「は、はい……」
話を聞いているニナの顔が真っ赤になる。
姿勢もちょこんと縮こまっているかのようなしょぼんとした者になっている。
「でも、相手だって それを、考えるようになれば、もっと成長できるはずだよ」
ニナは言葉を返さず、じっと、目元にある料理を見ながら、考えている。
真剣なまなざし。そして、俺の方をじっと見つめた後、ぺこりと頭を下げた。
「……分かりました。ご指摘の方、ありがとうございます」
とはいえ簡単にニナの悪癖は治らないだろう。
自分の思考回路を変えるというのは簡単な事ではない。おまけに先ほどのような急な戦闘で、瞬時に判断を迫られるような戦いの場面ならなおさらだ。
何かあってからでは遅い。ちゃんと、見てあげないと──。
そして、食事を再開。
ステーキがあと一口位になった時。一人の人物がやって来た。
「おうガルド、こんなところにいたのかよ」
入口の方から声が聞こえた。俺はそっちの方向に視線を向ける。
気さくに話しかけてくる人物。茶色い長髪ですらりとした長身の体系。
「なんだビッツ」
冒険者仲間の一人であるビッツだ。
彼はAランクもである名の知れた冒険者で、馬が合うせいかよく同じクエストを請け負って共闘したりしていた。
そして昨日まで、俺は断った遠征のクエストを請け負ってくれた奴でもある。
「誰かさんがさ、遠征を断っちまってよお……。おかげで俺が連続で遠征になっちまったぜ。まあ、金回りが良くなったからいいけどよ」
「……ごめんな。俺の代わりに」
俺が遠征や過酷な任務ができなくなったので、同じくAランクであった彼が代わりにそういった仕事を割り振られる羽目になってしまったのだ。
正直、こいつに頭が上がらない。
「いいっていいって。お互い様だしな……」
するとビッツは俺とニナに視線を合わせると、ニヤリと笑みを浮かべた。
俺はミルクティーを飲みながら話を聞く。
「んで、わざわざ遠征を断って、ニナとはうまく行ってるのかい」
その言葉に俺はミルクティーを噴き出しそうになってしまった。
「グホッ──、ゴホッゴホッ……」
予想もしなかった言葉にミルクティーが変な場所に入ってしまい、ゴホゴホとせき込む。
ニナは、顔を真っ赤にしてあわあわとしていた。
そして、口をふいて冷静さを取り戻し、言葉を返す。
「俺がニナと付き合ってるって言いたいのかよ。お前……」
「えっ──違うの?」
ビッツはえっと驚いた表情で言葉を返す。
「違うから」
俺はミルクティー用のスプーンを置いて冷静に言葉を返す。
「てっきりそうだと思ってた。違うのか?」
「違うって言ってるだろ」
ビッツはニヤリと笑いながらさらに話を続ける。
「んなわけあるかよ。いつも遠征やきつい仕事上等だったお前が怪我前からそれを渋りだしたんだ。そういうのは、大体女ができたって相場が決まってるんだよ」
「私と──ガルドさんが……」
ニナは、顔を赤くして下を向いてしまっていた。
「で、最近お前、ニナと仲がいい。決定決定。他に理由があるなら、言ってみろよ」
ため息をついて考えこむ。もう俺に彼女がいるってわかり切ってると言わんばかりの自慢げな表情。
どうしよう。問い詰めらるなんて、想定していなかった。何とか……考えて──そうだ。
「親戚の人が来るんだ。あ……商人とかやってる。他にもいろいろな事情があって……ちょうど無茶ができなかったんだ」
つっかえつっかえになってしまった。ビッツはジト目で俺のことをにらむ。まるで「嘘をつくならもっとうまくやれよ」などと言わんばかりに……。
そして額に手を当て、大きくため息をついた。
「まあ、そこまで言うのが嫌ならこれ以上問い詰めたりしないよ」
手を上げてニナが話す。
「本当です。ガルドさん今地方から親戚の人がいて、泊めてるんです」
ナイス──なわけない。もう遅いよ、ニナ。
「じゃあ。俺は帰るよ。あんまりデートの邪魔しちゃ悪いしね」
「デ、デート??」
その言葉にニナの顔が真っ赤になってしまった。
「おい、あんまりからかうなよ……」
「ハハハ──冗談冗談。バイバイ」
そう言って、ビッツは踵を返してこの場を去っていく。
ニナは……不満そうに顔をぷくっと膨らませていた。
「ニナ──、どうした? 機嫌悪そうな顔をして……」
何が悪いかわからないけれど、とりあえず謝ろうとする。しかし……。
ガシッ──。
「痛てっ!」
何と俺のすねを軽く蹴ってきたのだ。なんで不機嫌になっているかわからず困惑してしまう。
「な、何だよ。俺、気に障ること言っちゃった?」
「別に、なんとなく。イラっとしただけです」
そう言ってニナはプイっとそっぽを向いてしまった。
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