第三章 凄戦

1 ハルゼー提督

 ラスタリア皇国第三艦隊は、すでに麗蘭星系内に侵攻し、王国の本星を射程にとらえ、止めの総攻撃のため、進撃を続けていた。


 第三艦隊の戦力は最新鋭の巨大戦艦バルバトスを旗艦とし、十数隻の重艦船に、数百の支援艦船を有している。

 特に、旗艦の戦艦バルバトスは、物質を分子レベルで破壊できる反陽子荷電粒子砲を搭載し、銀河最強の戦艦と言われている


 一方、平和主義を唱えていた麗蘭王国は兵器削減を行い、戦力はハルゼー第三艦隊の三分の一にも満たない、目も当てられない貧弱な戦力だった。


 そんな中、クラリス・ポートは、麗蘭の本星にもっとも近いガス惑星の衛星軌道に浮かぶ要塞で、最後の防衛線でもあったが、劣勢の麗蘭王国は戦力を本国に集中して迎え撃つため、クラリス・ポートは見捨てざるを得なかった。


 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


 第三艦隊のハルゼー提督は、クラリス・ポートを威力偵察した先遣隊が撤退したことで、慎重になっていた。


 特に、たった一機で迎え撃った白銀の戦闘艇について調べたが、何もわからない。そこでハルゼーはレオン・リーを旗艦のバルバトスに呼んだ。


「君は、あの白銀の戦闘艇と一戦交えたそうだが。その様子を教えて貰えないかね。その一機に先遣隊が撃退されたそうだが」


 ハルゼーは蓄えた髭が提督の貫録を漂わせ、艦長室の大きな席に座っている。

 一方、レオン・リーは腕を後ろに組んで、直立の姿勢で


「確かに優秀な戦闘艇ですが、先遣隊も油断していたのでしょう、所詮一機だけですから慎重に対応すれば問題ないと思います。それに、相手は戦闘のプロとは思えません」

 とは言うものの、レオン・リーは白銀の戦闘艇について多くを語らない。


「ところでハルゼー提督、この先のクラリスポートの攻略はどうされるのですか」

 ハルゼーは笑いながら


「わざわざ聞くまでもないだろう。我らは数万人の兵士と数百の艦船による機動部隊だ、二百人程度のクラリスなど眼中にはない。私は星系連合本部がある、麗欄国の攻略だけを考えている。実は、星系連合の高官と内通し、亡命を条件にいろいろ喋ってくれるよ、やつらの指揮系統は末期症状だ。これで星系連合も終わりだ」 

 話しながら、壁に掲げられている皇帝の肖像画をみつめ


「これで皇帝陛下の悲願が叶えられる。それ以上に私は、十六年前、御身を犠牲にしてラスタリア皇国を救った英雄で、個人的にも先代より大恩ある、皇妃エストナ様を亡きものにした、星系連合の鬼畜どもに鉄槌をくだすことができる! 」


 ハルゼーは興奮気味に答えるが、レオン・リーは視線をそらし

(皇帝陛下の悲願か……笑わせる)胸のなかで呟くと


「提督、現在の艦隊は補給などで戦列が間延びしていますが、当初の予定どおり先に到着した、分隊でクラリスポートを攻めるのですか」

 レオン・リーの問いかけにハルゼーは


「そのつもりだ、君の言うように、突撃挺一隻に怯えることはなかろう。分隊といえども重艦船を含めた数十隻の艦隊だ、わずか二百人のトーチカ程度の基地など相手にならない」

 誰が見ても、もっともな理由で、勝利を疑わないハルゼー。


 しかし、レオン・リーは実際に戦った感触として(只者ではない)と思っていた。


(侮ってはいけない。ミルフィーユが言っていた桁違いの演算能力、恐るべき機動性に、バリアブル・レーザ。あの白銀の戦闘艇は、数隻の重艦船相手ならば、互角の戦い……いや、凌駕するだろう。分隊にしてしまうと、各個撃破される可能性が高く、艦隊の集結を待って、全力で総攻撃すべきだ)

 そう考えたレオン・リーだが、薄ら笑みを浮かべ


「おっしゃる通り、敵はわずか二百人の基地と戦闘艇一機。そこに数万人規模の第三艦隊が束になって攻撃したなど、後世の笑いぐさです。それに、艦隊を集結させるにも時間がかかりますから、先に着いた分隊でさっさと攻め落とせばよいでしょう」


 レオン・リーは考えとは真逆な、分隊にして責めることに同意したあと


「あの白銀の戦闘艇は、いざとなれば私が撃墜します。先の戦闘では撤退命令が出たので帰還しましたが、次は必ず」

 力説するレオン・リーの返答を、満足そうに聞いたハルゼーは


「今やラスタリアのエースパイロットの君がそう言うのなら、安心した。だが、君はガルーダの皇太子でもある。無理をさせるつもりはない」


 気を使っているようなハルゼーの言葉だが、自分を積極的に出撃させないことを、手柄を立てさせないためか、まだ信用していないのかと、レオン・リーは訝っている。 


「気を使っていただくことはありません。いつでもご命令ください、ラスタリアのために命を投げうって戦う所存です」


 まるで宣誓するよう言うレオン・リーに、ハルゼーもどことなく白々しいと思ってはいるが、これまでラスタリアで、最も戦果を上げているパイロットであることも間違いない。


 ハルゼーは笑顔でうなずくと。レオン・リーは姿勢を正し

「それでは、私はこれで」


「ああ、忙しいところ、すまなかった」

 レオン・リーはしゃきっと敬礼し、ハルゼーに背を向けると部屋を出た。



 その後、レオン・リーはシャトルで自艦に戻ると

(確かに星系連合もこれほど馬鹿の集まりとは思わなかった。しかし、あの白銀の戦闘艇がどう出るか、しかもミルフィーユも乗っている。もし、出てきたら……おもしろくなる)


 その後、クラリスポートを最初に攻撃する分隊に追いつくため、自艦を加速した。

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