13 バイオメタル・インクルージョン

 その夜、ミルフィーユは兄の元を離れて初めて連絡をとり、スカーレットルナに乗り込むことを伝えた。

 ミルフィーユはレオン・リーから叱責されることを覚悟していたが、意外にもあっさりと承諾され、逆にねぎらいの言葉が返ってきた。



 翌朝、猫ウサギのノートパソコンにレオン・リーが映し出され、妹が突然に迷惑をかけたお詫びと、よろしくお願いします、との返事をエリカたちに見せると、そのビデオにエリカの目が輝いた。


「この人、ミルフィーユちゃんのお兄さん」

「はい」


 するとルナも

「うわー、イケメンじゃない。話しぶりも気品があるし、どこかの王子様みたい」


 そのとおりだと、ミルフィーユは思ったが本当のことは言えず、貿易商として紹介した。無論、戦闘したレオン・リーとは、ぜったいに言えない。


 エリカは、なぜか、もどかしい口調でミルフィーユに

「ねえ、そのー……ひょっとして、お兄さん、独身かなー」


「ええ、そうです」

「こんな、格好いい人だから、か……彼女とかいるのかなー……」

 エリカは赤くなっているのが見られないよう、横を向いて話している。


「いつも一緒にいましたけど、そんなこと聞いたことがありません」

 エリカは、よし! と小さく拳をにぎった。

 するとカイトが

「おい、色気づいてきたのか。どうみても、エリねぇとは正反対の人のように見えるが」


「ば……ばか! そんなのじゃないわよ。それに正反対とはなによ、私だってやれば出来るんだから。ほら、私みたいな貧しく、優しく、働き者で、けなげな少女が、王子様の舞踏会に魔女のかぼちゃの馬車で行く話、たしか、ツンデレラだったかな」


「…………シンデレラだろ! それに、貧しい以外はぜんぜん違うじゃないか」

 エリカは舌を出して苦笑いしている。

 そして、とにかく、なんとなく、いつのまにかミルフィーユがクルーの仲間入りすることになった。


 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


 その後、エリカはミルフィーユにスカーレットルナを見せるため、格納庫に向った。そこは、なにもない広い空の倉庫で、ミルフィーユは呆然とし

「宇宙船は………どこですか。なにもないですけど」


 エリカとカイトは倉庫の壁の隅で微笑んで見ている。ルナは倉庫の中央に進むと、手を後ろで組んで、少し恥ずかしげに


「実はね、私が宇宙船なの」


 ミルフィーユは何を言っているのかと思った。

 そこには、どこにでもいるような少女の姿で、愛らしく微笑んだルナが立っているだけだ。


 するとルナは両手をあげ、おもむろにインクルージョンを始める。

 ミルフィーユが呆然とその様子を見ていると、眼前にスカーレットルナの流れるような機体が現れた。


 ミルフィーユは、目を見開いて

「これは、バイオ・メタル・インクルージョン(生物と機械の融合)」

思わぬ展開に呆然と呟くと、考え込みながら「ということは、白銀の翼はインテリジェント・アンシラリー(生体属躰型戦闘艇)これほど完璧なものがあるなんて………」


 以前、極秘の文献で見たことがあるが、とても実現不可能で、人間を兵器にするなど、気乗りするものでもなかった。


 考え込むミルフィーユに、エリカが

「さあ、乗って」

エリカについてミルフィーユもスカーレットルナの中に入り、コックピットで空いているカイトの横の席を案内された。


 その後、カイトと、ホログラムのルナに、説明を受けながら、コンソールの端末を立ち上げた。


 正面のメインモニターと、左右の補助デスプレイが起動し、複数のキーボードと、タッチパッドにも電源がはいる。操作パネルには、船の操船もできるコントローラーなども配置されていた。


「すごい! 」

 ミルフィーユは、おもわず声をだし、手が震えた

「ルナさん…っ……使っていいですか」


「どうぞ、その前にミルフィーユちゃんも登録するね」

 すぐに、生体認証が終ると、操作ボードが反応するようになり、ミルフィーユはキーボードを叩きはじめた。その横にエリカがくると、モニターを覗き込んで


「ミルフィーユちゃん、これがわかるの」

「はい。このサブ・モニターに表示されているのはメモリー量、計算速度も、ラスタリア皇国のものとは桁違いです。これなら、どんな計算も瞬時に行える。巨大戦艦の構造計算に使う非線形有限要素法FEM解析や、銀河レベルのモンテカルロ・シミュレーションも一瞬だわ」


 エリカたちは、夢中になっているミルフィーユには何を言っても無駄。というより何を言っているのかわからないので、エリカはモニターでルナとチェスを始め、カイトは個室でギターの練習を始めた。


 エリカはモニターのチェスの盤面を見ながら

「あの子どう」


「タダ者じゃないわ。私のコンピューターをフルに使いこなしている」

「類は友を呼ぶか………」エリカはそっけなく答えながら、駒を動かすと

「はい、チェックメイト! 」

 エリカが宣言すると、ルナはあわてて


「あああ!……それ待った! 」 

「ルナは、ラスタリア皇国に勝るコンピューターでしょ。それに、コンピューターが待ったするか」

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