第18話 傷ついた心

「いや、直接は知らないんだけど、名前を聞いたことがあってさ。 その〜。 三枝とは、どんな奴なんだ?」


 俺は、自分で思ってる以上に静香を好きになっていたようで、三枝 元太と言う男が気になって仕方がなかった。



「さっき、お前に雰囲気が似てると言った、一風変わった奴だよ。 そいつが三枝だ。 ところで、何で三枝の名前を知ってるんだ?」


 加藤は、不思議そうな顔をした。



「上等学園高校と聞いて、たまたま聞いた名前を思い出したんだ。 ただ、それだけだよ」


 俺の話を聞いて、加藤は悪戯っぽい顔をした。どうやら怪しんでいるようだ。



「三枝は、見た目がヤンキーなんだろ? 彼は、俺と雰囲気が似てると言ったが、見た目に関しては俺の方がマシだろ?」


 俺は、ことさらに大声で話した。



「なに、張り合ってんだよ? う〜ん。 あのファッションセンスだと、見た目は百地の方がマシかな。 でもな …。 奴は天才的に頭が良かった。 それ以外にも、誰にも負けない特技があったんだ」


 加藤は、懐かしそうに目を細めた。そしてニヤニヤして俺を見た。



「それは何だよ?」



「さあ、当てて見ろ!」



「運動ができたとか?」



「まあ、近いっちゃ近いかもな。 でも、少し違う」


 加藤は、ニヤついた。



「ヤンキーだから、ケンカっ早いのか?」



「惜しい! でも、少し違うかな。 分かんねえか。 ワハハハ」


 加藤は、愉快そうに笑った。俺は、その後、ジックリと考えたが思い浮かばなかった。



「ダメだ、降参だ。 教えてくれよ」


 俺は、加藤に手を合わせた。



「しょうがねえな …」


 加藤は、ニヤリと笑って話し始めた。



「三枝は、別にケンカっ早い訳じゃない。 それは、ケンカになった時の話なんだ。 信じられないくらいケンカが強い。 中学の頃、ケンカ屋元太と呼ばれて恐れられていた。 強気をくじき弱気を助けるといったタイプだ。 中学の頃は、男子から一目置かれていた。 だが、寡黙で口数が少なかったせいか、高校では皆から気味悪がられていた。 いや、怖がられていたと言うのが正しいかな。 俺が唯一の話し相手だったんだ」


 加藤は、自慢げな顔をした。



「加藤が唯一の友人だったのか?」



「友人て言うほどの関係じゃなかったが、俺は、奴のことを怖がってなかったし嫌いでもなかった」



「三枝がどんな奴か見て見たい。 写真とかないか?」



「卒業アルバムしかねえよ。 でも、オールバックに度付きサングラスだったから記念写真向けじゃねえな。 そういえば、あいつの素顔を見たことなかった …」


 そう言うと、加藤は俺をマジマジと見た。そして思いついたように叫んだ。



「そうか! 背格好が似てるせいかな。 やはり、百地は三枝にどことなく似てる」



「そうなのか? ところで、三枝は今どこにいるんだ?」



「あいつは、この大学の医学部にストレートで入ったが、その後どうなったか知らない。 さっきも言ったが、親しい訳じゃないんだ」



「そうか。 今度、卒業アルバムを見せてくれよ」



「ああ。 三枝が映ってるところをスマホで撮って送ってやるよ。 なぜ興味があるのか聞かないから安心しな!」


 そう言って、加藤は俺の肩を叩いた。



◇◇◇


 

 俺は、昼休みに、剛に電話した。



「百地だが、今、電話良いか?」



「ああ。 何かあったのか?」



「なあ、久しぶりに飲みに行かないか?」



「ああ、良いぜ。 それでいつ行く?」



「突然だけど、今夜はどうだ?」



「う〜ん」



「ダメか?」



「不景気で、最近は残業がないからオッケーだ! ところで、突然だが何かあったのか?」



「実は、そうなんだが。 会った時に話すよ」



「何だよ、それ。 興味ありすぎて仕事にならんぜ。 ワハハハ」


 剛は、冗談を言って笑った。その後、店の場所を決めて電話を切った。

 


◇◇◇



 午後6時過ぎ、俺は居酒屋にいた。


 剛は、約束の時間になっても来なかった。大勢の人で混み合っていたから、何か頼まないと悪いと思い中ジョッキを頼んだ。


 しばらく1人で飲んでいたが、彼はなかなか来ない。俺は、少し酔っぱらって来た。


 剛から遅れるとの電話があった後、約束の時間をだいぶ過ぎていた。



「悪い、だいぶ遅れちまった」


 剛が来た。 


 少し疲れた感じがして、気のせいか、やつれたように見える。



「突然、スマン。 先に練習してたよ」


 俺は剛の顔を見て、なぜか安心した気持ちになった。


 

「おいおい、三瓶。 ベロベロじゃねえか。 俺も、それと同じ中ジョッキを3つ頼むわ」


 剛は、ニヤニヤして言った。その後、彼は中ジョッキが来ると一気に飲み干した。



「駆けつけ3杯は、うめ〜! ところで、百地、突然、飲もうなんて珍しいな。 何かあったのか? まさか、静香とのことをノロケるつもりじゃないだろうな?」


 剛は、早くも酔いが回って来たようだ。トロンとした目で俺を見た。



「実は …」


 俺が喋ろうとしたら、剛に遮られた。



「分かってるって! あんな美女に好意を持たれて、本当に羨ましいぜ。 静香には、皆が憧れていて、俺だって好きだったんだ。 だけど、勇気がなくて告白できなかった。 お前が相手だったから諦めることができた。 じゃなきゃ、クソー」


 剛は、いきなり泣き出した。



「おい、どうしたんだ? いつもより酔いのまわりが早いな」



「そりゃ、俺だって …。 スマン、もう言わない。 お前らのことを祝福してるからな」


 剛のいきなりの態度に、俺は、静香と別れたことを言えなくなってしまった。

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