第10話 勝ち筋

 翌日、朝起きて軽く食事をとる。

 魚を干したものと、汲んできた水を口に入れ、腹を満たす。


 そして──。



「さあ、行きましょう」


「そうだな」




 肉の干物の朝食を取った後、移動を開始。


 川沿いの山を下ると、見通しの広い草原が続いた。

 周囲を見回すが、敵の気配は全くない。


 そのまま道を歩きながら、俺達は会話を始めた。

 まずは、新しい冒険者二人に話しかける。


「遠征の経験とかはあるの?」


「はい。数回ほど」


「そう。やっぱ遠征は金が入っていいわよね」


 エリアが両手を頭の後ろに組み、気さくに話しかける。もちろん、楽しそうな表情をしていても警戒は怠っていない。


 周囲から気配を嗅ぎ取り、道に罠がないか警戒はしている。


「はい。最近、実入りが少なくなってるもんで──」


「そうなのか?」


 俺の踏み込んだ質問に、ニナが困った表情で答える。


「はい。報酬の相場が落ちていて──ギルドに聞いてみたら国からの資金の供給が急激に落ちているようで……」


 聞いたことはある。それで生活に困っている人がいることを──。


 みんな、大変な想いをしているというのがよく理解できた。

 少しでも、彼らが楽になるように、頼りにされるような存在になれるようになりたい。



 新しく冒険者にいろいろ質問してみる。


 そして、数時間ほど歩いていると目的の村にたどり着いた。


 貧しそうで、人気の少ない質素でのどかな村。

 中心部にある比較的大きな古びた建物に入り、白いひげを生やした長老の人に話を聞いてみた。


「あのあたりに街があったじゃろ。そのあたりにゴブリンたちがいついてのう……」


「そうですか、わかりました」


 そう言って俺達はいったん休憩をとる。

 のどかな雰囲気の村を見ながら、木の陰で座り込んで水を飲む。


 休憩を取りながら、後輩たちにこの村のことを話した。


「えっ? 先輩たちこの村来たことがあるんですか?」


「ああ、この村は、一時期魔王軍との戦いの前線基地として機能していたんだ。この先、ゴブリンたちが住んでいるって村長が言ってた場所。そこに小さな街があったんだ」


 その場所の名前はエリク。

 かつてはそこそこの規模がある街だった。しかし、魔王軍との戦いの激戦地となり、街は誰も住んでいない廃墟となってしまった。


 今も、資金不足により元居た住民は他の街で暮らし、街は廃墟のままとなっていた。




 休憩が終了し、俺達は旧エリクの街に入って行く。


 朽ち果てた建物にはすでに植物が生い茂っていて、人のいる気配は全くない。

 かつてにぎやかだったこの街を思い出しながら歩いていると、エリアが俺の肩をたたく。


「あっち、ゴブリンの気配がする」


 指差した先は、街の神殿があった場所。戦いの前、神官の人と一緒に女神さまに祈りをささげた記憶がある。


「いってみよう」


 気配に気を付けながら道を進み、元々は神殿があった場所に足を踏み入れる。


 何年も野ざらしにあったせいで建物は倒壊していた。

 屋根はすでに崩壊していて、石柱に岩壁、古びた敷石が目に付いている。


 天井が抜け落ちた場所から、ストレートに差し込んでいる陽光が照らす建物の中を歩いていると、前を歩いていたエリアが足を止めた。


「……気配がする」


 ゴブリンたちは単独では弱く、そこら辺の冒険者でも簡単に勝てるが、代わりに知能に優れ、集団戦を仕掛けてくる。



「とりあえず、ここにいるのはまずい。建物の外に出よう」



「──そうだね」


 神殿の中は廃墟になっているとはいえ、ところどころに石柱や壁があり、剣を振るには窮屈な場所もある。


 ゴブリンたちはこういった場所で集団戦を仕掛け、有利に戦いを進めてくる傾向があった。

 そして、早足で神殿から抜けると──。


「ガルドさんあれ……」


 ニナが指さした先に、棍棒を持った小柄な肉体をした生き物。ゴブリンたちの姿があった。

 物陰から数体。


 それだけじゃない。


「ガルド、気を付けて。後ろにもいるわ──」



 エリアの言葉に俺は周囲に視線を利かせる。確かに、後ろの物陰にもかなりの数のゴブリンがいる。

 ざっと、20体ほどといった所か……。

 敵意を持ってこっちをにらみつけている。戦うしかなさそうだ。


 いい機会だから、後輩たちにいろいろ教えよう。


「ちょっといいかな、歩きながら聞いてくれ」


「な、何でしょうか」


 ガロが、硬い表情で言葉を返す。


「戦いには、2つのことを意識してほしい」


「2つ……ですか?」


「1つは、自分たちの勝ち筋を通すこと。もう1つは、負け筋をつぶすこと」


 すると、ご機嫌そうにエリアが話に入ってきた。


「そう。ただ闇雲に戦ってもダメってこと。相手が何を企んでいるかを理解して、その上で自分たちは策を練って勝たなきゃダメってことよ」


「参考になります。それで、今はどうすればいいんですか?」


 ニナが弓を握り、周囲を警戒しながら言葉を返す。


「まず、相手は周囲から取り囲んで袋叩きにしようとしてる」


「ゴブリンの基本戦術ですね」


 確実にニナの言葉通りだ。

 俺達がゴブリン相手に戦っているのと同じ様に、ゴブリンだって生き残りをかけて戦っている。

 彼らだって知力を使い、俺達を出し抜こうと工夫をしている。


 この辺りに隠れていたのもそうだ。


 平野と比べて隠れる場所が多く、狭くて大きい武器を振りにくい。

 そこで四方八方から集団戦を仕掛け、有利に戦おうとしたのだろう。


 こういう時、まず袋叩きにされるという負け筋をつぶさなければならない。


「二手に分かれましょう。私とガロが後方。ガルドとニナが前方のゴブリンを相手取る。良いわね」


「わかった」







☆   ☆   ☆


 読んでいただいてありがとうございます


 よろしければ、☆を押していただけると、とても嬉しいです。


 今後の執筆のモチベーションにつながります、ぜひ応援よろしくお願いします!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る