第16話 買い物。でも、実質的な初デート
部屋を出た途端、ウィンが申し訳なさそうな表情で話しかけてきた。
「ガルド様」
「何?」
「家事なら私がやります。掃除なら、私1人で出来ます。なので、ガルド様はゆっくりしていただいて結構です」
話しているのは、さっきの掃除のこと。
ウィンは家事を一人でやろうとしていたが、それが嫌で俺も部屋の掃除をした、ただそれだけだ。
思っていた本音を、伝えた。
「何ていうか、ウィンが一生懸命やっているのに、俺が何もしないでいるのが性に合わなくてね」
「は、はい……」
返事をするウィンの声色が、どこか元気がない。やはり、尽くすだけじゃダメみたいだ。
ただやってあげるだけじゃなく、役割をきちっと与えて、居場所を作っていくことも大事なのかと感じた。
そして、街に出る。
人通りが多く、露店が連なる通りに到着。
なじみの店で、色々なものを買う。干し肉に、魚の干物。それから柑橘類のドライフルーツなど……。
ウィンといろいろ話したりして、とても楽しい時間を過ごせた。
「これ、美味しいです……」
「オレンジのドライフルーツね。じゃあ買おうか」
楽しい時間だった……のだが、思ったことがある。
「ガルド様、いい嫁さんを持ったねぇ。大切にするんだよ」
「お前さん、やっと彼女ができたんだって? ウィンちゃん。いい子じゃないか」
店の人が話しかけてきた。さっきの店で思ったのだが、何というか……俺はウィンと付き合っていることになっている。
どういう風の吹きまわしなのか。
ちょっと聞いてみよう。
フルーツを売っているふくよかなおばさん。サワークラウトの瓶詰を買うついでに聞いてみた。
「何で、俺に対する評判がおかしくなってるんですか?」
「ウィンちゃんだよ。いつもあんたの事、褒めてたよ」
「本当ですか……」
唖然とした。ウィンの奴買い物をするときいつも俺のことを言っているらしい。
思わず俺は、そんないいやつじゃないんだけどな……。思わずウィンに視線を向けると、ウィンは顔をほんのりと赤くして顔を知らす。
「す、すみません。よく私のことを聞かれていたので……。でも、ガルド様のことは悪く言ったりしてません」
それからも、店で買い物をするごとに他の客や店員たちにいろいろ根掘り葉掘り聞かれる。
干し肉などを取り扱っている夫婦の露店へ行ったときは面倒だった。
「ウィンちゃん──」
「なんでしょうか?」
「正直に答えていいんだよ。本当はあの男に変なことされてるんだろう?」
「そんなことは、ありません」
「そんなこと言って、本当は夜無理やりあんなことやこんなことされたり、ストレス解消に暴力を受けたされていないか?」
「そうだよ。こんなスタイルが良くてかわいい女の子。体目的に決まってるよ」
ウィンはその言葉にあわあわと手を振って言葉を返す。確かに、心無い人だとストレスや性欲の解消のために身分が下の異性に性的な要求をしてきたり、暴力をぶつけている人だっている。
「大丈夫ですから。ご主人様は、そんなことしないし、いつも私のことを思いやってくれています。私がわからないことをよく教えていただいたり、やけどしたら応急処置をしてくれたり、本当にいい人です」
ウィンは強気な目線でおじさんを見つめ、言葉を返す。
おばさんは俺のことをじっとにらみつける。そして──。
「まあ、嬢ちゃんがそこまで言うなら信じることにするよ」
そしてニヤリと笑みを浮かべ、俺の隣へ来るとにやりと笑う。
「いい彼女さんだね。あんたにぴったりだと思うよ。うりうり~~」
おばさんは茶化すような笑いを浮かべ、肘で俺の腕に触れてくる。
「違いますから、住処を失っていたので、しばらく泊めているだけです」
「そうかいそうかい。そういうことにしておくよ。幸せにするんだよ」
冷静に言葉を返したが、明らかに何か勘違いをしている。
どう釈明したところで信じてくれなさそうだったので、スルーしておいたが。
その他の店でも、「あんなスタイルがいい子。どうやって手に入れたんだよ、毎晩お楽しみなんだろう」とか「お前の初彼女スタイルいいな。もみ心地はどうよ」など散々な言われようだ。
ウィンもそのたびに恥ずかしくなってしまったのか、顔を赤くして視線を合わせなくなってしまった。
賑やかな通りを歩きながら、気まずい雰囲気で歩く。
会話が弾まない。
取りあえず、話かけた。
「こ、この後なんだけどさ……」
「何でしょうか」
「おいしいスイーツの店があるんだけど、行ってみない?」
その言葉にウィンの表情がすこしだけ明るくなったのを感じた。
以前、エリアが自慢げに話していた。
甘いお菓子が有名なお店。いろいろメニューが豊富で、おいしかったと──。
その店に、行こうということだ。場所も、エリアが言っていた。
あの時はそのまま聞き流していたが、憶えておいてよかった。
そこに行けば、ウィンの機嫌も良くなって、雰囲気も良くなるかもしれないと思ったからだ。
そして繁華街のはずれへと移動。人通りはさっきまでよりやや少なく、ひっそりとした雰囲気の場所。
そんな通りに、店はあった。
「ここ。入ってみよう」
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