第19話 一緒に、夕食

 がっくりと肩を落とし、しょぼんとした声色で言葉を返して来る。


「この後、一緒にご飯食べない?」


 その言葉にニナは体全体をびくっとさせて、顔をほんのりと赤くさせた。

 ──ちょっと、まずいこと言っちゃったかな?


「えーと……食事、ですか?」


「ご、ごめん──。嫌ならいいんだ嫌なら」


「行きます行きます!! 絶対に行かせて下さい!」


 ニナはぶりっ子のポーズで俺に迫ってきて言葉を返した。意外に食いついてきて思わず一歩引いてしまう。


「わかった。じゃあ、行こう」


 驚きながら言葉を返すと──。


 ガッ──。


 エリアはニヤニヤとしながら肩に腕を乗っけてくる。ノリノリな口調で話に入ってくる。


「おー、ガルド君にもようやくの春が訪れたんだねぇ~~」


「んなことねぇよ」


 茶化して来たエリアを冷静にあしらう。ちょっと一緒に行動しただけで「付き合ってる」とか子供かよ。



 そして俺達は街へと帰還。ギルドで契約通りのお金を受け取り、ニナと一緒に一度家の前へ。ウィンに今日は予定があって夕飯を外で食べることになったことを伝えるためだ。


 ニナをアパートの前に置いてから家に帰る。ルンルン気分で玄関に来たウィン。両手にはクリームシチューが入った鍋。

 罪悪感で胸が痛くなる……。


 そして、今日は事情により外で食べることを説明。


「ご、ごめんね。ウィン。それは、明日の朝食べるから……」


「大丈夫です。ガルド様にも、都合がありますし……」


 大丈夫だと言ったウィンの表情が、どこか暗かった。

 ごめん。でも、ベテランとしてこれはやらなきゃいけないことなんだ。埋め合わせは、絶対にするから……。


 そして建物の入り口に待たせていたニナと合流。


「ごめん、行こう」


「ガルドさん、家族がいるんですか?」


 その言葉に俺はドキッとしてしまう。流石に女を連れ込んでるなんて言ったら変な噂が立ってしまう。

 しばしの間考えこんでから、何とか言葉を返す。


「い、いや……今──事情があって。その──妹がいるんだ」


「そ、そうなんですか……」


 そう言ったニナの表情が、またしょんぼりと──暗くなった。

 やっぱり、まだ気にしているみたいだ。少しでも、元気づけてあげたい。



 それから、しばらく街を歩いた。食事の場所は、ニナが決めてある。

 お気に入りの場所で、以前から行きたかった場所だとか。



 ニナに誘導された先。それは繁華街のはずれにある店。にぎやかな街のレストランに関してはひっそりとた雰囲気の店。


 値段がそれなりにする代わりに、食べ物がとてもおいしいだとか。


 星空がよく見える窓側の席に誘導される。向かい合う俺とニナ。出されたお冷を一口飲んでから、注文を頼む。


 俺はミルクティーと牛肉のステーキにパン。

 ニナはコーヒーにフィッシュアンドチップスを頼んだ。


 そして店員さんがこの場から去ると、ニナが再びシュンとし始めた。

 明らかに、落ち込んでいる。


「私、ダメなんでしょうか……いつもいつもうまくいかなくて……」


 ニナの言う通りだ。ニナは、素質はあるが……不用意に飛び出したり、前のめりになったりすることが多い。それで、事あるごとにニナはミスを繰り返していたのだ。


「あの前の仕事でも、敵の罠にかかってしまって……」


「なーにやってんだお前! 気を付けろバカ!」


「すいませんすいません!」


 そう言って必死に頭を下げる羽目になったニナ。

 以前話を聞いたが、わかっていても行けるとわかると自然と体が動いてしまうらしい。


 頼んでいた注文が来て、料理が机に置かれる。

 酒をグラスに入れて乾杯。口に入れた瞬間にニナがしゃべり始めた。


「ガルドさん、本当に素敵な人だと思います」


 俺はその言葉にワインを噴き出しせき込む。予想もしなかった言葉だからだ。


「ゴホッ──ゴホッ!! なんだよいきなり」


 冗談かと思うほどだ。しかしニナは真剣な表情で、さらに詰め寄ってくる。


「だって、私の事何度も注意してくれるじゃないですか……」


「いや、お前危なっかしくて放っておけないし……」


「そこですよ、そこ!」


 強気なニナ。だって、注意しなかったらお前どんな目にあっていたか……。


「普通の人は、そう何度も怒ったりしません。 こいつはダメだと言って諦めて何も言葉をかけなくなります。けれど、ガルドさんは違います──」



 ニナが、いつになく真剣な表情をしている。じっと俺を見つめて、さらに話を進めた。


「ガルドさんは、私がミスをした時──。いつも見ていてくれてフォローしてくれています。そしてこの前は、自分がけがを負うこともいとわず、私を助けてくれました」


「それは──当然だろ。後輩なんだから」


 そうだ。俺も先輩たちからいろいろ教わって、迷惑をかけた。だから、今は俺が後輩たちのために頑張る番。そう考えているだけだ。


「そういう所です。私のことを見捨てないで大切に想ってくれているところ。そういう所が、  す──頼りになるんです」


 ちょっと照れながら自慢げに話すニナ。そこまでストレートに言われると、俺もどう返せばいいかわからなくなってしまう。


「ありがと……」


 そして、料理をいただく。味は、値段が張る店だけあっておいしい。

 いけないいけない。食事に集中しすぎるのも良くない。何か話しかけなきゃ。

 俺は、ニナと一緒にいて感じたことを伝える。


「とりあえず、ニナの課題点なんだけど……」


「教えてください。私──強くなりたいんです」


 フィッシュアンドチップスを食べているニナのフォークの手が止まった。

 食いついているので、しっかりと話した方がいいな。


「そうだな……。足りないのは、相手から見た視点だと思う。」


「相手からの……視点?」


 その言葉にニナの顔がぽかんとなる。

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