第13話 不満


「敵の気配はない。安心して腰を下ろせるわ。皆さん、お疲れ様!」


 エリアの掛け声でこの場の雰囲気が変わる。

 張り詰めていた緊張感が和らぎ、ニナとガロはその瞬間に腰を下ろしてしまった。


 よほど体力を消耗していたのだろう。


「は──っ、ガルドさん。ありがとうございます」


 ちょこんと座っているニナが俺の足によっかかってくる。俺はゆっくりと腰を下ろし、話しかけた。


「お疲れ様。ちょっと危ない所があったけれど、よく出来たじゃん」


「ありがとうございます。でもたまたまです──。先輩の方こそすごかったですよ。あんな手際よくゴブリンたちを相手に!」


「まあ、魔王軍と戦ってた時はもっとやべー奴がわんさかいたからな」


 あの時と比べればこんなやつら、なんてことはない。


「それに、私達の事をよく気遣ってくれました。他の人は、こうも行きません。余計なことを押し付けられたくないって言って、自分の仕事範囲しかしません……」


 ニナが、しょんぼりした表情で話し始める。

 確かに、最近──冒険者達の中にそんな雰囲気はある。あまり周囲に干渉しないみたいな……。


「聞いた事はある。けどさ、俺は好きじゃないんだ、そういうの……」


「そうなんですか?」


「ああ。俺も最初は先輩たちにいろいろ教わったりして、足を引っ張ってしまうことだってあった。だから、今は俺が先輩たちに教わったように、後輩たちのためにいろいろ教えていきたい。……まあ、そんな感じだ」



 ちょっと偉そうだったかな。しんみりとした雰囲気がこの場を包む。そう思ってニナに視線を向けると


「先輩。素晴らしいです! 憧れちゃいます。すごいですね──。これから、頼りにしてもいいですか?」


 ぶりっ子のポーズで、目をギラギラとさせているニナ。すると、横からエリアが俺をからかってくる。


「おっ。ガルド君にようやくの春が来たみたいだね。お幸せに」


「そんなんじゃないから……」


 ニヤニヤと、からかうような笑みを見せるエリアに、冷静に突っ込む。

 子供みたいなからかいかたするな。



 その後、一通り休憩を終えたらこの場を去って村の人に報告。

 村人たちは村の脅威が去ったことに喜んでいた。


「ありがとうございます。これで、安心して暮らせます」


「それもこれもガルドのおかげたよ──。みんな、彼を誉めてあげてね」


 エリアが明るく言い放つ。やめろ、照れるだろ。

 それに、周囲から称賛されるのはどうも苦手だ。


 そして休養も兼ねて村で少し休んでから、街へと戻っていった。






 街に帰還した俺たち。

 ニナとガロとまずはお別れ。


 ニナはほんのりと顔を赤くして頭を下げてきた。


「ガルド先輩。今回の仕事、大変参考になりました。これからも、指導とかお願いしていいですか?」


「ああ、俺が教えられることだったら、力になるよ」


 そしてニナが顔を上げ、にこっと表情を明るくした。


「──ありがとうございます。これからも、迷惑かけちゃうかもしれませんけど、よろしくお願いしますね」


 プレッシャーがかかるな。

 そして、2人はこの場を去って行った。


 俺は家に──帰らない。先輩として、やらなければいけないことがあるからだ。







 繁華街でもかなりにぎやかなエリアにある居酒屋。

 クエスト帰りの冒険者達や、暇つぶしにだべっている市民たちがジョッキに入った酒を口にしながら談笑をしたりしている。


 俺とエリアは向かい合わせの席につく。


 反省会だ。俺もエリアも、最近の政府の動き、ギルドの空気を見て、感じることがあるからだ。

 エリアは 既に大きなチキンをむさぼりながらジョッキの酒をぐびぐびと飲んでいる。



「調子はどうだ? そっちの方は」


「……ちょっとねぇ」


 机に肘を置き、目をそらして不満たらたらそうな表情で言葉を返す。

 相変わらずのタンクトップにへそ出しスタイル。


 スタイルがいいのも相まって目のやり場に困ってしまう。俺だけじゃない、周りの冒険者や周囲の男だって、エリアと出会うとどうしても視線が胸や太ももに行ってしまう。俺まで、視線を感じるくらいだ。


 大きくため息をついて、ビールが入ったジョッキをドンと机に置いた。


「うまく、いってないみたいだね」


「よくわかるじゃない」


「態度でわかる」


 当然だ。ふてくされた様な表情でそんな仕草をしてたら、誰だってわかる。


 ましてやずっと一緒にいる俺だ。


 やはり、どこかうまくいってないみたいだ。



 エリアはジョッキのビールを飲み干し、ゴン──と床にジョッキを置いて言葉を返す。


 そしてケッ──と捨て台詞みたいな言葉を吐いて肘を机に置き、頭を押させながら話し始めた。


「ギルドの評価方式が変わったのは──知ってるわよね」


「ああ、成果主義とか言って、評価を厳しくするとか言ってたあれか」


 王国の改革派がギルドの奴らはいい思いをしているとか言って打ち出したやり方か……。

 本当は自分達の無能さを隠すため、ギルドをスケープゴートにしたというのが実情なのだ。


 王国の知り合いが言っていた。あいつら、人気を得ようとことあるごとに敵を作り、王国がうまくいってないのはそいつらのせいだと訴えているらしい。


 その結果、今まではどこか放牧的で全員で力を合わせるといった感じの雰囲気は一変。

 1人1人に重いノルマが課せられ、結果を出すことを強いられ、失敗すると厳しい叱責が待つようになってしまった。


 みんな、周囲のことを考えたり、育てたりするのをしなくなって自分のことしか考えなくなった。


 ニナも、周囲の人が教えてくれなくなったって嘆いていたっけ。

 おまけに厳しい条件になると成果をごまかしたりする人まで現れる始末。


 大きな組織ではよくあることだ。

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