第9話 遠征

 数日後、俺は仕事に出ることになった。何泊かする遠征なため、しばらくウィンとは会えない。


 もちろん、生活に困らないようにお金や困った時の相談役などの案内も教えた。

 ちょっと、残念そうな表情になっていた。



 街のギルドの前で、待ち合わせ。


「久しぶりー。調子はどう?」


「大丈夫だよ」


 元気に話賭けてきたのは元仲間のパーティー、エリア。


 上は胸元が見えるラフな白いシャツ。下はホットパンツに近く太ももが3分の2くらい露出している。

 相変わらずの露出度が高い、男の視線を困らせる服装。



 それから……今日は後二人、一緒に行動する人がいる。


「あの……」


「すいません──」


 後ろから、二人の人物が恐る恐るといった口調で話しかけてきた。

 弓使い。クリーム色でふわふわとした髪の女の子ニナ。もう一人は茶髪の少年槍使いのガロ。


「ニナと申します。よろしくお願いいたします」


「俺ガロ。よろしくお願いしまーす」


 2人があいさつをして、頭を下げてくる。彼らが、今回一緒に行動する人たち。


 今回はただ仕事をこなすだけではない。新人の教育係も兼ねているということだ。


 もちろん、それをするにあたってギルドから銀貨8枚ほどの手当をもらっている。

 以前よりも2割ほど削られてしまったが、今は居候を抱えている身。


 少しでも収入が欲しい、しかし……。

 ギルドで頼まれてしまったのだ。


 冒険者仲間の男。その人物がギルドから出て来てばったりと会う。


「おお、これからゴブリン退治か。偶然じゃんガルド」


「ああ、今から行くところだ」


 茶髪で長めの髪。お調子者の冒険者仲間ビッツ。

 国家魔術師をやめてから知り合い、時折一緒に仕事をしたりする友人のようなものだ。


 ビッツは気さくに肩に腕をのっけて話しかける。


「新人の教育係、よろしく頼むよ」


「わかったから離れろ──」


 そう言ってビッツの腕を肩からどける。

 面倒見も良くていい奴なのだが、なれなれしく体に触れてくるのが玉に瑕だ。


「でもありがとうな、急な仕事を引き受けてくれて。助かるよ、いつも」


「いいっていいって」


「こういう無茶ぶりな仕事の時は、頼りになるよな、お前」


 俺の肩にポンと手を置いた。

 こいつは、家族持ちの上、家のこともあるらしく遠征の仕事に行けないのだそうだ。

 だからその分そういった仕事が俺に回ってきてしまっている。


「そうだよ、ギルドのお偉いさんも、困ったときにはガルドがいるってよく言ってたよ。評判評判」


「そ、そうなのか……」


 エリアがにんまりと笑いながら言う。

 まあ、エリアが言うなら本当なのだろう。

 確かにこういう無理なスケジュールだったり、何日も遠征に出るような遠出は誰もやりたがらない。


 各々家族がいたり、危険な目にあいたくないという事情があるからだ。

 対して俺は元々独身の身。ギルド側もそれを理解していたので、こういう仕事は俺に回ってくるということだ。


 ただ次からは考え直さなきゃな……。

 今は、ウィンがいる。元々ウィンと出会う前から遠征のことは決まっていて、仕方なくウィンを一人にすることになってしまったからだ。


 しばらく家を空けることをウィンに伝えた時──。


「えっ? ガルド様家を空けるんですか?」


「ごめん。北の方でゴブリンたちが暴れていて、付近の村に被害が出ているんだ」


 ウィンは、どこか残念な表情をしていた。

 俺がいない間の生活費は渡したし、困ったときに頼れる人を教えたりもした。とはいえ、何日も家を空けるのはウィンにとってもショックだったようだ。

 その後、家事をしているときもどこか暗い様子だった。

 これからは、こういう仕事は断った方がいいのかもしれない。



「じゃあ、そろそろ出発するとしよう。準備は大丈夫?」


「だ、大丈夫です」


「私もです」


 そしてニナとガロが首を縦に振り、俺達は歩き出した。


 街を出て、平坦な草原地帯を歩き、一つ山を越える。

 途中、オークや動物たちと出会う。


 ニナとガロは最初こそ怖がっていたものの、俺が彼らと会話し、握手をして敵ではないことをアピールするとすぐに恐怖感が薄れていったのがわかる。


 そして山道を進みながらいろいろと話す。


 後輩たちの、言葉を聞くのも仕事のうちだからだ。


「さっきは、すごかったですね。オークって、人を襲う事があるって聞くじゃないですか」


「俺もそう聞きました。だから戦わなきゃって思ったのに……」


「それ、オークの性格にもよるんだよね。最初は俺も警戒してたけど、目を見て敵意が無いのがわかった」


「私も。すぐに敵じゃないと理解して武器を収めたわ」


 2人は、目をキラキラさせて俺達の話を聞く。

 確かに、人里離れた場所でオークみたいなのと出会えば誰だって警戒する。


 けれど、だからと言ってむやみに攻撃すれば相手も俺達を敵だと認識してしまい無駄な戦闘を増やしてしまう。


 むやみに攻撃的にならず、相手を見極めることが大事なのだ。

 そんな事を、2人にも話した。


 2人は、興味津々そうに話を聞いていた。


「参考になります、先輩」


「……了解です」


 そんな姿を見て、エリアはニヤニヤしながら肘で俺の腕をつついてきた。


「語るねぇ~~。せんぱ~い」


 はやし立てるような言葉に、冷静に突っ込んだ。


「うるせぇ。お前もちょっとは指導とかしろよ」




 それから、山を下ったあたりで日が暮れそうになる。

 予定した宿泊用の木造の小屋、通称「ブンブン」で一夜を過ごすこととなった。


 夜、日が暮れてたき火を消す。夜空を見ながら、ウィンのことが心配になってしまった。

 お金はおいて来たし、ウィン自身も生活力がないわけじゃ無いから大丈夫だと思うが……。


 やはり、何日も家を空けるのは良くないかもな。

 ウィン自身の精神的に、良くなかったんじゃないかとどうしても考えこんでしまう。


 結局、そのことが心残りになってしまい寝付くのに時間がかかってしまった。



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