第17話 とてもおいしい、ハニートースト
そして繁華街のはずれへと移動。人通りはさっきまでよりやや少なく、ひっそりとした雰囲気の場所。
そんな通りに、店はあった。
「ここ。入ってみよう」
「はい」
店のドアを開けると、チリンチリンとした鈴の音とともに、ウェイターの人が来た。
「いらっしゃいませ」
俺達は外のテラス席に誘導された。メニューを渡され、2人でそれを見る。
ウィンが、ほんのりと顔を赤くして、メニューにある1つの品物を指さした。
「ガルド様……その──これ、食べてみたい」
恥じらいながら刺した食べ物。それは──。
「ハニートースト?」
「はい」
ウィンによると、以前のパーティーでキャバクラに連れてかれたところ、みんなで食べたことがあるらしいのだ。
ウィンをキャバクラに連れて行った倫理観は置いといて、その時の味が忘れられないらしい。
俺は、聞いたことはあるが食べたことはない。
確か、1斤のパンを丸々焼いてその上にはちみつやアイス、チョコレートなどをかけたやつだっけ。
食べたいというのなら、頼まない理由はない。
「じゃあ、一緒に食べてみようか」
「は、はい──」
ウィンの表情がはっと明るくなった。
とても、嬉しそうだ。これだけでも一緒に出掛けてよかったと思える。
そして店員さんを呼んで、注文を頼む。
ドリンクは、俺がアイスティーで、ウィンが砂糖多めのカフェオレ。
そして──。
10分ほどすると、その料理が出て来た。
「お待たせしました」
目的のハニトーを目にして、ウィンの目がキラキラと輝いた。
「お、おいしそう……」
俺も、同じことを思った。
大きな1斤のこんがりと焼けたパン。その上に、大きなアイスクリームが乗っかっていて、アイスにはチョコとキャラメルのソース、はちみつがたんまりとかかっっている。
すごい、甘そうだ。でも、ウィンなら美味しく食べてくれそう。
「じゃあ、食べようか」
「……はい」
思ったよりボリュームがすごい。2人で食べきれるのか不安になる。
皿に置いてあったナイフでパンとアイスを切り分け、互いの小皿に乗せる。
コトッと片方の皿をウィンのところに置いてから、俺の分の皿を置いた。
「いただきます」
そして俺達はハニトーを口にしていく。
ウィンがアイスと食パンを口にした瞬間、彼女の表情がキラキラと輝いた。
「お、美味しいです。すごい……」
「確かに、甘くておいしいね」
食パンと甘いアイスクリームにはちみつ、ソースが絶妙にかみ合っていておいしい。
小腹が空いてたのも相まって、食事が進む。
とにかく甘い。けれど美味しい。
ウィンはハフハフと顔を高揚させながら食パンとはちみつやキャラメルソースのついたアイスを口にする。
「こんなおいしいものだったなんて、知らなかった。食べてよかった」
ウィンの表情が、今までにないくらいに明るくなった。
恍惚な笑みを浮かべ、ほっぺをおさえている。今までにないくらい、幸せさを感じる表情だ。幸せそうな表情を見ると、こっちまで嬉しい気分になる。
けれど、あくまで主役はウィンだ。1人で、食べ過ぎないように気を付けよう。
「どんどん食べていいよ」
「あ、ありがとうございます」
いつものウィンとは思えないような、積極的でがっつくような食べ方。
あっという間に、2人でハニトーを食べ終えてしまった。
美味しかった。俺とウィンで食パン1斤と握りこぶしサイズのアイスを平らげられるかなと、心配になったけれど、ウィンが6割近くをぺろりと食べてしまった。
甘いものは、別腹というやつなのだろうか。
なんにせよ、ウィンが喜んでくれてよかった。
幸せで、満足げな表情を見ていると、こっちまで幸せな気持ちになってくる。
もっとウィンに尽くしたい。喜んでほしいって、自然と感じられる。
けれど、俺のセンスでそれができるかはわからない。
取りあえず、今後のことを言っておこう……。そう考えて、残っていたアイスティーを全部飲み干した。
ウィンが締めにカフェオレを飲み干したタイミング。
コトッと机にコーヒーカップを置いた瞬間に、話しかける。
「ウィン。ちょっといいかな?」
「──なんでしょうか」
「俺は、ウィンに対して大切に扱う。奴隷ではなく、一人の人間として」
「それは、わかってます」
「ただ、俺は異性との交際経験なんてない。だから……その──あまり期待を持ちすぎないでほしい。かっこいいエスコートとかは、たぶんできないと思う」
そうだ。あまり期待され過ぎて、後になって落ち込まれても困る。ここは、期待させすぎないようにしっかりと言っておこう。
「わかりました」
ウィンは目をキラキラ言葉を返して来た。
ウィンをガッカリさせないような男になれるのかどうか、とても不安だ。
……とりあえず、周りの女性にいろいろ聞いてみた方がいいのかな? エリアなら、もうウィンのことも知ってるし──。
そうしよう。俺一人では、どこかでウィンを失望させてしまうだろう。異性関係に関しては自身がないけれど、ウィンをがっかりさせないように全力を尽くしていこう。
そして、今度はウィンが言葉を返して来た。
ちょこんと両手を膝の上においた、かしこまった態度。
「でも、ガルド様が、私のことを想ってくれているのだけは、とても理解できます。私こそ──よろしくお願いします」
そう言って、ぺこりと頭を下げた。
ウィンが頭を下げたのを見て、感じた。
手と手を絡めあう。恋人つなぎというやつだ。
普通に手をつないだ時と比べて、ウィンの指の感触を手全体で感じることができる。
絹のような、柔らかくて繊細な手。
握っているだけで、気持ちが安らいで、もっと幸せにしてあげたいという気持ちになれる。
それから、ぎゅっと体を寄せてきた。
大きな胸の感触を腕全体に感じる。ウィンの暖かくて柔らかい体が当たり、思わずドキドキしてしまう。
まるで、天国にいるかのような感触。そんな感覚に包まれながら、思った。
ウィンのことを、これからも大切にしていこうと──。
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