第51話 アメリカ留学(静香主観)

 私は、三枝 元太 を追いかけてアメリカに渡った。

 但し、それは、恋愛をするためだけではなく、以前、予定していた留学先であるハーバーライト大学で、MBAを取得する目的もあった。


 この大学はニューヨークにあり、アメリカで最難関の大学と言われている。


 何か思うところがあったのか、今回の件に関しては、父が全ての手続きをしてくれた。



 ニューヨークにある高級マンションの一室を借り、常にボディガードの身辺警護を受けて生活している。

 

 専属のボディーガードは 身長が2m近くもあるマッチョな体型の、白人のイケメン男性である。

 名前をサムと言い、年齢は30歳、アメリカ海軍のネイビーシールズ出身の、民間警備会社に所属するスペシャリストだ。


 それに彼は、昔、空手を習っていた関係で、父のことを知っていると言っていた。



 彼は、私を シズ と呼んで、親しげに接してくれるが、節度をもってキッチリと仕事をするところを見ると、信頼のできる人物のようだ。



 ご存じの通り、アメリカは銃社会である。

 ボディーガードだから、当然、銃を携帯しているが、そんなサムの姿を見るにつれ、この国の治安が悪いことを実感してしまう。


 一度、街中で、ガラの悪い連中にナンパされそうになった事があったが、直ぐにサムが来て、大柄の3人の男性を一瞬でねじ伏せた。

 凄く驚いたが、その姿を見て、なぜか元太の事を思い出してしまった。



 元太は、ワシントンにある医療研究機関に出向しているが、連絡先は分からない。


 父が、最初のきっかけを作るから、その時に、自分から聞くように言われている。

 相手の心を射止めるために、受け身ではなく、自分から積極的に行けという事なのだろう。

 私も、できる限りの事をしたいと考えている。

 


 ニューヨークとワシントンでは、距離があり簡単に会いに行けない事から、父がきっかけを作る日を心待ちにしていた。


 そんな最中、父から、突然、連絡が来た。


 3日後、元太がニューヨークに出張で来るという。その初日の夜に、高級レストランで一緒に食事をする事になったのだ。


 連絡を受けた時、私は、飛び上がって喜んだ。



◇◇◇



 大学に行く道すがら、サムが運転するリムジンの中での事である。


 この車は、運転席と私が乗る後部席が完全に仕切られていたが、装備されたリアルタイム会議システムを利用すると、映像を伴う車内通話が可能となる。


 サムは、このシステムを利用し、運転中も、頻繁に話しかけてきた。


 

「やあ、シズ。 なんか良い事でもあったのかい?」



「えっ、なんで分かるの?」


 私は、不思議に思い尋ねた。



「それだけ素敵な笑顔を、周りに振りまいていれば、誰でも気づくさ。 俺まで嬉しくなっちゃうぜ!」


 サムは、オーバージェスチャーで自分を表現して笑った。いかにもアメリカ人らしい。     



「顔に出ていた? モニター越しでも分かるの?」



「そりゃそうさ」


 サムは、得意げな表情をして見せた。



「実はね、逢いたいと思ってる人と、レストランで食事する約束をしたの」


 私が、笑顔で答えると、サムは直ぐに切り返した。



「もしかして、3日後の夜の事か?」


 

「なんで分かったの? でも、そうよね。 サムは、私の予定を全て把握してるものね。 プライバシーなんてあったものじゃないわ」


 私は、少し不満げな顔でサムを見た。



「シズの父上に頼まれているし、過分な報酬もいただいてる。 アメリカにいる間は、我慢してくれよな!」


 サムは、白い歯を見せてニカッとした。



「そうね …。 仕方ないわ。 でも、プライバシーは、私にも必要だからね」


 私は、キリッとした顔で迫った。



「シズのように美しいと、直ぐに誘拐されちゃうぞ。 父上も、その辺を分かってるから、心配なのさ …。 ところで、3日後の夜に、ゲンタ サエグサという男性と会うんだろ? どんな人物なんだ?」


 サムは、興味深そうに聞いてきた。



「うん …。 子どもの頃に憧れていた人で、久しぶりに逢うのよ。 とても素敵な人なの …」


 私は、サムを信頼する気持ちから、正直に答えた。


 すると、サムは、なぜか不機嫌そうな顔をした。



「まあ。 そいつが、どの程度の奴か見てみたいな。 君ほど美しい女性と釣り合う男は、中々いないと思う。 子どもの頃の憧れなんて、だいたいが勘違いさ。 だから、久しぶりに見ると、ガッカリしてしまうのさ。 でも、昔の記憶が強烈すぎて、勘違いと認識できない事もある。 その場合は、 …」


 サムは、珍しく黙ってしまった。



「何よ、その場合はどうするの?」



「俺が見てダメな奴なら、ボディーガードとして排除しなければならない。 それが、シズを守る事につながるからな。 あっ、出過ぎた事を言ったかもしれない」


 サムは、顔に手をあてて謝った。



「そうよ。 出過ぎてるわ。 私のプライベートにまで立ち入らないで!」


 私は、サムに分かるように、少し声を荒げた。



「OK、分かっているさ。 でもな、レストランの中も警護対象範囲だから、遠くから、シズと奴が食事するところを観察させてもらうぜ」


 サムは、冗談混じりに笑ったが、そんな彼を見て、私は、本気でムッとしていた。

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