第46話 悪友

 ところ変わり、東京でのことである。


 土曜の夜、歌舞伎町の一角で、見るからにガラの悪い男と、身なりの良い優男が、肩を並べて歩いていた。



「なあ、高校の時以来、会ってねえよな? あっ、俺は、高校を中退してたんだ。 ガハハハハ」


 ガラの悪い男が、豪快に笑った。



「ああ、凄く懐かしい。 久しぶりに会えて嬉しい」


 優男の方は、話を合わせているように見える。

 どう見ても接点が無さそうな2人は、不思議な組み合わせだ。



「しかし、おまえ。 景気良さそうだな!」


 ガラの悪い男が、優男を睨んだ。

 脅されでもしているのか、優男の方は、何となく元気がない。



「景気? 良くは無いさ。 それより、早く店に入ろう」


 2人は、場末の古いスナックに入って行った。

 ガラの悪い男と、優男、良く見ると親げにも見える。


 優男の方が、店のドアを開けると、カランカランっと鐘の鳴るような音がした。



「あら、いらっしゃい。 田所さん、今日は2人なのね」


 かなり高齢と思える、ママが声をかけた。



「打合せをしたいから、奥の個室を使っても良いかな?」


 田所は、この店の常連のようだ。

 彼は、優男のイケメンだが、似つかわしくない店に出入りをする。裏で何をしているか分からない、得体の知れないところがあった。



「どうぞ、勝手に入って。 とりあえずビールを持って行くわね」



「ああ、頼むぜ。 センキュー!」


 2人は、奥の個室に入った。



「ところで、何の用事なんだ? 俺に連絡してくるなんて、お前、勇気あるな」



「えっ、どういう意味? ただ、懐かしくて連絡しただけなのに …。 ところで、武井は、今、何をしてるんだ?」


 武井は、田所の中学時代の同級生だ。2人はつるんで悪さをしていた。

 高校は別のため、別れてから遊ぶことは無くなったが、三枝 元太に痛い目に遭わされた共通点があった。


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「恋がしたい元太」の第93話〜98話あたりを読んでみて!

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「俺は、お前と違い、ある意味要領が悪いから、転落人生さ。 だが、見方によっちゃ、出世街道まっしぐらかもな! ガハハハハ」


 武井は、豪快に笑った。



「どういう意味だよ?」



「俺には子分が12人いる。 言わなくても、何をしているか分かるだろ!」


 武井は、目をギラつかせた。

 そんな彼を見て、田所は、彼に会ったことを後悔していた。


 下手をしたら、この男のカモにされかねない。得体の知れない恐怖に、思わず顔が引きつってしまった。



「おい、田所よ。 中学時代のように連絡くれて嬉しいが、俺は時給が高えんだ。 顔見知りだから安くしてやるが、要件はなんだ? まあ、ヤベエ話なんだろうな」


 武井は、昔は誠実そうに見えたが、今や、顔に傷があるところや、黒づくめの服装からして、どう見ても、そのスジの人にしか見えない容姿となっていた。

 田所は、武井の今を知らず、昔のように連絡してしまったのだ。



「要件というのは …。 意中の女性がいてさ …。 中学の時見たいに手を借りたいんだ。 ナイト作戦さ」


 ナイト作戦とは、女子をナンパするために考え出した悪知恵だった。


 不良役が女子に絡んでいるところを、もう一方のナイト役が助ける。すると、助けられた女子は感謝してナイト役に好意を寄せる。その気持ちを利用して、恋人になるのだ。


 2人は中学の時、違う学区に移動してまで、定期的に、ナイト作戦を繰り返していた。



「ナイト作戦か! 懐かしいぜ。 ほとんどの女はイチコロだったよな」


 武井は、愉快そうに話したあと、一転して、ドスの聞いた声で続けた。



「田所、テメエ。 女に不自由している訳じゃねえだろ! どういうことか、ちゃんと説明しろ」



「ああ。 女に不自由はしてない。 だけど、初恋の相手は別だ。 俺になびいてくれないんだ。 しかも、この歳になって初恋に陥るなんて思いもしなかった。 彼女に、どうしても俺を好きになって欲しいんだ」


 田所は、助けてくれと言わんばかりに訴えた。



「初恋? 分からないぜ。 俺は、欲しければ、力づくで言うことを聞かせてきたからな。 彼氏がいれば奪い取った。 ナイト作戦は、中学のガキがやることだ。 それを、俺にやらせるのか?」


 武井は、殴りかかる勢いだ。



「マッ、待ってくれ。 俺には、武井のような行動力がない。 他に、思いつかなくてさ …。 今の話は忘れてくれ」



「ところで。 田所は、仕事は何をやってんだ?」



「親父の工場を手伝ってる。 細々とやってるんだ」


 田所は、咄嗟に嘘を吐いた。 


 大手自動車メーカーに勤めていることを明かせば、つけ入って来ると思ったからだ。

 それに、暴力団関係者と親交があることが、会社にバレるとまずいと思った。



「そうか、零細企業か。 テメエの親の家業は、まだ倒産して無かったのか。 上等学園高校出た割にゃ、その程度か。 そうか、そうか」


 武井は、田所が落ちぶれたと思ったのだろう。なぜか嬉しそうだ。



「くだらねえ話だが、付き合ってやる。 但し、俺は単価の高え人間だ。 知り合いだから安くしとくが、タダって訳には行かねえ。 そうだな、50万円で良いぜ」



「そんな金、無理だよ。 聞かなかったことにしてほしい …」


 田所は、泣きそうな声を出した。心底、恐怖を感じていたのだ。



「金なら、知り合いの金融機関を紹介してやるから安心しな。 俺は、昔から友だち思いなんだ。 誰かさん見たいに、ハイレベルの高校に行った途端、付き合いを切るなんてことはしねえからな」


 武井は、意味深な顔をして田所を見た。



「違う。 武井は、誤解してるよ。 こうして連絡したじゃないか …」



「そうだな。 誤解を消すために、50万円を用意しな! 友情の証だ、安いもんだろ」


 武井のドスの聞いた声に、田所は、ワナワナと震えていた。

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