もし赤いきつねと上司しかなかったら

@mai0521

第1話 贈り物

 こんなことになるなら、もっともってきておけばよかった。大好きな赤いきつね。


 東京に上京して3年が経った美咲は、恋人はサンタクロースとして現れてくれないかと本気で願いながら、師走の忙しさに翻弄されている。地方大学から就職で東京にきたので何かと余裕のない忙しい毎日を送っていた。慣れない標準語や迷う路線に奮闘しながら、上司に怒られる日々も多い。それでも、めげずに頑張ってこれたのは、母からの贈り物や手紙のおかげだ。段ボールを開けたときに、最初に目に入るのはマルちゃんの赤いきつね。一番好きなカップラーメンを母はよく知っている。そして、段ボールの下の方を探ると一通の封筒。いつも、宝探しのように下のほうに隠してある。母の恥ずかしがり屋な一面をみて懐かしく思う瞬間だ。母に電話をかけた。3回のコールの後、母に繋がった。

「もしもし、美咲やで。お母さんありがとう。」

「ちゃんと届いた? 美咲の好きなもんいれといたで!しかも今回、新作のマルちゃん入ってるから食べや」

母の威勢のいい声が聞こえてくる。

「ありがとう。お母さん、いっつも新作入れてくれるよな」

「だって、美咲新作好きやん」

「よく分かってるわ!でも、たまに美味しくない新作のお菓子はいってるで」

「え、そう。送るもんは味見してから送るんやけど。もしかしたら食べかけかもしれんわ」

「うそやん。やめてよーー。」

母の笑い声と私の笑い声がシンクロする。

「お母さん、年末帰るから元気にしてて。風邪ひかんように気をつけてや」

「美咲も元気で、仕事頑張って。彼氏も期待してるわ」

「ごめん、おらんわ」

「知ってる」

また、笑っている母の声が聞こえる。

「じゃあ、元気で」

 母との電話の後は、早く帰りたくなる。母との電話が一番好きな時間かもしれない。

 女手一つで育ててくれた母に親孝行をしたいと思いながら、いつも励まされているのは私だ。

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