第4話 素敵すぎる彼女

「何を食べる?」


 学食に着くと、静香に尋ねた。



「百地さんと、同じものが良いわ」



「じゃあ、カツ丼」



「うん、良いわよ」



 静香は、あまりにも美しく可愛いため、俺は極度に緊張してしまった。いつもなら、相手が好きなものを考えるのだが、気持ちに余裕がなく、つい自分の好物を言ってしまった。



「本当に、カツ丼で良いのか?」

 

 俺は、焦って聞きなおした。



「良いよ!」


 そんな俺を見て、彼女は微笑んだ。エクボが可愛いさを引き立てている。



「じゃあ、持って来るから、そこの席に座って待っていて」



「ええ、分かったわ」


 

 食券を購入し、配膳コーナーに並んでいる時に、静香の方をチラッと見た。すると 彼女は直ぐに手を振った。


 俺の方を見ていたようだ。静香の気持ちが嬉しくて、傷ついた心が癒された気がした。



「お待たせ!」



「持って来てもらって、ありがとう」



「いや、気にしないで良いよ」


 俺は、笑った。



「はい」


 静香は、お金を渡した。



「今日は、俺が払うよ」



「じゃあ、次は私が払うね」


 静香は、優しく微笑んだ。



「いただきます」


 2人は、手を合わせたあと食べ始めた。初々しくて高校生のようだ。大学院生には とても見えなかった。



「ねえ、百地さん、食べながら聞いてね」



「うん」



「私の気持ちを、佐々木君から聞いたよね」


 静香の顔は、真っ赤だ。



「ああ、聞いた。 でも、信じられない」


 俺も、緊張してきた。



「最初に見た時から、ずっと気になってたの。 でも、百地さんには彼女がいたから諦めてた。 別れたと聞いたけど 本当なの?」



「ああ、本当だ。 男を作って逃げられたんだ。 情け無いよな。 菱友さんは、凄く美人だけど俺なんかで良いのか? それに、見た目が釣り合わないだけじゃないんだ。 俺が大学院に在籍してるのは、就職できなかったからなんだ」


 俺は、下を見た。



「そんな事を言わないで! 私は、百地さんが好きよ。 それに、私も大学院に残ったわ」


 静香は、俺を励ますように優しく言った。



「菱友さんは、テレビ局からスカウトされたと聞いたよ。 なぜ、花形のマスコミに行かなかったの?」



「あれは、雑誌社主催の ミスコンで選ばれて話題性があったからなの。 でも、断ったわ。 もう少し勉強したいし、アメリカにも留学する予定だったのよ。 でも、留学はやめたわ」



「えっ、何で留学をやめたの?」



「それは、私の恋人になってくれたら教える」


 静香は、訳ありな顔をした。



「菱友さん、本当に俺で良いの?」



「私の事は、名前で呼んで」



「分かった。 静香と呼ぶよ」



「私は、百地さんの事を三瓶って呼ぶわ」



「ああ、分かった。 なあ。 その〜」



「なあに?」



「明日も昼食を一緒に食べないか?」


 俺は、思い切って聞いた。



「大歓迎よ。 でも、私の電話に出てよね」



「あっ。 もしかして、この番号なのか?」



「そうよ」


 静香は、俺を睨んだ後に笑った。



「俺は、登録した番号以外は出ない事にしてるんだ。 静香の番号は、今、登録したよ」



「ありがとう。 ところで、前の彼女の番号はどうしたの?」


 静香は、悪戯そうな顔をした。



「着信拒否にした」


 俺は、キッパリと言った。



「三瓶の前の彼女、いつもあなたの事を自慢してたけど、他に男を作るなんて最低ね。 私、正直に言うと、沙耶香さんのことが嫌いだった」


 静香が、沙耶香を悪く言うのを聞いて、なぜか嫌な気持ちになってしまった。しかし、そんな気持ちになる自分にも腹が立ってしまった。



「どうしたの?」


 彼女は、俺の気持ちを見透かしたのか、聞いてきた。



「いや、何でもない。 そんな事より週末にどこかに出かけないか?」



「良いよ。 どこにする?」



「前もって知らせないで、当日のお楽しみってのはどう?」


 俺は、ニヤついた。



「何か、企んでる? ねえ、お泊まりになるの? 勝負下着にするね」


 俺は、静香の姿を想像して顔が赤くなった。



「もう。 三瓶ったらスケベね! 冗談よ」


 静香は、悪戯っぽく笑った。あまりの可愛いさに、自分も自然と笑顔になってしまう。



「だって、想像してしまったんだよ」


 なぜか、思ってることが口から出てしまった。



「想像と同じかな、さあどうでしょう?」


 静香は、笑った。



「そんな事言うから、また想像しちゃったよ」


 俺は、言いながら恥ずかしくなった。


 そして、しばらく沈黙が続いた。



「話しが逸れちゃったね。 なんかミステリーツアー見たいでワクワクする!」


 静香は、また笑った。



 昼休みは、あっと言う間に終わった。



 研究室に戻り席に着いても、俺は 静香の可愛い顔を思い浮かべ、ついニヤついてしまう。



「おい、百地。 何の話だったんだ? 羨ましくてたまらんぜ!」


 加藤に、また冷やかされてしまった。




 翌日の昼食も、静香と学食で食べた。その日はカツ丼ではなく、スパゲッティにした。


 次の日も一緒に食べた。俺は、日を追うごとに、彼女と親しくなり、強く惹かれて行った。




 そして、日曜のデートの日になった。


 俺は、迎えに来てほしいと言われていたため、住所を見て彼女の家を訪ねた。


 彼女の家は、駅からだいぶ離れており、高級住宅街の小高い丘の上にあった。

 最寄りの駅からタクシーに乗り、30分ほどで到着した。


 そこには、大きな門扉がそそり立っていた。



「住所はここに間違いないが、本当だろうか?」


 俺は、インターホンを押した。



「菱友でございます」


 家政婦らしき人の声がした。



「百地と申します。 静香さんを迎えに来ました」



「それなら、承っております。 どうぞ中にお入りください」


 家政婦らしき人の応答の後、大きい観音開きの門が、自動的に開いた。

 

 中に入ると、広い庭があり、大きな邸宅に、道が続いていた。

 ひたすら歩き、玄関の前に着くと、再びインターホンを押した。



「三瓶、おはよう」


 いきなり応答の声がした後、直ぐに ドアが開いて、静香が出てきた。

 背が高くスタイルが良いため、普段着でもファッションモデルのように決まってる。



「どうかした?」



「いや、だいじょうぶ」


 俺は、彼女に見惚れていた事を悟られないように振る舞った。



「そうか、私の親に挨拶するとか不安に思ってた? でも、両親は不在だから安心して。 挨拶は、今度ね。 どうぞ、こちらへ」


 静香に、リビングに案内された。



「ここに座って」


 俺と静香は、並んで座った。



「三瓶は、車の免許ある?」



「ああ、就職の事を考えて、去年取った」



「じゃあ、私の車で行こうよ。 その方が楽でしょ」



「えっ凄い。 車を持ってるんだ。 運転もするのか?」



「ええ、たまに運転してるのよ」


 静香は、自慢げに答えた。



 俺は、静香がお金持ちのご令嬢だったのに驚くとともに、改めて不釣り合いな自分の事が不安になってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る