第8話 ウィンを幸せに。そして、現実
それはウィンのいたタツワナ王国の食文化の話──。
これなら、楽しく話せそうだ。大丈夫かわからないけれど、行ってみよう。
「──料理が、まずい?」
「はい。私の生まれた国、全体的に食文化に対する意識が薄いのか──」
ウィンはシュンとしながら母国でのことを想いだす。
「まずは、フィッシュアンドチップスですね」
「聞いたことはある。あれ、美味しいよね」
白身魚を揚げて塩とかで味を付けたやつだ。以前風変わりなレストランで食べたことはあるがなかなかおいしかった。
「それくらいです。おいしいのは……」
「まずは、マーマイトという食べ物なんですけれど──」
ウィンの話によるとマーマイトというのはパンに塗る茶色い食べ物だそうだ。
「それって、ジャムみたいなもの?」
するとウィンはブルブルと顔を横に振った。嫌なものを、思い出したかのように──。
「全然違います!」
ウィンによるとまずにおいがきつい……。独特の臭みがあり、そして味。ジャムとは正反対で塩気が強く言い表すことができないような独特な味がするとか。
ウィンの家族はおいしいおいしいと言ってたが、ウィンはあまり受け付けないらしい。
もう一つはウナギのゼリー寄せという料理。
鰻という魚を水で煮込み、ゼリーにしたものでこれも魚臭くて美味しくないのだとか。
美味しくないのもそうだが、形や料理自体の外見が受け付けないと言っていた。
そのおかげでタツワナ王国はメシマズの国として周辺国からネタにされたり、他国の国王から「こんな飯がまずい国と外交が出来るか」とか言われたりしているらしい。
「だから、毎日──それなりの食事ができるようになったことは、ちょっと……嬉しいです」
ウィンがにっこりと笑った。
けれど、俺がいなかったらウィンはその喜びすらなくなってしまう。
ちゃんと、それくらいはできるようにしなきゃ。
それに、ウィンの表情が、少しだけ明るくなったのがわかる。
決して会話が得意なわけではないけれど、色々と気遣っていこう。
食事が終わると、二人で食器を片付けた後、シャワーを浴びる。
そして、就寝。
「おやすみなさい」
「おやすみです、ガルド様──」
昨日と同じように、同じベッドでぎゅっと抱き合いながら。
ウィンの温もり、大きな胸の感触を感じながら、頭の部分をぎゅっと──抱きしめる。
しかし、昨日とは違うことがある。髪を優しく撫でていると、感じた。
昨日と違って髪はサラサラのストレートになっている。エリアに手入れしてもらったおかげだ。
さらに、二日続けてシャワーを浴びたせいか、身体の清潔感もあり、綺麗になっている。
少しずつだけど、ウィンに笑顔が戻っているのが今日一日を通して理解できた。
こんな調子で、幸せになればいいなって、心から思った。
ロディニア王国、王室。
「国王様、よろしいでしょうか」
「なんじゃ」
話しかけたのは兵務大臣と担当している役人だ。
そこそこ有能で、この国の弱点や必要な事を見抜くセンスがある人。
役人はその部屋の中に、ため息をついて思わず呆れてしまう。
豪華な家具はこの国では金銀など高級品とされる材質や材料を使っていて、眩しく輝いている。
領地から贈呈された数々の備品に金銀使われた食器。そして、雄大な景色が描かれている絵画。
この王族たちの権威が現れている。
そこにいるのは白いひげを蓄えた老人。
豪華なマントを羽織り、胸のあたりには金銀で作られた勲章が何個も取り付けられている。周囲にこれでもかというくらいその権威を見せつけるような格好だ。
名前はマーズ=ソルトーン。元国王で現国王の父親だ。
老年を理由に国王の職から退いた後も、影響力は健在。
今も、何かと政務に対して口をはさみ続けている。
役人の人は言いにくそうに話しかけていた。
直角に頭を下げる。
「何じゃ役人ども。手短に要件を言え!」
「国家魔術師たちが、賃上げの要求をしています。このままではAランククラスの魔術師がやめてしまいます」
その言葉にけげんな表情をする元国王のマーズ。
そしていきなり怒鳴り声を上げ、椅子を蹴っ飛ばし怒鳴り散らし始めた。
「魔術師なんて変わりはいくらでもいるじゃろうが、これ以上経費を増やすわけにはいかん。安くコストを抑えろ!」
そして持っていた書類の束を地面にたたき落とした。
「そんな案は認めん。我が国は今苦しい。そんなわがままを言うバカ者は首にしろ」
「……わかりました」
役人は言いたかったはずの言葉をその場で飲みこみ、頭を下げた。
言いたいことはあるが、今言った所で話など聞いてくれないのは分かっていたからだ。
この国が、良くない方向へ向かっていってるのは誰からもわかっているが、誰もいうことができない。
言えばその人物が罰されたり、報復の様な人事を受けるからだ。
「いいか。今我が国の財政は厳しいのじゃ。どうせ給料を増やしたところで俺達の権威を脅かしたりするに決まってる。決して調子に乗せるな。わかったな」
「はい……」
大きな脅威が去った今、冒険者というのは大きな力を持ち、自分たちの権力を脅かしかねない存在なのだ。
四六時中国民のことをほったらかして政争争いに明け暮れ、疑心暗鬼になっている。
自分と側近のイエスマン以外の存在は敵としか認識できない状態なのだ。今の王族は……。
そして、豪勢な生活で酒と女に明け暮れている彼らは、一般層の状況を全く理解していない。
その中で自分たちの関心生活が完結してしまっているのだから当然だ。
役人は、呆れるしかなかった。王国の先は、長くないと──。
それが自分たちを破滅させることになるとは、この時は知る由もなかった。
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