第2話

 時計の針は、のんびりと動き、お昼まであと少しと知らせています。


「では、社長。もし何も御用が無ければ、私は、これで待ち合わせ場所へ行きますが」


「はい、大丈夫ですよ。僕は、例のワゴンの続きをします。そう言えば、昨夜、僕の日記が誤動作しました。文字は浮かび出たのですが、今日は研究室から出ないので、出会いは無いと思います。もしかしたら新たなクレームが来るかもしれません」


 華さんは、可笑しそうに笑って、


「社長にもきっと良い出会いが、待っているのですよ。今日くらい街に繰り出せばどうですか?社長に良い人が出来ると、桜がやきもちで、ご機嫌ななめになりそうだけど」


 僕たちは、笑った。


「社長。私は、感謝しています。ずっと主人にべったりで、他人に関心を示さなかったあの娘が、社長と話すようになって、いろいろな物や人に興味を持つようになり、安心しています。本当にありがとうございます」


「最初から、桜ちゃんは、大丈夫ですよ。こんな素晴らしい家族がついているのです。たまたま外の世界に、興味を持つ時期だった。それだけですよ」


 華さんを送り出した僕に、その連絡が来たのは、研究室に入って一時間も経っていませんでした。


 桜ちゃんとお父さん。

 約束の時間より少し早く、華さんとの待ち合わせ場所に来ていました。


 そして、事故に巻き込まれました。


 居眠り運転の大型トラックが、センターラインをはみ出し、衝突された軽乗用車が、桜ちゃんたちに向かって、弾き飛ばされました。


 咄嗟に、お父さんは、桜ちゃんを突き飛ばし、桜ちゃんは、その時転んだの擦り傷で済みましたが、お父さんは…。


 桜ちゃんが、駆け寄った時、お父さんは、まだ息があったらしいです。


「桜、怪我は無いか?」


 目撃者によると、それが、お父さんの最後の言葉だったらしいです。

 お腹に、深々と突き刺さった車の大きな部品は、お父さんを次の世界へと運んで行ってしまいました。


 目の前で、最も愛してくれたお父さんの命が、消えていく姿を見た桜ちゃんの時間は、凍りついてしまいました。




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