天気予報の的中確率

動点t/ポテトたくさんの人

とある男の過去と現在


「あの悲惨な殺害事件から

 20年のトキが経ちました今日_______」



 


 

 ____俺は復讐を企てている。

なぜしているのだ?なぜする必要があるのだ?

そもそも誰に対してだ?そう思うだろうか。

あのときに誓った。あいつに対する……「殺気」は消えやしない。



 おおよそ20年前の話だろうか



 ある夏、7月下旬頃、学校も終業式に近づいてきて

夏休みに皆胸を踊らされる時期だった日。

当時小学5年生の俺、普段と変わりない日常が崩れ行くということをまだ知らない頃。


7時10分に母さんがいつも通り起床の優しい叱責を飛ばしてきた。

「今まで寝てるの、早く起きなさいよ。」


 いつもの如く寝室を後にし、歯磨きや着替えを済ませた。

朝飯は特製コンソメスープだった。獣のように食らい付いたのをよく覚えている。飲みほしたスープは火傷するくらい熱かった。



すると、リビング外の廊下の端から姉ちゃんが出てきた。

「おはよ〜」と寝不足気味であろう声で言ってきた。

俺ら姉弟は2歳差で歳が近いこともあってか頗る仲が良かった。両親も同様で、家族内で喧嘩はしたことがなく、子たちは反抗も喧嘩もせず誰もが望むものであった。



突然姉ちゃんが、

「昨日のテレビみた?あのドラマ!最後の決め台詞の、『悪は必ず報いを受ける』ってとこ。めっちゃかっこよかったよね!あの刑事!」

とかなり重要部分のネタバレを炸裂。

姉弟そろって刑事ドラマに熱中していた。


「おいおい、まだみてないのにネタバレするなよ…」


「あっ見てなかったの。ごめん笑笑」


「まじでさー笑笑 やってくれたなー笑笑」


とやらなんやら、他愛のない会話を繰り広げていた。



普段通り7時50分に家を出ようとした直前、ふと、

(今日の天気ってなんだろう)と思ったので、ドアノブを握る前に、母さんに、

「今日、雨って降るの?」と。

「いや、天気予報では降水確率0%らしいから____」

「へーわかった!いってきまーす!」

 無邪気な声で返事をし、家を出た。


 これが日常だったのに________


 

 

 学校の終礼のチャイムと同時にみな教室を飛び出した。

自分も帰ろうとして、門をくぐった間際、何か空が少し暗くなっていることに気づいた。黒い影が俺らの校舎上空を覆っている。


雨降らないよねーとか友達と話していた、瞬間、

俺の手の甲に冷たい何かが落ちてきたような気がした。「ん?」と思って触れてみると、


水…?


雨だった。


「あれ?天気予報外れたなぁー。」と思いながらも友達と帰っていた。

みんなとわかれて一人で路地についていると、

いよいよ本格的に雨が降り出してきた。

まずいなぁと思いながらも家まで走って帰った。


家に着く頃にはもう雨で奥の景色が見えなくなるほどであった。


周りは誰一人おらず、音は激しさを増すばかり。

曇天もより一層、この町もろとも飲み込み、支配するかの如く、たちまち広がっていった。



俺は妙な胸騒ぎを感じた。


天気予報は外れるどころか、全く逆の有様であり、

雨が降り出したのは俺が学校の門をくぐった直前であった。

まるで子どもが門から出てくる、帰りを待つ母親のように雨は降り出した気がした。


自分が_______



家へと近づくたびに______



雨の激しさは増している_______?



そんな気もしなくはなかった。天気予報は真逆の予報を発信したから。

なにか不吉なものを感じた。


気のせいやって…


気にしすぎであろうと自分に言い聞かせ、

俺はドアノブをひねった。



「ただいまー!」


普段なら返事が返ってくるのだが、反応がなかった。

トイレかな?って思ったが、違う気がする。

恐怖なほどの静寂に包まれていて、耳の中での耳鳴りが聞こえるほどだった。なにかもの寂しい気もする。


やはりさっきから何かおかしいなと思いつつも、

俺は靴を脱ぎ捨て、静かに廊下を歩いた。


廊下の軋む不快な音が耳のなかで反響される。


途端にとてつもない不安が俺を襲うような気がした。

リビングの扉の前まで、なんとか辿り着いた。

自分自身、訳の分からない不安に襲われている気がしつつも、

おれはトビラを開けた。




俺の予感は命中した。


俺は絶望した。俺は絶叫した。


これに対する「何か」が俺を襲っていたのだ。



その瞬間、窓から何か出て行くのがミえた。

「アイツ」だ。黒い服はより黒くもところどころ深紅に染まっている。


顔は一瞬だけみえた。人間は極限状態になると覚醒するようなことを姉ちゃんから聞いたことがあったが、本当らしい。


コンマ1秒にも満たない時間の中でしか見えなかった顔の特徴や配置を瞬時に暗記できた。


「アイツ」が出て行った後、なにか鉄くさくて生臭いものが鼻から俺の脳天を貫いた。

ほぼ放心状態であった意識が完全に戻った。



下を向きたくなかった。愛している家族、いや実の親が、力なく横たわり、赤黒いモノに浸っている様子を、見たいだろうか。


その現場にもいたくないだろう。


俺は死ぬ気で叫んだ。

これが全て自分の空想世界であることを祈りながら。


同時に、この記憶が消え去れと強く願うのであった。

緊張状態が極限を超越し、俺は意識を失った。



 この先のことはわからないのだが、近隣のの方々曰く、

あの後、近所の住民が異常な光景を目の当たりにし、

すぐに救急車や警察等を手配してくださったそうだ。





かの曇天の如く、容姿は「闇」。


気絶後、


暗黒の曇天の中、一本の光線が轟き、「オ」ちた。






______目が覚めると病院であろうところにいた。


看護師さんが、医院長である方を呼んでくださった。

横には号泣し、顔がぐしゃぐしゃになっている姉の姿があった。


「何があったんだ。それより母さんと父さ_____」


医院長は俺の発言を遮るように言い放った。


「僕たちは手を尽くしたのですが、ここにきたときはもう________」


黙り込んでしまった。俺は再び絶望に陥れられた。



混雑している脳内の回線の中で、一つ目立って存在していた。


「『アイツ』を殺す」


混乱の中導き出した、正解、回答がこれであった。



 姉ちゃん曰く、意識を完全失っていた俺の顔は、

絶望に駆られ、憎悪に満ちていた________

と、なんとも言葉では言い表せないような歪んだ表情であったと。

今の脳内での感情そのものが全てオモテに現れていたのだろう。



「『アイツ』を同じ殺し方で同じ苦しみ、痛み憎しみ、死への恐怖とやらを味わわせてやる」と。


医院長は重い口をゆっくりと開き、


「君たちの両親は_______2人とも胸部に2箇所、腹部3箇所刺しキズがあり、頭部は外部からの損傷が激しく、頭蓋骨は粉砕されていた。非情であった。

非常にムゴい事件だ。然しこんなことを言うのもアレだが、不幸中の幸いか、君たちに何も危害が及ばなくて本当に良かった。」



俺の心の中で後悔の念が渦巻いていた。


無力な自分自身を恨んだ。



 その後退院し、俺らは母方の妹に引き取ってもらうことになった。


仏壇の前には、母さんと父さんの遺影があった。


 今でも仏壇の前に座ると、あの苦しい記憶と、

あの覚悟を改めてはっきりと思い出させられる。



 俺たちはその後、何不自由なく生活できた。


 時は隔たり、俺も立派な成人した大人になった。

大学では人体の研究をするため、中学高校と医学の事柄についてに勤しんだ。人間の急所や、骨の硬度などを。




「いつでも、あの復讐への感情は消えやしない。あのとき、初めて人間に対して殺意が芽生えた。」



 それから、この事件は国内に留まらず、世界的に、大々的に取り上げられ、一躍有名にもなった。日本中や世界中に知れ渡ったので捜索も比較的容易になった。


「アイツ」はようやく逮捕され、裁判にかけられた。


これで事件は収束______したのだが。


然し、判決が『禁錮20年』。



………は?



要因は「アイツ」の精神状態が非常に不安定であったことだ。



「ったく、腐った世の中だ。殺人鬼をたった20年で世に再度放つと。」


__________イカれてやがる。


本来なら2人以上の殺人は死刑に課せられることがほとんどだ。なのに…


殺人の動機は法廷でこう答えていた。


「なんとなく」


「なんとなく」で2人もの魂の灯火を消し去ったのだ。なんと無責任であるか。軽々しく「なんとなく」と放った「アイツ」の思考回路を知りたい。

ちなみに、 「アイツ」と俺の両親は繋がりがないらしい。本当の気まぐれ殺人である。





 「アイツ」は今日、今釈放される。


俺はこの日を待ちに待ち望んでいた。

もうアレから20年もの月日が流れた。今やコロナウイルスやら経済混乱やら世界情勢が________とか。



だが俺には関係ない。



「イカれた、人間の底辺を這いずり回っているような『アイツ』を抹殺し、俺も消える。」


こんな世の中で生きている意味も、価値もありやしない。死にたい。


「どうせ死ぬなら、世界を震撼させるような復讐劇を人々の脳裏に焼き付かせ、自分を犠牲にしてまででも世に思い知らせるのだ。」




 殺人場所、使用武器、天候、残虐さ______時は満ちた。


今日は、天気予報によると、昼過ぎくらいから雨と。


「アイツ」が出所後、おそらく家に連れて帰られる。俺はその後ろをついてまわり、家を特定する。


そして夜、決行する。




 人々の動きが活発になる頃、朝9時、大阪のとある刑務所から「アイツ」は解放された。そこにはあの時と同じ、顔があった。

「アイツ」はマスコミに殺到されつつもなんとか車に乗り、走らせた。


俺も、後を追跡する。



 太陽の光線が乱反射し、窓をすり抜けそれ付近を燃やすような暑さの昼12時。「アイツ」の家は自分の家からはそう遠くはなかった。


俺はこのためだけに生きてきた。生涯をを全てこの復讐に捧げてきた。失敗など絶対あってはならない。

今夜12時、家にのりこむ。


あの無念が今日、「ハレ」ると思うと、胸の鼓動が速まるのが感じられる。



それから2時間後。俺は準備をし始めた。武器と、自分の家族への感謝の気持ちなどを込めた遺書をカバンの中へと押し込んだ。


このときの俺の服装は「黒い服」。



「あぁ、震えが止まらんぞ、これから自分の心と精神を崩壊させた、両親の命の灯火を根元から消し去った『アイツ』を、ついにこの手で殺れるなんて。本当に最高なものだ。」


とりあえず落ち着きを取り戻すべく、熱々のコンソメスープを一気飲みする。




「おっ、そうこうしているうちにおやつの時間かね。」

今日は最後の晩餐だと思って、お菓子は事前に大量に買い込んでいた。母や父の好きだった煎餅もこの中に含まれていた。


煎餅を一口食べる。あの甘じょっぱい砂糖醤油の味が病みつきになるなぁと物思いにふけている。と、

俺の右手に顔から滴れる雫がポタンッと落ちた。


「あれ、なんで、目からこんなに溢れ出てくるんだ。」


俺は一生涯に、サイゴに本気で泣いた。


と同時に窓の外からポツッと。雨だ。

天気予報は的中したが、少し遅れの雨。



 人々の疲労が限界に達しかける午後6時。

頭の中でイメージトレーニングを開始する。



……



全ての動作を終え、満足げに笑みを浮かべていると、雨が途端と止んだ。そろそろ睡魔に襲われそうになるので、風呂に入る。


これが人生最後の入湯かと思うとしみじみ感じるものがある。女神の涙で体全体の汗や穢れを流し、魑魅魍魎をも消し去るような聖なる泉に浸かってあがると、微生物一つ残らぬような、綺麗に体が仕上がった。


完璧のコンディションだ。



 そろそろ人々は夜の行動を開始する午後7時。

夕食を食べる。俺の大好きなハンバーグカレーと回鍋肉を食卓に並べる。椅子に腰掛けて両手の内側を合わせてこう言う。


「今夜は楽しみですね。ご馳走様ですよ、ほんと。」





 両手を合わせる。



としていると突然睡魔に襲われ、瞼という門を閉ざしてしまった。



 俺は夢をみた。どこかの家族が食卓を囲い、楽しそうに喋っているその姿は笑顔に満ち溢れている。だけどその家族は強盗に入られ、一家を全員残さず殺して逃げていった。

逃亡した犯人は虚しくも見つからず、迷宮入りの未解決事件になったと。



 とその時、意識が戻った。午後9時半。


気がつくと数時間経っていたので焦燥にかられる。

一旦落ち着きを取り戻すべく、歯磨きをし、口内をリフレッシュさせた。そろそろ決行のトキが近づいてきているので、支度を始める。忘れ物がないか荷物の中身を確認して、服装も確認して_________



 そうこうしているうちに、夜11時。

あと数分で家を発つ。今、胸の鼓動がBPM300くらいの速さまで加速するようなのを感じ取った。手足の先は小刻みに震えている。


11時21分。車に乗り込み、向かった。




今までの苦労を思い出す。これまでどんな時も復讐のために時間を要し、でもその時間は苦だとは思いもしなかった。だが今思えば苦労していたのだなと思う。


「好きでやってきたことだ。誰にも邪魔されず、自分のしたいままにすればいい。」




 11時56分、到着する。

ゆっくりと音を立てずに車から降り、家の前に移る。ドアは閉まっていたが、窓は全て網戸にしていた。愚かだ。浮かれてやがる。



 11時58分、網戸を物音を立てずに開ける。

おそらくこの静けさ的に1人であろうと推測する。

決心し、足を家の中へと持ってゆく。床に到着したので素早く身も中へといれる。


凶器のナイフとハンマーを両手に、ゆっくりと先の見えぬクラい床を一歩一歩踏みしめる。



おそらくであろうリビングの方面から声が聞こえてきた。



「次は誰を殺ろうかな??」と。



俺は目の前が赤く染まった。反省の色一つなしに、のうのうと解放されている「アイツ」を確実に仕留めようと固く誓う。



リビングであろう扉の前までついに。光が隙間から漏れている。もう後戻りもできない。震える右手をどうにか抑え、

俺はドアノブを握った。



「ガチャッ」




咄嗟に「アイツ」に襲いかかる。当の本人は困惑状態で体が硬直している。


そんなことも容赦なくハンマーを頭のてっぺんに振り下ろす。



「まっ、待ってくれ、あのときのヤツか。あのときは本当に悪かった。反省しているからたすけ_______」


人間は極限状態になると過去の記憶が瞬時に思い出される、と。



「ゴンッ」



鈍い低音とともに、「アイツ」は力なく倒れた。


怒りはそんなもので収まるわけもなく、ナイフに持ちかえ_______


腹にやられた分の2倍ほどを________


胸にも同様にし、木の棒に持ち替え、

頭部に全身全霊を込め、俺はキボウを振りオろした。





 どれだけ時間が経っただろうか。腕が疲労により動かなくなり、「アイツ」も赤黒いモノに浸っている。服は浴びすぎてボトボトになっている。


「さて、死ぬか。やるべきことは達成した。」



堂々と玄関から家を出て、車に乗り込み、自殺の名所とも言われているある橋に車を走らせる。



土砂降りの中、黒く汚れた一つの魂がこの世を後にした。




20分くらいだろうか。ある橋に着いた。

橋の真ん中に遺書を靴で固定し、身を川の中へと投じて…



落ちる瞬間に、これまでの出来事の走馬灯とともに、なにか心で渦巻く負の念が俺を襲う。




「待て、これでは結局「アイツ」がした過ちを俺が繰り返しているだけではないか。」


正義とはかけ離れた悪に、完全に支配された心はもう遅い。


悪でこの世は回っていると考えると、自分を正当化できるが、以前の自分の思想とはかけ離れたモノである。それに、「アイツ」の犯した行動をも正当化される。色々疑念が湧き出てくる。だからもう考えることをやめた。どうせ死ぬんだし。




この世から消え去れるという最期の希望を抱えつつも、昔姉ちゃんが言っていた言葉が俺の胸を貫く。




「悪は必ず報いを受ける」と。


そうだ、「アイツ」も殺人を犯した挙句、最終俺に殺されている。


ああ、この雨というのは神の涙なのか…ほんとに。


哀れみの涙か…。



「ということは、俺は_________」


「あぁ、姉ちゃんよ…家族みんな________」



 俺は荒れ狂う濁流へと入水した。















 何故だか目の前が明るい。


 だんだん…と_______。


「…ぶ…です…か…大丈…ぶですか!大丈夫ですか!!あっ目が動きました!すぐに医師をを____」





 やはりそうであったか。俺は深く絶望した。

 

 家族に合わせる顔もねぇ。


 そのまま治療を終え、退院し、俺は刑務所へと送還される。無期懲役の判決であった________








 それから獄中で俺の命が果てる約半年間、日本中毎日雨が降るという超異常気象に見舞われた。



 天気予報も虚しく外れ___________





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