第2話 上司 綾波聡
あの時、言っておけばよかった。
美咲は、今日、覚悟している。直属の上司にあたる綾波聡と午前中を共にしなければならない。機械製品を扱う会社で営業をしているが、今日は、私と綾波さんだけが内勤だ。他人にも、自分にも厳しいので鬼上司と陰では呼ばれている。一部の女子社員からはルックスがいいと評判だが、同じ部署の私からすると、寿命が縮まるよその眼光と、言いたくなる。今日は怒られないように頑張りたいが…。
私の会社では、基本的に12時から13時の間がお昼休憩となっているのでそれまでにある程度仕事を終わらす必要がある。この休憩時間をこよなく愛している。食べている時間が私にとって、なによりも幸せだ。だが、11時30分事件が起きる。
それは、ある一本の電話だった。私が見積書を作成した取引先からの電話だった。
プルルルル
「はい、カクヨム会社です。」
「〇〇商事ですが、発注お願いします。以前新商品の見積していただいて、10万3000円のものなんですが」
「新商品の発注ですね。確認いたします。」
新商品の案件、初めて1件とれたと内心ガッツポーズがでていた。チラッと綾波さんを見ると、目が合ってしまった。いつもの鋭い眼光が少し驚きの表情を見せている。やってやったぜと言いたくなるのを堪えて見積書を確認する。10万3000円…
掛け率が違う。どうしよう間違えてしまった。
「申し訳ございません。あの、新商品のXは10万3000円ではなく、15万円となっております。申し訳ございません。私が誤って見積書を作成してしまいました。」
一気に奈落の底に落とされた。私のバカ。綾波さんのほうに目を向けると、綾波さんもこっちを見ている。綾波さんの眼光が私の心臓を貫くのではないか。
「困ります。うちのお客さんにも金額を提示してしまって」
「申し訳ございません。」
「代わって」綾波さんが私に向かって驚くほど優しく声をかけた。
「担当代わりました。綾波です。申し訳ございません。何分、Xの商品にまだ慣れていないものでして、金額の変更がございますが、Xは他者に負けない商品価値がございます。もしよろしければ、〇〇商事様のお客様にも説明させていただけないでしょうか。」
「はい、分かりました。一度話し合いをさせていただきます。」
「申し訳ございません。よろしくお願いします。」
「本当に申し訳ございません。ありがとうございます。」助けてもらったことに感謝しかない。
「気をつけろよ。次からはないようにしっかり確認しろ」
「はい」
なぜだろう、綾波さん、優しかった。もっと怒られると思っていたのに。呆れられたのだろうか。
「もう、お昼にしようか」
そう言ってパソコンを閉じた。
もし赤いきつねと上司しかなかったら @mai0521
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