2 クラリスポートの危機

 クラリス・ポートに巻き上げられたジャガイモの代金のことについては解決されていない。


 難民の代表はいずれ返したいと言っているが、その宛がないどころか住む場所すらなく、ほとんどの難民がシャトルの中や、周辺に簡易なテントなどを張って住みついていた。


 エリカにカイト、そしてミルフィーユが難民の代表者達と話をしているところに、ナイト・ショーのバイト帰りのルナが疲れた表情で戻ってきた。


「ルナさん、お疲れさま」

 ミルフィーユが声をかけ、そばの自動販売機から冷えたジュースを買ってきた。ルナは微笑んで受け取ると


「ありがとう。ところで、みんなで何を話しているの」

「まあ、仕事のこととか、いろいろ」

 ルナは頷いて、ジュースを飲みながら


「そういえば、エリカの方も仕事、見つかったようね」

「うん、少しだけど貴重な再生資源の運搬の仕事がとれたよ」

 それを聞いたルナは肩を落として


「再生資源って………くず鉄でしょ。またサビサビ、ボロボロのコンテナを引っ張っていくの。あれなら、シャトルの方がましよ」

「しかたないよ、今仕事がないみたいだし」


 エリカは難民の生活費を稼ぐためミルフィーユと、質屋まわりだけでなく、運送会社に行って小荷物の運搬の仕事を探している。


 ギエス達からは「人がよすぎる」と言われたが、それができないエリカだった。

 そこに、キャンプの奥から、慌てた様子の難民が駆けてきた


「代表! 大変です」

 一緒にいた難民の代表が、どうしたことか、と聞くと

「クラリスポートを、ラスタリア皇国の第三艦隊が攻撃するらしいのです」


 すると、横のカイトが驚いた様子で

「第三艦隊と言えば、ハルゼー提督率いる、銀河最強の反陽子荷電粒子砲を搭載した、戦艦バルバトスを旗艦とする、ラスタリア皇国の主力艦隊だ! 」


「そんなのが来るの! 敵は降伏を受け入れないと言っていたし……このままだと」

 エリカが震えるように言うと、代表達も蒼白の表情だ。


 エリカ達はこれまでも兵士を連れて帰る方法を考えたが、シャトルは損傷が激しく、これ以上の異相空間転移には耐えられない。


 他に運搬できる船や、コンテナも探したが、なぜか適当な運搬船が全くない。

 さらに運送屋仲間にも聞いたが、そんな危険な場所に行く者はなく、エリカも強く頼むことができず、身動きできなかった。



 策のないエリカ達は、とりあえず宿舎に戻ることにした。

 言葉少ないエリカ達が、路地を歩いていると、急にエリカ達の前に数人の子供たちが立ちふさがった。全員難民の子供だ。


「どうしたの」

 エリカが聞くと、最年長の少女が思い切って口をひらいた。


「エリカお姉ちゃん、強いのでしょ! このまえラスタリアをやっつけたのでしょ。お願いです、お父さんを助けて! 」 


 そう言って子供達全員、腰を深く折って頭を下げた。

 突然の話に、エリカも驚いて絶句した


「お母さんたちには、エリカお姉さんに頼んではいけない、と言われたのだけど。お願いします! 麗蘭国は誰も助けにいかないみたいで、もうお姉ちゃんしかいない……」

 最後は涙ながらに話す少女に


「そんな気を使っていたの……」 

 エリカは、言葉がない。さらに、小さい子供が


「お兄ちゃんが、あそこにいるの。戦争が終わったら一緒に住む約束してるの」

 すると、横の子どもも


「この子、両親をなくして、お兄さんと二人だけなの。私もお父さんが……」

 難民には不幸な子供が多い。必死で訴える子供達に、エリカは胸が詰まる。


 そのとき、子どもの母親や大人たちが、慌てて追いかけて来た。


「やっぽりあんたたち、ここにいたの。帰りますよ」そう言って、強引に手をひきながら

「エリカさん、ごめんなさい。この子達の言ったことは気にしないでください」


 慌ただしく、子供たちを叱りながら連れて立ち去った。

 子供達は叱られることを覚悟で、エリカに直訴にきのだろう。


 エリカは俯いて拳を握って震えている。

 ルナや、ミルフィーユ達も同じだ。エリカが口を開こうとするとカイトが


「エリねぇ! いいか、助けには行かないぞ! 俺たちはあくまで運送屋だ。これは喧嘩じゃない、政治問題なんだ。わかるよな、俺たちがでしゃばっていいものではない」


「それなら見殺しにしろって、言うの」

 エリカは涙ながらに言うが


「軍隊だぞ。この前は運よく勝ったが、スカーレットルナ一機で何ができる。だいたいエリねぇは戦争は嫌なのだろ。ルナさんを戦闘機にしたくないのだろ」

 そう言うカイトも辛そうだ。


「戦争はいやよ、行きたくない。だけど……」

「それに、クラリスを助けることは、ラスタリア皇国を敵にするってことだ」


 最後は力なく言うカイトに、エリカも言い返すことが出来なかった。

 あまり感情を表さないカイトも、俯いて震えている。

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