凍りついた少女と記憶を運ぶワゴン

@ramia294

第1話

 僕の会社にいる経理担当は、とても優秀な方です。


 吉野よしのはなさん。

 まだまだ若いかも知れない?

 年齢ナイショのとても美しく、聡明な人。


 僕の会社は、浮き沈みが、激しく、『失恋クリーナー』や、『恋愛自動販売機』で、問題を起こした時は、夜遅くまで、残業させてしまいました。


 そんな時、優しい旦那様と可愛い娘さんが、華さんを迎えに来ます。


 旦那様は、爽やかなイケメンです。スマートな身のこなしと、ダンディーなルックスで、とてもモテるらしくて、桜ちゃんの自慢のお父さんです。


 娘さんの桜ちゃんは、ご両親の遺伝子のおかげか、まだ小学生なのに、長いまつげが、大人びた表情を引き出す、とっても美形な女の子。


「先生。また失敗しちゃったの?」


 桜ちゃんが僕を見た時のお決まりのセリフ。

 彼女は、僕の事を先生と呼びます。


「だって社長じゃ、おかしいでしょ。博士ではないよって、自分で言ってたし、お兄さんにしてはね」


 そんなこんなで、僕は、彼女に先生と呼ばれる事になりました。


 桜ちゃんは、はじける様な笑顔は、愛情という栄養で育った幸せの実を 誰より大きく育てると思っていました。


 その土曜日は、『出会い日記』で、多数の睡眠不足の方々を出してしまったので、その対応策の『お知らせ枕』の販売が好調で、ホッとした夜でした。


 研究室の机の上に放り出された試作品の日記を何気なく開くと、運命の出会いの文字が浮き上がりました。

 僕の日記なので、僕が誰かに出会うのでしょう。


 この後、僕は、新作の日記が、僕の想いとは、全く違う失敗作だった事を思い知らされます。


 僕は、少しだけ、人が幸せになるお手伝いをしようと、物作りをしてきました。


 運命の出会いは、不幸の上にも成り立つのだと、思い知らされました。


 翌朝、日曜の社内には、誰もいないはずでした。しかし、オフィスの隣にある研究室から出て来た僕は、華さんが、いつの間に出社して、既に仕事をしている姿を見つけました。


「おはようございます華さん。どうしました?今日は、日曜日ですよ」


「おはようございます社長。これまでの『出会い日記』の売り上げの差が、激し過ぎますので、少し整理しておこうと思いまして、『お知らせ枕』の申し込みも多過ぎます。わが社の限界を超えています。こちらの対応も考えませんと」


「でも、桜ちゃんお休みでしょ。母さんがいなくて、大丈夫かな?」


「大丈夫です。今日は、主人も休みですから。お昼は、家族でと、約束していますので、社長もご一緒しませんか?桜が喜びます」


「いえいえ、ご家族水入らずでどうぞ。また、桜ちゃんにお説教されます」


 桜ちゃんには、会うたび、


「先生しっかりしてね」


 そう説教されます。


「もう少し私が、お姉さんなら、先生のお嫁さんになって、お世話してあげるのに」


 まだ小学生の桜ちゃんですが、とてもしっかりしているので、将来、彼女の旦那様になる方の身を案じて、いや幸せな人生を思い描いて…、やっぱり、心配になります。


 華さんは、僕の心配事を聞くと、大笑いしながら、約束の場所へと出かけていきました。


 しかし、華さんのご家族の幸せランチは、永久に失われてしまいました。

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