第14話 崩壊の兆し。そしてただいま
声を上げて積極的に行動するのは全く評価されず、間違いやミスは大きく評価を下げてしまう。
つまり何か問題が起きた時、大きく声を上げることによって責任問題になったり、その仕事を押し付けられてしまう。そして評価は全く上がらない。
逆に気が付かないふりをして、自分の持ち場だけミスなくやったやつの方が評価が高くなってしまうのだ。
「これ、平時の今ならいいんだけど、有事の時まずいぞ……」
「確かに──、けどそれを理解しないうちはどうすることもできないな」
今まで有事の時、何とか国を守ってきたのは俺たちが必死になって戦ってきたからだ。
何度かエリアたちが訴えたこともあるのだが、貴族たちは「そんなことできない。それに何の問題もないじゃないか」とつっかえされてしまったとのことだ。
「もう、しらないわ」
エリアはつまみのチキンを飲み込んであきれ果てる。
確かに、俺もこれには失笑しかない。
何の問題もないというのは、今だから言えることだ。
有事の際、例えば魔王軍の様な力のある存在と戦うことになってしまった時とか、間違いなく大ピンチになってしまう。何もないときにギリギリで回していると、そういう時に全く対応できなくなってしまうのだ。
魔王軍との戦いが終わった後、王国で大きな戦いはなかった。せいぜいさっきまでのゴブリンとの戦いの様な小競り合い程度。
何事もなかったゆえに、その必要性が理解出来ていなかったのだ。
恐らく、貴族や役人たちにはそれが理解できないのだろう。
「確実に、近いうちに問題が起こるだろうな」
「……だよな」
俺もエリアも同じ意見だ。ため息をついて、コトッと飲み干したジョッキを机に置いた。
とはいえ、愚痴を言った所で問題は解決しない。
俺達は俺達でできることをして、最善を尽くす。それだけだ。
「まあ、互いに頑張ろう」
「──そうだね」
そう言ってエリアは席にもたれかかる。俺もクエストの疲れがたまっていてゆっくりしたいところだが、ウィンが待っている以上、長居はできない。
「おい、休むなら家に帰っってからの方がいいぞ」
「ああ、あんたにはウィンちゃんがいるんだったねぇ。帰ろう帰ろう」
そして俺達は会計を済ませ、この場は去っていく。
俺達の先輩が多大な苦労をかけて守ってくれたこの街。
俺達も、それを踏みにじったりしないようにしっかりと守り抜いていきたい。
たとえどんな困難が待っていようとも。
数日ぶりの帰宅。
家の前に立つと、どうしても考えこんでしまう。
ウィン、しっかりしてるかな──。今にして思えば、留守にするのは間違いだったかもしれない。
けれど、ウィンは今までパーティーで「役立たず」だと言われてきたトラウマのせいで、魔法を使うことそのものにトラウマを抱えてしまっているらしい。
だから、これからは遠征とかはしないようにしよう。
ウィンにあったら、謝っておこう。結局6日間も1人にしてしまった。
この埋め合わせ、何かしてあげないと……。
そう心に決めた後、コンコンとノックをしてからドアを開けた。
ドアを開けて、ウィンに「ただいま」といった瞬間──。
「ガルド様──」
なんと俺の姿を見るなり、俺に駆け寄って抱きついてきたのだ。
「ウ、ウィン──」
「会いたかったです、ガルド様」
今までにないくらい、しがみつくようにぎゅっと強く。当然ながら、大きな胸がプルンと押し付けられる形になった。
「ずっと、さみしかったです。会いたかったです」
そう言って顔を上げ、俺に視線を合わせてきた。
悲しそうな表情で、その瞳にはうっすらと涙を浮かべている。
よほど、1人でいるのがつらかったのだろうか……。考えていれば俺がいなかった数日間、ずっと1人だったんだもんな。
どう言ったらいいかわからない。とりあえず、謝ろう。
「ウィン、ごめん……」
抱きしめながらそうささやくと、ウィンの頭をそっとなでる。
あったかいウィンの感触と、甘い彼女の香りが俺の全身を包む。
今までにないくらい気分が落ち着いて、たまっていた疲れや罪悪感、悩んでいることが溶けるように消えていく気がする。
「撫でてくれて、本当に嬉しいです」
もっとウィンのことを考えてあげなきゃ──。
悲しそうなウィンの姿を見て、俺はただウィンの髪を撫で続けた。
彼女の髪と一緒に、悲しみをほぐす様に──優しく。
「ごめんね、これからは──もっと気を遣うから」
「……ありがとうございます」
それから、シャワーを浴びた後──ウィンと一緒に寝る時間となった。
俺がベッドに腰掛けて隣にいたウィンの肩に手を貸した時──それは起こった。
突然ウィンは俺の手を離して俺の目の前に立った。
俺の方をじっと見て、ぎゅっと自分の腕を掴んだ。
びくびくと、身体が震えている。
そして……。
バサッ──。
何とウィンはいきなり服を脱ぎ始めたのだ。俺が止めようとしたころにはすでに下着姿。
「どうしたウィン。説明してくれ」
ウィンの柔らかくて暖かい肌の感触がじかに伝わる。
下着を取ろうとするウィンの手を掴んで言う。何があったのかよくわからないけど……。
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