第5話 ドライブ

「じゃあ、行くわよ。 一緒に来て」 


 俺は、ガレージに案内された。


 結構広い空間に、高級車が5台も並んでいる。



「あれが、私の車よ」


 静香が指差した方向に、赤いポルシェが見えた。


 2人は、この車に近づいて行った。



「あっ、バンパーに擦った傷がある」


 俺は、気になって指差した。



「テヘッ、この前擦っちゃた。 初めてなのよ」


 静香は 笑ってごまかしたが、俺は不安になってしまった。



「この車は、パパが選んだの。 私は、小さいのにしてと言ったのに、これが良いって大きいのにされちゃった。 だから、擦っちゃたのね」


 静香は、言い訳して はにかんだ。エクボが、凄く可愛い。



「そうなのか。 最初は練習用に、中古車が良かったかもな」



「それは良い考えね。 車は新車で買うものと思い込んでたわ」



「静香の家は、気前が良いな!」



「えっ、そうなの?」


 静香は、不思議な顔をしたが、俺は、それ以上言うのをやめた。



「ところでさ。 最初は、三瓶が運転してくれない?」


 

「俺は、ペーパードライバーだから、不安だよ」



「じゃあ、家の敷地内で練習してから行こうよ。 私も練習するからさ …。 最初は三瓶が運転してね」



「分かった」


 静香の可愛い笑顔を見ていたら、つい了解してしまった。



 俺と静香は、ポルシェで 庭の通路を行ったり来たりしていた。



 しばらくして、家政婦が出てきて手を振って呼び止められた。



「お嬢様、だいじょうぶですか?」



「なんで。 どうかした かしら?」



「さっきから、行ったり来たりして、車が故障したんですか?」



「そうじゃ無いわよ。 公道へ出る前に練習してたの。 もうじき出発するわね」



「えっ、練習って、だいじょうぶですか? 運転手の、武藤を呼びましょうか?」


 家政婦は、目を細めて言った。



「いえ、その必要はないわ」


 静香は、俺をチラッと見て微笑んだ。



 家政婦がいなくなると、静香は俺を見て言った。



「ねえ、このまま道路に出ちゃて!」




「ええっ。 自信が無いよ」



「だいじょうぶ。 私が付いているから」


 静香は、自信に満ちた顔をした。



「静香も運転がカラキシなのにだいじょうぶなのか?」



「私の運転は、カラキシじゃないわ。 慣れてないだけよ。 理屈は分かってるから問題なし!」


 静香は、鼻の孔を膨らませた。案外ひょうきんな性格のようだ。



「分かった」


 俺は、諦めて車を出した。しかし、道が分からなかったので、コンビニの駐車場を見つけると直ぐに入った。



「どうしたの。 出発前の買い出し?」



「いや、実は道が分からないんだ?」



「それなら、カーナビに入力すれば良いわ」



「どうやって入力するんだ」



「簡単よ。 このボタンを押して行き先を話しかけるの」



「行き先は、内緒だから耳を押さえていて」



「だったら、車外に出るね」


 静香が車外に出たあと、行き先を入力した。



「もう良いよ」


 俺が言うと、静香は 助手席に座った。



「簡単だったでしょ」



「ああ。 いよいよ出発するぞ!」


 

「私は、湘南の海に行きたいと思ってたわ」


 静香は、申し訳なさそうに言った。



「えっ、何で分かったの?」



「ごめん、ここに」


 彼女が指差した方向を見ると、カーナビの画面に目的地が表示されていた。



◇◇◇



 その頃、高級タワーマンションの一室で、若い男女が仲良さそうに話していた。



「今日も、雅史のマンションに泊まっちゃたね。 ねえ、いっその事同棲しない?」



「沙耶香は、気が早すぎる」



「雅史は、このタワーマンションに住み続けるの?」



「いや、前にも言ったが、家の会社を継ごうと思ってるから、住み続ける事はない」



「大企業のエリートだから、辞めるには惜しいけど、実業家も魅力よね」



「まあな」


 田所は、自慢げな顔をした。



「そろそろ、結婚とか 考えないの?」



「俺は、まだ26歳だ。 身を固めるには早いさ」



「私は、良い人がいたら早く結婚したいと思ってるわ」


 沙耶香は、田所を見つめた。



「沙耶香は、まだ 22歳だろ。 それに、君ほどの美人だ。 別に焦る事はないさ」



「この前、23歳になったわ。 別に 焦ってる訳じゃないわよ。 でもね、他の言い寄る男達を断って、雅史に会ってあげてるんだからね!」



「それは、光栄な事だ」



「そういえば誕生プレゼントを貰ってないけど …」


 沙耶香は、ムッとした顔をした。



「スマンかった。 でも、沙耶香ほどの女だ。 他の奴からプレゼント貰ってるんじゃないか?」



「雅史からのプレゼントが欲しいのよ」


 沙耶香は、甘えたような声を出した。



「そうだ! いつかのストーカー男はどうした? 背が高くてイケメンだったぞ」



「誰よそれ?」


 沙耶香は、とぼけた。



「会社の前で、待ち伏せしてた奴だよ」



「知らないわ。 それより、プレゼントはどうなるの!」



「分かったよ。 この次に、会った時にな」



「必ずよ」


 沙耶香の、機嫌がなおった。


 

「なあ、今日はドライブでも行くか? 実は、営業部からモニター用の車を預かってるんだ!」



「もしかして、新発売したトヨトミ3000GTなの? メディア用に10台をモニター貸し出し したと聞いたわ」



「そうだ、そのスポーツカーだ。 雑誌社から返却されたのを、一週間預かってる」



「乗りたい!」



「分かった。 湘南の海までかっ飛ばそうぜ!」




 2人は、トヨトミ3000GTで湘南の海に向かった。


 東名高速を走っていると、前方に高級外車が見えた。



「あの赤いポルシェ、モタモタ運転してる。 ねえ、抜いちゃってよ!」


 沙耶香は、田所を焚きつけた。



「凄え! あれって、ポルシェ911GT3だ。 2,000万円以上するスポーツカーだ。 あの運転じゃ、宝の持ち腐れだな」



 田所は、アクセルを全開にしてポルシェを煽った。

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