第45話 突然の乱入者

「あのう。 鈴木座長に、聞きたいことがあります」



「突然、神妙な顔をしてどうしたの?」



「鈴木座長が、以前、誰かと間違えて …」


 俺が言いかけた、その時である。



ガラガラ



 いきなり個室の引き戸が開いた。



「貴子、やっぱりここにいたのか! 俺を誘わないなんて水臭いぞ」


 経済産業省の、末永だった。



「なんで、あんたを誘わなきゃならないの?」



「冷たいことを言うなよ。 九州時代からの、俺と貴子の仲じゃないか! あっ、百地君だっけ、君もいたんだ。 君さ〜。 選ばれてここに来てるんだから飲み歩くなんて感心しないな」


 末永は、貴子と親しいことをアピールしながら、俺に釘を刺した。


 彼の出現で、三枝 元太のことを聞きそびれてしまった。

 俺は、酔っていることもあり、怒りが込み上げてきた。



「末永さん。 俺は今、鈴木座長と大切な話をしているんです。 遠慮してください!」



「なんだと、生意気な。 酔ってるからって許さんぞ!」



「今日は、休日出勤の後、鈴木座長に誘われてここに来てるんだ。 あんたは、何の権限があって、時間外の行動まで制限するのか?」



「うッ、それは。 まあ、分かった。 俺も仲間に入れてくれよ。 なあ貴子、良いだろ?」



「百地が、了解したらね」



「百地さん、頼みます」


 末永は、先ほどと打って変わり態度を改めた。

 俺は、渋々と了解した。


 彼の態度から、貴子に気があるのは間違いない。しかし、相手にされていないのも間違いなかった。



「俺と貴子は、高校、大学と一緒だったんだ」


 末永は、ボソッとつぶやいた。



「鈴木座長は、九州博多大学の1年の時に、ハーバーライト大学に編入したから、そんなに接点となる期間はなかったのでは?」


 俺は、いきなり末永の出鼻をくじいた。



「えっ、なんで知ってんの?」



「さっき、私が話したわ」


 貴子は、淡々と答えた。



「でも、高校での接点はあった」


 末永は、貴子を縋るような目で見た。



「鈴木座長は、1年の時に転校してきたから、丸々3年間じゃ無かっただろ」


 俺は、また指摘した。



「しかも、クラスが一緒になったことも無かったわ」


 今度は、貴子がとどめを刺した。



「末永にハッキリ言うけど、私に慣れなれしくしないでくれる? 経済産業省のコーディネーターとしての業務上の関わりなら良いけど、それ以外はお断りよ。 学生時代に、会話したことさえなかったでしょ」



「すまない。 実は、昔から君に憧れていたんだ。 大学を卒業して省庁に入ってからは諦めていたけど、今回の仕事で鈴木を見て、気持ちを抑えられなくなったんだ。 言いたいことは分かったから、業務の中だけでも良いから、仲良くしてくれ。 百地君と親しげだったから、嫉妬のような感情が芽生えてしまった。 今後は、気をつけるからさ。 スマナかった」


 末永は、直ぐに謝ってきた。案外素直なのかも知れない。


 その後、3人でたわいもない話をして、しばらく飲んだが、重苦しい雰囲気を払拭できなかった。



「これにてお開き、帰るぞ! 今日は私が払う」

 

 貴子は、突然宣言したように大きな声を出した後、さっさと席を立ってしまった。


 俺と末永は、慌てて彼女の後を追った。

 貴子は、カードで支払いを済ますと無言で店を出た。そして、頼んでいたと思われるタクシーに乗り込み、サッサといなくなってしまった。




「貴子 …。 帰ってしまったな。 百地君。 俺が奢るから、次に行こう!」


 意外なことに、末永に飲みに誘われてしまった。シラフなら絶対にあり得ない相手だが、酔いもあり同意してしまった。


 2人はタクシーで移動し、繁華街にある高そうなスナックに入った。



「いらっしゃい。 まあ、良い男やね」


 50代と思しき、綺麗なママが俺を見て肩を叩いた。



「俺も、良い男だろ!」



「あらっ、失礼しました。 ほんにコチラさんもね」


 ママは、取ってつけたようなお世辞を言った。末永は、インテリっぽく見えるが、残念ながらイケメンではない。


 席に着くと、2人の若いホステスが横に座ったが、お酌をすると直ぐに違う席に移動した。俺と末永が取り残されてしまい、バツが悪くなってしまった。

 最初に口火を切ったのは末永だった。



「百地君は、背が高くイケメンだからモテるだろう。 もちろん彼女もいるよな」



「過去にはいたけど、今はいない。 フリーだ。 末永さんは、いないのか?」



「ああ、俺も大学時代にはいたが、今はいない。 君と同じで恋人募集中さ。 でもな、さっき言っちまったが …。 貴子に憧れていたってのは本当なんだ。 美人で優秀だろ、皆んなのマドンナだったよ」



「ちなみに、鈴木座長には学生時代に付き合っていた人はいたのか?」



「いないと思う。 当時から注目していたが、男の影はなかたよ。 周りからも、彼氏がいたという話を聞いたことがない。 もちろん、多くの男子学生から、告白はされていたがな」



「末永さんは、告白しなかったのか?」



「本当に好きだと、言えないものさ。 だから、自分に見合う彼女を作った。 卒業と同時に別れたけどな …」



「鈴木座長は、昔から勉強一筋なのか?」



「そうだな。 彼女は天才的に頭が良いが、勉強に対する意欲も凄いものがある。 俺も勉強はできたほうだが、彼女は別格だと思う」


 末永は、目を丸くした。


 こんな話をしていると、いつの間にかママが席に座っていた。



「話が弾んでるわね。 申し遅れたけど、私は玉木よ。 お客さんの名前を教えてちょうだい」



「俺は、末永です」



「俺は、百地です」



「今日は混んでいて申し訳ありません。 末永さん、百地さん、今度はもう少し早い時間に来ていただけると、お世話できるんですが …。 ところで、百地さんの容姿を見ていると、昔の知り合いを思い出すわ。 凄く綺麗な女性で、大そうな資産家に嫁いだんやけどね …。 その女性も、姓が百地やった」



「ママー、こっちも話があるんやけど!」


 遠くの方から、大きな声がした。



「すみませんが移動します。 ごゆっくりしてくなはれ」


 ママは、席を離れた。



「ママの知り合いが似てるって? いくら何でも作り話だろ。 イケメンはモテて良いよな」


 末永が、恨めしそうに俺を見たが、実はそれどころでなかった。

 聞く限り、ママの知り合の女性は、母としか思えなかったのだ。

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